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ヒューマンドラマ・ホラー短編集

アプリ:AI搾取

作者: 宝月 蓮
掲載日:2026/10/05

「あー! この小説もAIだ! AIならちゃんとそう表記しろよクソが!」

 田中(たなか)ひとみがカフェで紅茶を飲んでいると、一緒に来ていた幼馴染である橋田(はしだ)由佳(ゆか)が不機嫌そうに愚痴っていた。

「荒れてるね、由佳」

 ひとみはそんな由佳に思わず苦笑してしまう。

「だってひとみも思うでしょう!? 最近の小説投稿サイト、AIばっかランクインしてるし、AI使ってること表記しないゴミ屑が多いんだもん!」

 正面に座っている由佳は、相変わらず憤慨している。


 ひとみと由佳は同い年で家が隣同士の幼馴染。社会人になって数年が経過した今も、こうして定期的に会う中だ。

 二人の趣味はWeb小説やライトノベルを読んだり、アニメを見たりすること。


「まあ確かにね」

「随分と落ち着いてるね。ひとみも最初は私みたいに怒ってたのに」

 ひとみも由佳同様、当初はAI小説に憤慨していた。

「いや、今もイラっとはするよ。ランキング汚染してるしさ」

 それはひとみの本心だ。しかし、今のひとみは由佳程憤慨してはいない。

(まあ、それには理由があるんだけどね)

 ひとみは自身のスマートフォンを取り出し、あるアプリをタップして開く。


『AI搾取』


 数ヶ月前、突然ひとみのスマートフォンに現れたアプリである。

 ひとみはアプリ内の『搾取インセンティブ』と書かれた場所をタップした。

(お、今月結構溜まってる。このポイントを換金したら、今月の給料よりも多くなる。ラッキー)

 ひとみは内心ウキウキしながら再び紅茶を飲み、『換金』と書かれたボタンを押した。

(この『AI搾取』ってアプリ、投稿インセンティブのある全ての小説投稿サイトとかイラスト投稿サイトでAIを使っている奴らのインセンティブを全部奪えるんだよねー)

 突然自身のスマートフォンにこのアプリが入っていた時は警戒したが、ひとみに何のデメリットもないのだ。

(AIを使って小説書いたりイラスト描くクズ達からインセンティブを奪えるだけでなく、換金する時の手数料とか、この場合雑所得になるんだけどそういったものにかかる税金はぜーんぶAI使って色々投稿しているゴミ屑達が支払ってくれるんだもんね)


「ひとみ何か冷静だねー。怪しいなー」

 口をへの字にしている由佳がこちらに身を乗り出して来る。

「ええ? そう?」

 ひとみは由佳にこの『AI搾取』というアプリのことは話していない。由佳に話せば、きっと使うのを止めろと言われるのが分かっているからだ。

(AIを使ってランキング汚染する奴らが収入源になってくれるんだもん。こんなに楽してお金が手に入るんだから、止められるわけがない)

 この『AI搾取』を使い始めてから、ひとみの懐はかなり潤っているのだ。

(悪い奴らから奪うインセンティブだから、罪悪感も持たなくて済むし)

 ひとみは再び増え続ける『搾取インセンティブ』を見て密かに口角を緩めた。


 半年後。

「ひとみー、最近さぁ、ようやく小説投稿サイトのランキングが浄化された感じがするんだよねー。AI小説が消えたんだー」

 この日、再び由佳と会う約束をし、カフェでケーキを食べていた。

 由佳はバスクチーズケーキを一口食べて上機嫌である。

「そうみたいだね」

 ひとみは何とも言えない気持ちだった。

(『AI搾取』で入って来る『搾取インセンティブ』も最近減ってる。楽して稼げると思ったんだけどなぁ)

 以前に比べて『AI搾取』で奪えるインセンティブが減ったことにより、ひとみの収入は少なくなっていたのだ。

「後さ、面白いことがあったんだよねー。まさにざまぁって感じの」

「何?」

 由佳がニヤニヤと笑っているので、ひとみは首を傾げた。

「SNSでさあ、AI使って小説書いてたっぽい屑が愚痴ってたんだよねー。最近インセンティブ稼げないし身に覚えのない手数料とか税金の請求が来てるって。で、弁護士とかに相談しても絶対に支払わなきゃいけないものだったみたい」

 ひとみは由佳の話を聞いてピンと来た。

(ああ、『AI搾取』の換金手数料と雑所得にかかる私の税金だ)

 自分に一切請求が来ていないことに、ひとみは密かに口角を緩めた。

「それでさぁ、そいつ、最終的に首が回らなくて自殺したんだって。これ見て」

 由佳は楽しそうに笑っていた。

 ひとみはこちらに向けられた由佳のスマートフォンの画面を見る。

 SNSのとあるアカウントの書き込みだった。

 どうやらアカウントの持ち主の母を名乗る人物が、このアカウントの持ち主が自殺したと書き込んでいた。

「そうなんだ。まあ、AI使ってインセンティブ稼ごうとするから悪いんだよ。これは正義の鉄槌かな」

「そうそう、ひとみの言う通り」

 バスクチーズケーキを食べて由佳はケラケラと笑っていた。

 ひとみも目の前のガトーショコラを一口食べながら、自身のスマートフォンでよく見る小説投稿サイトを開いた。

 確かにAIを使用した小説は以前よりもガクッと減っている。

(まあ、ゴミ屑みたいなAI小説は減ったからまあいっか。それに、『AI搾取』のお陰で生活はかなり楽になったし遊ぶお金もたくさんある。『AI搾取』であたしがインセンティブ奪ってるから、AI使って小説書いたりイラスト投稿する奴らが稼げなくなったってことか。……『AI搾取』、収入源としてはショボくなったけど、ランキング汚染がなくなるからこのままにしておこっと)

 ひとみは口元を緩めながら再びガトーショコラを食べるのであった。

 背徳感のある甘さが口の中に広がった

読んでくださりありがとうございます!

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