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ついにこの日が来た、とルルはぎゅ、と拳を握る。
前日、興奮しすぎて熱が出てしまい、やたらにレオニスに心配されたがそれでも今日という日は譲らないとワガママを言った。
何せずっと楽しみにしていたのだ。
この日のために言いつけをきちんと守って大人しくしていたし、苦い薬も毎日我慢して飲んだ。食事も好き嫌いせずに食べてきた。
おかげさまで前までは移動は車椅子に頼り切っていた体は少しは良くなった。
今はほんの短い時間でも自分の足で立ち上がれるようにもなり、よく晴れた日差しの暖かい日限定ではあるが散歩にも連れ出されても体調を悪くすることは少なくなった。
これはルル史上快挙である。
そうしてついに前々にエナがルルに語ってくれたピクニックが実現することになったのだ。
初めて遠出して遊びに行く、ということにルルはとにかく心を踊らせていた。
レオニスが語ってくれた遊びに行く野原には本物のウサギが駆け回り、白くて丸い小さな花が敷き詰められたように咲いているという。
彼が実際にいくつか摘んできてくれた花はとても可憐で、この花が咲いているのを見られると思うと楽しみで自然と笑みがこぼれてしまう。
なのに、
「ーー……ルル、熱がある。やはり今日行くのは無理だ」
「何で……!? 行く、絶対行くの!」
ルルの額に手を当てたレオニスの言葉にルルはそう声をあげる。
「今日行くって約束してた、だから絶対行くの…!」
「駄目だ。外に出るのは体調が万全な時だけと約束していただろう」
「やだ! 大丈夫だもん、行けるもん、絶対行く! 行くったら行く!」
「ルル」
ルルのワガママにレオニスが軽く眉を寄せる。
聞き分けのないルルを困ったように見つめるレオニスを睨みつけ、ルルは言う。
「今日、無理に外に出て体調を悪くしたらもっと外に行けなくなる。今日は我慢してくれ。また今度、予定を立てるから」
「やだ、やだ、やだ! 行く! 行くの……っ!」
と、そこでルルは背を丸めてゴホゴホと乾いた咳をした。
レオニスがそんなルルの背を撫でて困ったようにこう告げる。
「ほら見ろ、その調子では外に無理して出ても楽しめないだろう。今日は諦めなさい」
「じゃあ明日。明日なら行ける?」
そう問いかけるとレオニスが言葉に詰まり、それから申し訳なさそうに首を横に振った。
「じゃあ明後日」
ルルの言葉にレオニスは同じように首を横に振る。
ルルとてわかっている。レオニスは多忙だ。
彼は明日も明後日も仕事でピクニックに行けないことくらい知っている。
きっとしばらくは休みを取ることが難しいということくらいわかるのだ。
「っ……ばか! うそつき! レオニス様なんてきらい! きらい、だいっきらい!」
そうしてルルは癇癪を起こして両手を振り回してレオニスをぽかぽかと殴った。
レオニスが怯んで少しルルから離れれば、ルルはぷいとそっぽを向く。
「ルル……」
宥めようとルルの頭に手を伸ばしたレオニスの手を振り払い、ルルはそっぽを向き続ける。
レオニスが小さくため息をついた。
けれどもレオニスが“そんなに言うならピクニックに行こうか”とは決して言うことはなかった。




