顔が良過ぎて悪役令嬢が成立しない。
侯爵令嬢ドローレスは誰もが認める美貌を持つ。
性別問わずすれ違った者が思わず二度は振り向いてしまうその顔と、物静かでありながら凛とした佇まいを崩さない彼女の在り方は多くの者の中に高貴で魅力的に映るものの、ごく一部、彼女を疎ましく思う者もいる。
容姿に教養、育ち……何でも持っているように見える彼女に嫉妬する者がいたのだ。
そして中でもドローレスに対する嫉妬が強かったのは子爵令嬢グレンダ。
彼女はドローレスに注がれる羨望の眼差しや彼女への賞賛がとにかく気に入らなかった。
ドローレスが評価されるのは美貌によるものだけだと考えたのだ。
グレンダはドローレスを何とか蹴落としたいと考えた。
そして……彼女の悪評を広げる。
侯爵令嬢ドローレスは下級貴族を虐める様な悪女である。
そんな噂だった。
そしてある日、王立学園の廊下で、彼女はドローレスの前で泣き崩れた。
「ドローレス様は私が下級貴族だからと見下し、無視をするの!」
ワッと声をあげて泣く彼女。
しかしそれを見つめるドローレスの傍、他の生徒達が言う。
「そのくらいの事で騒がれるなんて、ドローレス様も大変なことで」
「そもそも、ドローレス様は侯爵家のご息女なのだから、数多く言い寄る下級貴族一人一人に丁寧な対応なんてできないだろう」
「な……っ」
ドローレスは涼しい顔で、ただ静かにグレンダを見据えるだけ。
周囲の者たちはドローレスが何か口を開くよりも前に彼女の肩を持った。
グレンダは顔を真っ赤にしながら、続ける。
「それだけじゃないわ! ドローレス様は私を押しのけたんです!」
「どうせグレンダ様がドローレス様を怒らせるような事をしたんでしょう?」
「そうだ。下級貴族の癖にそうやってカッカしているから、ドローレス様が気を悪くしたんだ」
誰もかれもが『仕方ない』、『そのくらい我慢しろ』とグレンダに言い返した。
グレンダの思い通りには何一つ運ばない。
あまりに顔が整っているドローレス。
殆ど自ら言葉を発する事はせずミステリアスな雰囲気を纏う彼女は男女問わず多くの者を虜にしたし、お陰で彼女がやる事に対して誰もが擁護に回るようになっていた。
「いや、そうではないだろう」
そこへ、新たに一人の男子生徒が現れる。
公爵令息のイーデン。
彼はドローレスの幼馴染だった。
イーデンはドローレスの前まで近づき、彼女の手を取りながら微笑む。
「そもそも何故、ドローレスが『何かをしても許されるべき』という考えに至る? 真っ先に疑うべきは――彼女が『何もしていない』可能性だろう」
イーデンはそう言うとグレンダを睨みつけた。
「ご存じの通り、彼女には常に多くの人がいる。そうでない時は、婚約者の俺が必ずと言っていい程傍に居る訳だが……そんな中で、一体どうやって彼女が君を傷付けられるというのか……その言葉が真実だというのならば是非とも聞きたいところだが?」
「そ、それは……っ」
イーデンの指摘にはグレンダだけでなく周りの生徒達すら黙りこくってしまう。
そんな中、ドローレスだけが満足そうな笑みを静かに浮かべていたのだった。
***
「誰も、君の事をわかっちゃいない」
翌日。
ドローレスの家を訪れたイーデンは庭園でお茶を飲みながらそう言った。
「君は確かに美しいが、本当に見つめるべきはその内側にある愛らしさだというのに。そもそも……容姿によって考えや態度を変えるものではなく、仮にグレンダ嬢の言う事が事実ならばそれは注意すべき案件だ」
不満そうに眉を顰めるイーデンをドローレスは満足そうに目を細めながら見つめる。
温かな風が二人の間を通り過ぎる中。
「わたしは、そんなあなたが好きよ」
ドローレスは穏やかな声でそう言った。
イーデンは目を見開き、それからわずかに頬を染めて目を伏せた。
美しいドローレス。
彼女をもてはやす殆どの者がその外見に狂わされ、惑わされ、判断を鈍らせる。
その中でイーデンだけが、常に彼女を他の者と同様の正しさで接してくれた。
その上で彼は、彼女の内面を知り、愛してくれている。
それがドローレスはとても嬉しいのだ。
「りんごみたい」
「君のせいだろう、もう」
そしてドローレスもまた……自分の内面に惑わされる彼の事を、とても愛していた。
二人きりの穏やかなお茶会が進んでいく。
互いの心を知り尽くした二人の笑う声が、晴れ空の下で重なるのだった。
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