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幕末奇譚 『志士 狂桜の宴』  作者: 夏月左桜
奇譚十二幕 塞翁之馬
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其之四 小倉口の戦い・後編

 丙寅丸へいいんまる癸亥丸(きがいまる)丙辰丸(へいしんまる)庚申丸(こうしんまる)門司(もじ)の海岸へと到着した。

 沖には砲台を搭載している和船二十隻の姿がある。


 山縣達と合流した高杉の前には、奇兵隊二個中隊、膺懲隊(ようちょうたい)二個中隊、報国隊中隊と長府藩から四個小隊、陸援隊小隊の約千名が集まった。

 和奈と武市は先に来ていた以蔵と新兵衛と共に奇兵隊に加わった。中岡は陸援隊と共に報国隊に加わっている。

「奇兵ニ個中隊を二つに分ける。一方は海岸線を進む報国隊と、もう一方は膺懲隊と一緒に峠を越えて大里へ向かってくれ」

 高杉を中心に円となり、簡単な地形を地面に書き、そこに各隊の進路を加えて行く。

 これまでに何度も開かれた地面会議である。重要な作戦会議を行っているなどとは、端から見ただけでは判らない。悪がきが集まってなにやら話し込んでいる、そんな様子である。

「俺達報国隊と一緒でいいんですよね?」

 円陣の中にいる中岡がそう言うと、ん? と考えた高杉は笑顔を浮かべた。

「峠超えしたきゃ行ってもいいぞ?」

「・・・作戦あるんだかないんだか、判らないじゃないですか、それ!」

「有るに決まってる!」

 トントンと中岡を宥めるように赤川が背中を叩く。

「小倉沖には幕艦五隻がいるが」

 山縣は完璧にその遣り取りを無視していた。ここで自分まで加われば収集が付けられないと考えたのだ。

「幕艦は同じ軍艦に任せてある。赤間関へおびき出せればこっちのもんだ」

「そんな簡単に釣れるか?」

「釣れる!」

「魚じゃないんだから・・・」

 原田はがくりと首を落とす。

「艦は艦と戦うのが本分だ。敵艦が接近して来たら、やれ急げと追撃命令を出すに決まってるだろうが」

「まあ、それはそうだが」

「ニ刻後、四隻は門司を離れる。和船と合流したら大里へ攻撃が入る。俺達はそれを合図に敵陣へ突っ込めばいい」

「やるしかないな。ああ、高杉。おまえはここで指揮を執ってくれ」

 赤川も原田も山縣の言葉に頷く。

「伝令は逐一走らせる。幕艦へ向かった艦隊と、陸戦隊への指示は頼んだぞ」

「置いてきぼりか、俺は」

「大将が堂々と先陣切ってどうする、馬鹿が」

 高杉の体調を考えての事だった。赤間関でじっとしていてほしかったのが本音だが、今更帰れとは言えないし、言ったところで素直に引き上げる男ではないと解っている。山縣なりの気遣いなのだ。

「判った」

「膺懲隊から一分隊を置いていきます。伝令でもなんでも使って下さい」

「行くぞ!!」

 高杉は悲しげな目で、駆け出て行く奇兵隊・報国隊・膺懲隊と、中岡の陸援隊は仲間の後ろ姿をしばらく見つめていた。

 

 長州軍が進軍を開始した二刻後、丙寅丸四隻は岸を離れると、沖合いにいた和船と合流した。

「福原、桂と山田に合図を出せ!」

 河野が大きな声で指示を飛ばす。その三人は、癸亥丸艦長の福原清介、丙辰丸艦長の桂右衛門、庚申丸艦長の山田鴻二郎らである。丙辰丸初代館長は、あの松島剛蔵だ。医者としての腕をかわれ、艦長を辞職し藩抱えとなったため、後任として桂右衛門が就いていた。

 そして各艦の砲塔が開いた後、彦島砲台からも大里(だいり)へ向けて一斉に砲撃が開始された。


 

