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異世界農業開拓記 冬の悪魔草と呼ばれるのは?

53歳の農業試験官が、転生、15歳の男爵3男坊になり、

貧しい男爵領を救い、仲間になる転生者たちと出会い、

第1次産業革命を飛ばし、自然エネルギーを中心として起こす

産業革命と、緩やかな民主化を推し進めて国の発展をめざす!

華々しき「悪魔」との出会い


館の前庭には、豪奢な馬車を連ねた王都の

商人・オルバ率いる交易商隊が到着していた。

出迎えた父・ベルグフェルド男爵と長男クラウスに対し、

商人オルバは揉み手をしながら珍品を並べている。


「男爵様、本日は王都でも

滅多にお目にかかれぬ珍品・奇品をお持ちしましたぞ!

……しかし、この北方の寒冷地では、

さすがにこれはお役に立ちませぬかな」

オルバが勿体ぶって布を払うと、

そこにはゴツゴツとした暗褐色の泥だらけの

「謎の塊」が木箱いっぱいに詰まっていた。

「……む? これは芋のようだが……随分と不格好だな」


クラウスが眼鏡を指で押し上げながら覗き込む。

オルバは苦笑いを浮かべて首を振った。

「これは極北の凍土に住む狩猟民族から買い取った

『氷原の悪魔』と呼ばれる代物でしてね。

どれほど凍てつく貧しい土でも勝手に増える恐ろしい生命力を持つのですが……

生でかじれば苦く、緑色の芽を食べた者が激しい腹痛を起こしたため、

『呪われた毒草』として誰も見向きもしないゴミ同然の品なのです」


「ほう……毒草か。ならば我が領でも使い道はないな」

男爵が興味を失いかけた、その時だった。

「待ってください! オルバさん、

その『氷原の悪魔』、僕にすべて譲っていただけませんか!?」

凛とした声が響き、ユージーンが人込みを割って前に躍り出た。


「ユージーン……? 毒草など買ってどうするのだ?」

驚く父やクラウスをよそに、

ユージーンは木箱の中のゴツゴツとした泥の塊をそっと持ち上げた。


泥を指で拭うと、中から現れたのは、

しっとりとした薄黄色の皮膚。

(間違いない……! ソラナム・ツベロサム……ジャガイモ(馬鈴薯)だ!

生え芽の毒(ソラニン)の知識がないから毒草扱いされていたんだな!)

ユージーンの胸の中で、雷が落ちたような衝撃と歓喜が走った。

ジャガイモ。


それはかつて南米のアノ高地で生まれ、

ヨーロッパの飢饉を幾度となく救った

「人類史上最強の地下の太陽」だ。


寒冷で酸性土壌のベルグフェルド領において、

これ以上完璧な作物は存在しない!

「ユージーン様、こんな泥の塊など何の価値も……」

「オルバさん! これは毒の塊なんかじゃない。

正しい調理法と育て方を知れば、

一粒の種から何十倍もの実をつけ、

どんな飢饉からも領民を守る

『黄金の地の果実』になるんだ!」

ユージーンは胸を張り、大勢の給仕や護衛、

農民たちが見守る前で堂々と宣言した。


「父上、クラウス兄さん! 僕の小遣いと、

テストフィールドの予備費でこれをすべて買い取らせてください!

来年の春、この『氷原の悪魔』がどれほど素晴らしい

宝物に化けるか、僕が証明してみせます!」


十五歳の青年の、あまりにも堂々とした情熱と確信に満ちた言葉。

商人オルバはあっけにとられ、

父男爵は深々と髭を蓄えた口元を緩めた。

「……面白い! ユージーンがそこまで言うのだ、オルバ殿、

その木箱をすべて買おう!」

「は、ははっ! 毎度ありでございます……!」


こうして、異世界において「毒草」と蔑まれていたジャガイモは、

ユージーンの手によって華々しく歴史の表舞台へと引き上げられたのだった。


八、森の宝物と「出汁(ダシ)」の魔術


ジャガイモの種芋(たねいも)を手に入れたユージーンは、

すぐにテストフィールドでの栽培準備に入った。


緑色の芽を丁寧に取り除き、二つに切り分けた切り口に、

灰(木灰)を塗って腐敗を防ぐ。

現代農業の基本中の基本だが、

これを見たゴードンたちは

「切り口に灰を塗るなんて!」と目を丸くしていた。


「よし、植え付けは完了だ。……さて、

次は採れたてのサンプル芋を使って、

みんなを唸らせる料理を作るとしよう!」

ユージーンはそう言うと、籠を担いで裏山の深林へと向かった。


目的は、料理の味を劇的に変える「旨味(うまみ)」の抽出である。

山あいの清らかな沢沿いには、

ナラやクヌギの倒木にぎっしりと生えた野生の

干しカサの大きいキノコ(椎茸やポルチーニの類)が自生していた。

(よしよし、立派なキノコだ!

これを日陰でしっかり乾かせば、

旨味成分の『グアニル酸』が爆発的に増えるんだ!)


さらに、清流で獲れる小さな川魚の干物と、

山で採れる香草(ハーブ)を組み合わせる。

館の厨房に戻ったユージーンは、

天日干しにしていたキノコと

川魚の干物を水に浸し、

じっくりと弱火で煮出していった。


「……ん? ユージーン様、また何か怪しいものを煮込んでいるのですか?」

呆れ顔で覗き込んだ料理長マルタが、

鍋から立ち上る湯気を吸い込んだ瞬間、

ピクッと眉を動かした。


「……な、なんですかこの香り!?

