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「ははあ、なるほど……それでずっとレオニス様と口を利いていないと」


 ルルの話にエナはそう頷いた。


 この二週間あまり、レオニスはルルのところに欠かさず顔を出しているも、どうにも思い悩む雰囲気があった。


 彼は決して顔には出さないし何も言うことはなかったが、それでもほんの少しの仕草に滲み出ていたりしていたのだ。

 時折、おもちゃやお菓子をじっと見つめたり、花瓶に飾るには不向きな道端の花を摘んで小さな花束にしてみたり。


 思えばあれはルルの機嫌をなんとか取ろうと思いあぐねていたのだろう。

 今の膨れたルルの様子を見るにいまだに機嫌は取れていなさそうだが。


「レオニス様は本当にルルちゃんが大事だから心配したんだと思うよ」

「でもルルは絶対、ピクニック行きたかったんだもん」


 ベッドの上で膝を抱え、拗ねて吐き捨てるルルにエナは苦笑する。

 お父さんって大変だあ、と他人事のように思いながら、エナは彼女の背中をさする。


「まあ、ね、気持ちはちょっとわからんでもないよ。お姉ちゃんもちょっと前くらいに死にかけるくらいの高熱出してさ。それが下がって『あ、もう大丈夫かなー』って思ってたのに、ちょっと熱が上がったくらいで奥様いけませんってベッド押し戻されてたから」


 そう告げると拗ねてそっぽを向いていたルルが横目でエナを伺う。

 エナはそんなルルを見つめ、ゆっくりと背中をさすり続ける。


「過保護だなあ、って辟易するよね」

「へきえき……?」

「あー、うんざりしちゃうってこと。全然大丈夫なのにそんなに心配しなくていいじゃんって思っちゃうよねえ」


 エナの言葉にルルはようやくエナを振り返り、大きく頷いた。

 大きな目をまっすぐに向け、自分の味方がようやくいたとばかりの眼差しを向けてくるルルにエナはこう微笑みかけた。


「でもねえ、その人たちは私を本当に大好きで、これ以上辛い思いをしてほしくないからそうしていたんだよね。意地悪がしたかったんじゃないのよ」


 その言葉にルルの瞳が揺れる。


 それから視線を落として抱えた膝をじっと見た。

 エナはルルの背を撫でながら、こう続ける。


「でもルルちゃんも本当はそこ、わかってると思うんだよね。レオニス様が意地悪言いたかったわけじゃなくて、ルルちゃんが大事だからそう言ってたってこと。でもその上で楽しみだったピクニック行けなくて悔しかったんだよね?」


 そう問えば、ルルはほんの少しの沈黙の後、小さく頷いた。

 エナはそんなルルの頭を撫でる。


「ピクニック、行けなかったの残念だったよね。すっごく楽しみにしてて、絶対行きたかったよね」


 エナの言葉にルルは何度も頷く。

 大きな瞳からポロポロとこぼれる涙をそっと拭い、エナは優しく言う。


「悔しかったねえ」


 その言葉にルルはしゃくりを上げて泣いた。

 エナはそんなルルの小さな体を抱きしめて、あやすように軽く揺り続けた。


「ーー…………お姉ちゃん」


 やがて泣いていたルルが落ち着いて、真っ赤に泣き腫らした目をエナに向けてくる。


「…………レオニス様に、だいっきらいって言っちゃった……」


 モジモジと言いにくそうに言うルルに、エナはきょとんと目を丸くした後、苦笑した。


「大丈夫よ。レオニス様はルルちゃんが大事で大好きだから、ごめんなさいって言えば許してくれるよ」

「……本当?」

「本当本当。多分、今日もちゃんとお仕事終わったらルルちゃんところに来てくれるよ」

「……そっか」


 エナの言葉にルルが小さく安堵したように息を吐き、それから少しトロンとした瞳をする。

 どうやら泣き疲れて眠くなってしまったらしい。ちょっと知恵熱も出ているかもしれない。

 エナはルルの体を介助して、そっとベッドに横たえて掛布をしっかりとかけた。


「……お姉ちゃん」

「ん?」

「……ピクニック、また今度、連れてってもらえるかな?」

「お姉ちゃんからもレオニス様にお願いしておくよ」


 そう告げれば、ルルは嬉しそうに微笑んで、それからまぶたをそっと落として寝息を立て始めた。


 そんなルルの様子にエナはくすりと笑むと、眠る彼女の頭をそっと撫でる。

 それからルルを起こさないようにそっと立ち上がり、部屋を出た。


 けれどもその日の夜にルルが高熱を出したと連絡が入ったのだ。

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