 田野浦より撤退した一番備・六番備対は富野の手前で海岸と藤松の二手に分かれ陣を構えていた。

 小倉城手前にある馬借には征長軍が布陣を敷き、小倉沖には富士山丸を含む五隻の艦隊が停泊しているが、富士山丸は夜襲を受けて陸に近い所まで後退している。


 海岸沿いには、総指揮を執る小倉藩を始め、九州諸藩が、幕府千人隊と共に守りを固めていた。


 だが、諸藩は必ずしもこの戦に対して積極的に兵を出して来た訳ではない。

 要とも言える薩摩藩が幕府からの命に対して出兵を拒否を示し、参戦していないのである

 大島口での松山藩による非道行為も九州にまで伝わって来ている。武士にそぐわぬ行為と、眉を顰める者も少なくはなく、戦意を奮い立たせるどころか、自然と諸藩の足並みが不揃になってしまった。


 島村とて醜聞を知らぬ訳でない。だからと長州に屈するのもまた、できない行為なのだ。

「渋田見殿と中野殿への伝令は欠かすな」

 砲撃隊との連携を上手く取る事ができれば、たかだか数百の歩兵になど負けはしない。敵が緻密に策を練ってくるのであれば、自分達も同じ事をすればいい、島村はそう考えた。

 ゆえに、六番備の小笠原織衛との連絡も密にしなくてはならない。

「死に早ってはならぬ」

 島村は兵達にそう告げた。

 小倉本陣は、小笠原の命により待機を命じられていたため、即座に動ける状態ではない。ロッシュから送られてくる武器はまだ届いていないのだ。

 長州軍に対応しなければならなくなったのは、九州諸藩と一番から六番備の小倉藩だけとなっていた。

 数万の軍勢だが、敵を侮ることはできない。これまでの戦果がそう示している。

「気を引き締めんとな」

 口を開いた直後、大きな爆音が轟き渡った。

「なんだ!?」

 驚いたのは島村ばかりではない。周りに居た兵士も何事かと視線を巡らせている。

「敵襲!!」

 誰かがそう叫んだ。

「配置へつけ!」

 突然の砲撃に右往左往しつつ、島村の命で兵士達は陣内を駆け回っていく。

「砲撃始め!!」

 島村は野戦砲の一斉砲撃を命じた。



 一番備へ突撃したところへ砲弾が着弾し、山縣は隊を止めざるを得なかった。砲弾が降り注いでは隊を前進させる事ができないのである。

「相手は旧式の野戦砲だ。次の砲撃までにはまだ間がある。詰めるぞ!」

 この判断は武器に精通する山縣であるから出せたものだ。

 旧式の大砲は、一度撃つと次に弾を込める迄時間がかかる。筒内を掃除して、推進力を生み出す薬包(火薬袋)を詰めて、その上から砲弾を筒内へと装填しなくてはならない。それが終っても今度は狙いを定める作業があるのだ。