黄金色に透き通ったお湯から、鼻をくすぐる深い旨味の香りが……!

塩も砂糖も入れていないのに、なぜこんなに豊かな匂いがするのです!?」

「フフフ、これが日本の食文化の真髄……『出汁(ダシ)』だよ、マルタ」

ユージーンは誇らしげに微笑んだ。


キノコのグアニル酸と、魚・肉のグルタミン酸やイノシン酸が合わさることで、

旨味は掛け算(相乗効果)を起こす。魔法を使わぬ、

純粋な化学と自然の相乗効果だ。


ユージーンはこの極上の「きのこ出汁」をベースに、

素揚げにしたホクホクのジャガイモ、自家製の山羊バター、

そして少量の塩でじっくり煮込んだ『出汁ジャガバター煮込み』と

濃厚な『きのこ出汁の黄金ポタージュ』を作り上げた。


九、食卓の歓喜と、黄金のポタージュ


「お兄ちゃん、今日のごはん、

お部屋の外まで良い匂いがしてたよ!」

晩餐会の席で、十歳のマリアンヌが

待ちきれない様子でスプーンを握りしめている。

母マリオネット、父男爵、長男クラウス、

次男ラインハルトが揃う中、

ユージーン手作りのスープ皿が配られた。


黄金色に輝く、トロリとした濃厚なポタージュスープ。

その上には、香ばしく炒めたきのこの微塵切りが添えられている。


「父上、母上。昼間買い取った『氷原の悪魔』……

改め『ジャガイモ』と、裏山のきのこから引いた

『お出汁』で作ったポタージュです。

召し上がってください」


「ふむ……あの毒草と呼ばれていた芋か」

男爵がそっとスプーンですくい、口へと運ぶ。

次の瞬間??男爵の動きがピタリと止まった。


「……っ!? な、なんだこの深い味わいは……ッ!?」

男爵の叫びに合わせ、一斉にスープを口にした家族全員の顔色が変わった。


「う、美味い……! なんだこのスープは!

トロリと口の中で溶ける芋の優しい甘みと、

舌の奥にじわぁぁぁっと広がる濃厚な

『旨味』は……ッ! 腹の底から温まるぞ!」

次男のラインハルトが、

お代わりを叫ぶ勢いでスープを飲み干す。


「美味しい……! ユージーンお兄ちゃん、

これすごく美味しいよ! お腹がぽかぽかする!」

マリアンヌは目を輝かせ、

口のまわりに黄金色のスープをつけながら大はしゃぎだ。


母マリオネットは、スプーンで一口一口を慈しむように味わい、

うっとりと頬を緩めた。

「まあ……なんて奥深くて優しいお味でしょう。

お野菜とお魚の旨味が、お芋の甘みと混ざり合って……

心が洗われるようですわ。

ユージーン、このお出汁というものは、本当に素晴らしい魔法ね」


「魔法じゃないよ、母上。

きのこともみ殻、魚の命がくれた自然の恵みさ」

ユージーンが優しく答えると、長男クラウスが

深々と感嘆の息を吐き出した。


「……信じられん。あの悪名高き『氷原の悪魔』が、

これほどの絶品料理に化けるとは……。

しかも、痩せた土でも大量に獲れるのだろう?

ユージーン、このジャガイモがあれば…

…我が領の冬の食糧問題は、

完全に解決するのではないか!?」

「その通りだよ、クラウス兄さん」

ユージーンは力強く頷いた。


「ソバで秋を凌ぎ、ジャガイモを地下の氷室に貯蔵しておけば、

どんな大寒波が来ようと領民は誰一人飢えない。

これこそが、僕たちの作戦の第二段階さ!」

「素晴らしい……! 素晴らしいぞ、ユージーン!」

男爵が歓喜の声を上げ、

食卓は大きな拍手と家族の笑顔で満たされたのだった。


十、忍び寄る「春の試練」


晩餐会が終わり、自室に戻ったユージーンは、

窓からテストフィールドを見下ろした。

月明かりに照らされた畝の中には、正しく切られ、

灰を塗られたジャガイモの種芋たちが、

春の芽吹きを待って静かに眠っている。


(ソバに続き、ジャガイモの導入も大成功だ。

きのこ出汁の旨味文化も、

マルタたちにしっかり伝わった……)

ユージーンは胸を撫で下ろすと同時に、

ふっと表情を引き締めた。

(……だが、浮かれてはいられない。

秋が終わり、過酷な冬を越えれば、

あの悪夢の季節がやってくる……)

??『春の遅霜(おそじも)』。


せっかく芽吹いた果樹の花や作物の若芽を、

一夜にして凍らせて全滅させる寒冷地の最大の天敵。

ユージーンは自分の手のひらを見つめ、

静かに風と火の魔力を巡らせた。


(現代の防霜ファンに代わる『風魔法の気流陣』と、

『火の魔石による燻煙(くんえん)システム』。

……準備を急がないとな。

ベルグフェルドの満開の花と実りを、

絶対に凍らせはさせない!)

夜風に向かって静かに誓うユージーンの瞳には、

次なる試練を見据える確信の光が宿っていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

初めての執筆ですが、本人は楽しんで作っています。

もし、面白かったら☆マークとブックマークよろしくお願いします。

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