 その合間に隊をこつこつと前進させては、また砲撃を凌ぐ。砲撃が止めばまた進む。それを何度も繰り返す地道な進軍となった。


 徐々に前線を上げてくる長州軍に、島村も目を見張るしかない。

「怯むな! 敵はたかだか一個中隊!」

 自軍を壊滅させては意味がない、よって沖からの砲撃はそうないと島村は判断した。

 だが時間のかかる野戦砲では、完全に奇兵隊の足を止める事はできない。

 そこへ報国隊が加わり戦況が変わった。ミニエー銃を構えた銃兵が、一番備へと銃撃を開始したのである。

 これには島村も血相を変えた。弾の装填速度が和銃の比ではないのだ。

 落ち着いて構えた銃を撃っていく長州軍により、一人、また一人と小倉兵が倒れていく。

 その合間を縫うように、剣を手にした歩兵が斬り込んだ。

「砲撃手から行くぞ」

 武市の声で、二分隊ほどが野戦砲を構える小倉兵へと走り出す。砲塔を押さえれば、後続できた報国隊も前へと出れる。

 小倉兵とて、そう易々と武市達を砲台へは近寄らせてくれない。

「退け!」

 片手で薙ぎに払った剣を、両手で持ち直しながら和奈は小倉兵に叫んだ。高杉が新地会所でやって見せた事だ。退かなければ斬るしかない。

「あの馬鹿!」

 突っ込んでいく和奈の後ろを以蔵が追う。

「くっ!」

 敵兵に阻まれ、武市と新兵衛はそれを見るだけとなっている。

「銃兵を前進させろ!」

 山縣が叫んだ。

 隊列を一列に取った銃兵が一斉に銃を構え、敵兵へ狙いを定めて引き金を引いて行く。

 引く素振りを見せない島村は、六番備へ伝令を走らせ連携を執る事も失念していない。だが、長州兵は一向に怯む事なく向かって来る。

「数の差など考えぬか」

 味方の砲台も一つずつ沈黙を始めている。ましてここは楯となる障害物が少ない。猛進してくる敵兵に、一番備は次第に防戦一方となって行った。

「これまでか・・・全員に伝えよ! 六番備と合流する!」

 六番備と共に陣を構えた方が良かったのではと、島村は隊を分けたことを後悔した。たが、長州軍の勢いがこれほどであるとは、知らなかったのだ。今更後悔しても始まらない。


 一番備が陣を崩し、海岸から藤坂へと後退すると、山縣は隊を集めた。

「膺懲隊へ伝令を飛ばせ」

「間に合いますかね」

 息が荒いまま原田が言った。

「あの甲冑だ、進む速さは我らの方が上だ」

 ここでも身軽な長州軍に利がある。

「負傷兵を集めたら楠原村へ後退させろ」

「挟み撃ちにしなくていいのか?」

「手負いを抱えているんだ。赤川達でなんとかなるだろう」

 まずは高杉に伝令を送り、負傷兵ほ後退さる方が先決と山縣は言った。

「あっちも揉めているようだしな」

 視線を向けた先では、和奈に食って掛かっている以蔵の姿があった。

「馬鹿か!」

「馬鹿じゃありません!」

「なら阿呆だ!」

 以蔵の顔がくっつきそうなところまで近寄ってきた。

「新之助が怒鳴るのも無理はないがな」

 その襟首を武市が後ろへ引っ張った。

「った! 先生?」

「落ち着け。こいつの独走は今に始まったことじゃない。乱戦となればなおさらだ」

「京の町で浪士相手に斬り合うのとは違うんですよ!?」

 そんなこと、和奈も判っていると武市は言った。

「どういう心境の変化ですか?」

 新兵衛も突っ込まざるを得なかった。

「桂さんが戦に出さぬと言ったのに、それを推して出したのは高杉くんだ。色々と事情がある。が、新之助の心配は当然だぞ、和太郎」

「・・・すいません」

 はぁ~。っとため息を漏らす以蔵は、その場に座り込んでしまった。

「そんなに死にたいなら好きにしろ」

「死ぬつもりなんて、ないですよ」

 その前に和奈もドタッっと腰を下ろす。

「心配かけて、すみまません」

「ふん・・・そう思うならもっと自重しろ、馬鹿が」

 ゴンッ! と以蔵の頭に武市の拳が落ちた。

「っう!」

「馬鹿馬鹿と、連呼すればいいと言うものではない」

「先生はこいつに甘すぎる」

「そうだな」

 笑った武市に、以蔵も仕方なく笑みを浮かべた。


 山縣達と別れた赤川の膺懲隊も、小笠原織衛の六番備と交戦を開始していた。

「伝令!」

 山間を駆けて来た奇兵隊隊士が、隊の真ん中にいる赤川へと走り寄る。

「追われてくるか」

「はっ」

 赤川は一番備に対応させるべく二分隊分け、溜池土堤を小楯に見立て銃兵を配置させた。


 六番備の陣地は彦島からの砲撃によって、町の至るところに火の手が上がっていた。まだ大砲の音も轟いて砲撃は止んでいない。町を覆うように黒烟天(こくえんてん)を焦がす勢いで立蔽(たちおお)い、強風に煽られて火も四方へと燃え広がり始めていた。


 この煙は小笠原にとって厄介となった。

「視界が・・・」

 小笠原の前には白黒、灰色の入り混じった煙が立ち込めている。

「なぜ奴らはこの中で戦える!」

 浮き足立った六番備へ、島村の一番備がようやくの事で合流を果たしたが、見て取る状況は良いものではない。

「島村殿!」

 姿を認めた小笠原が駆け寄って来る。

「これでは戦になりませぬ!」

「沖の幕艦も動いておらではな。小笠原殿、ここは大谷口へ退き二番・四番備と合流致しましょう」

 大谷口には九州最強と謳われる肥後細川藩が八門の砲台を構えている。この八門のうち四門までが後装式百十ポンドのアームストロング砲であり、持つ銃は長州と同じくミニエー銃だった。

 合流すれば自軍の数も増す。長州軍に薄氷(はくひょう)を履ませようと島村は考えた。

 持ちえる戦術を、今の戦に当てはめることができないと悟った小笠原も、島村の意見に同意した。

 応援の兵もなく、味方である幕艦隊が彦島砲台を黙らせることもないではどうしようもない。

「兵を集めよ! 応戦しつつ大谷峠まで退却する!」


 島村を後退させた山縣は一気に小倉城まで攻め込もうと、赤坂口へと向かった。

 だが、低い山を越えた赤坂口では二番備大将渋田見舎人(しぶたみ とねり)と、四番備大将中野一学、八門の大砲に足を止められ、小倉城を前にして長州軍は肥後藩の猛撃により硬直状態となった。


 長州軍と交戦しているのは肥後細川藩と小倉藩だけとなっている。動かない征長軍と、戦時下にあるというのに待機命令が出されたまま未だなんの音沙汰も届かない事に、小笠原への不信感を抱いた九州諸隊は傍観の態度をとってしまった。

 島村達を追いかけて来た膺懲隊と陸援隊も加わったが戦況は変わらない。

「アームストロングか」

「なんですか、それ!」

 中岡が聞きなれない言葉にそう叫んだ。

「野戦砲など足元に及ばん英吉利の大砲だ。弾の装填速度は十分の一に短縮されてる」

 げっ、と蛙の様な声を上げてしまう。

「あれを黙らせんと、ここから進めんぞ」

 味方にも次第に被害が広がっている。大里でとった作戦は功を奏するどろか、実行する間がない。

「斬り込むしかないな」

 ぼそりと原田が呟いた声が耳に届く。

 周りを見回した和奈の目には、増えていく死体だけが映った。

 ざわりと気が揺れる。

(駄目だ・・・駄目・・・)

 同じ事を繰り返してはいけない。

 そう考えた直後、【思考】という脳の働きが止まった。

「村木!?」

 原田の声に、武市が、以蔵が振り返る。

「和太郎!」

 和奈は低姿勢のまま敵軍へと駆け出してしまっていた。

「追う!」

 武市が即座に動き、以蔵と新兵衛もその後に続いて走り出した。

「何をしようって言うんだ!?」 

 赤川も驚愕したまま前を見つめている。

「援護射撃をせんか!」

 山縣が怒鳴り声を上げると、銃兵が隊列を整え援護に入り、砲台が前へ押しやられて来ると敵砲台へ向けて砲撃が開始された。

「なんで無茶ばっかする奴らが多いんだ!!」

 そう山縣は怒鳴らずには居られなかった。

「間を作らず砲撃は交互に行え! 全軍前進!」


 

 一番・六番備は、急に戦線を上げた出した長州軍の勢いに圧される形で、二番・四番備まで後退した。

 狙撃隊の銃兵がそこへ砲撃を加え、膠着していた局面が動き出した。

「こうも士気を上げるものなのか!」

 劣勢となり始めた形勢に舌を打ったその目に、アームストロング砲の周りで舞う剣閃が映る。

「馬鹿な・・・」

 双方の銃弾が飛び交っているというのに弾にも当たらず、一手ごと確実に剣をかわしている。

「島村殿!」

 渋田見が島村の袖を引っ張った。

「なにか!」

 声をなくし、血相を変えてしまっている渋田見の視線を辿った島村は、そこに信じられない光景を見た。

「なぜ・・・だ・・・」

 守らねばならぬはずの小倉城が、赤く染まっていた。



 芸州の時と同じだった。剣を振るう和奈には、人を斬る時の躊躇が全く見えない。

 敵兵は進み来る和奈に剣を振るうが、どの太刀もその体に当たる事なく、反対に首や手足を切り落とされて行く。

「ひいぃ!」

 動揺と恐怖がその場を支配した。

「何なんだ一体!」

 原田は、これまでに見たどの剣客にも感じ取れなかった恐怖に、背筋を凍らせた。

「その馬鹿を連れて早く退いて下さい!」

 以蔵が和奈と敵兵の間に入り、前を向いたまま叫んだ。

「それが、できれば!」

 和奈はするりと身を交わし、砲塔のある方へと走り出してしまった。

 駆けつけた中岡らの陸援隊と報国隊一個中隊は後方から援護を受けつつ敵陣の真ん中に斬り込んでいた。

 アームストロング砲の傍らで全身血に塗れ、下げた剣を見下ろす和奈に追いついた武市は、周りの敵兵を薙ぎ払いつつその背に自分の背を付ける。

「正気か!」

 返事はない。

「くそっ!」

 武市が和奈の両肩を掴み、前後に揺さぶる。

「おい! 確りしろ!」

 ゆるりと和奈の虚ろな双眸が武市を捉えた。

「心して聞かれよ。こが者が魂には、狂気が混じる」

 以蔵と新兵衛の気配が近づいて来る。

「貴方は・・・吉田松陰殿・・・なのか?」

「こが者が魂の一つ、彼が者が想魂に導かれし吾の想。想は片や狂気、片や信念と相成りし。心得肝に命じよ。悪しき路辿りし吾が想止める為其の魂救われしと」

「何ゆえ、この者に?」

「理が違った故。多く語る事あれど、吾にもこが魂にも時は残されておらず」

 喧騒がいつのまにか途絶えていると、気付いた以蔵は視線を後ろへ向けた。

「先生! 敵兵が後退を!」

 和奈が腕を上げて一点を指差した。

「小倉城が・・・燃えている・・・」

 小笠原によって小倉城自焼が決定されたと知った島村は、呼野方面にある金辺(きべ)峠を拠点とし、長州軍から郷土を守る、その一点を掲げ反撃に出るため農兵を集めた。

「わが藩は連戦連敗して来た。しかも昨日の城自焼はわが藩始まって以来の屈辱である。今、われらは堪えねばならぬ。敗因は小笠原であり、他藩の助力を願ったことに在る。だがここに我は宣言致す。戦を勝ち取るのは他人の力ではなく己自身の力だ。祖国を守るという心だ」

 もはや幕府の命で動いているのではない。島村の語る言葉強く響いた。

「皆も我も、長州と同じ姿、形をした人間である。一人一人の力は弱い。が、一人が十人に、十人が百人になればその力は強大となる。それは長州を見れは自ずと判ろう。五万の兵を千の兵を持って退けたのは、まさに一丸となった者の力である。我らもここで負けてはおられぬ。今こそ皆の力を一つとし、祖先が眠るこの地を、藩を長州より取り戻すため最後の一人となろうとも戦い抜いて見せるのだ!」

 その言葉通り限界まで戦ったが、長州軍の進軍を退ける事ができず、島村は金辺峠から退いた。



 小倉口での戦いは薩摩藩が仲介に入り、小倉藩と長州藩間で停戦協定が締結された。



 白石邸に尼僧が訪ねて来た。名を野村望東尼と言い、勤皇家であり志士を匿ったり、その密会の場所などを提供していた尼僧だ。

 慶応元年十月、尊王攘派を匿ったとして姫島へ島流しとなっていたが、高杉の命を受けた福岡脱藩志士藤四郎と多田荘蔵らが手引きし、脱出後した足で赤間関へとやって来たのである。

「また会えて嬉しい限りにでございます」

「本当に無茶をなさること」

「それが俺です、望東尼様」

 布団の中から覗く笑顔に、望東尼も微笑を見せた。

「白石殿がしばらく住まいを貸してくれるそうです」

「一つ、頼みが出来ました。どうか聞き届けて頂きたい」

 望東尼は、快く引き受けさせて頂きましょうと、高杉の話しを聞き始めた。

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