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 ランタンの頼りない灯りが照る。

 オイルを燃やして煌々と辺りを照らし出すランタンの灯りをジッと見つめたレオニスはただただ沈黙していた。


 エナが、襲撃犯が見つかったという連絡はいまだにない。

 あの襲撃から数時間が経ち、とっぷりと日が暮れて、それでもなお連絡がないのは心中穏やかでない。


 それでも自分は今、座して待つことしかできない。


 襲撃犯に撃たれたから、というのもある。

 だがそれがなくとも、多分こうして待つ他ないことをレオニスはよくわかっていた。


 何せ指示者が闇雲に動くわけにはいかない。

 そんなものはどこに指示を仰げば良いのかと現場を混乱させる元となるだけだ。


 だが、そうとわかっていたとしても荒れ狂う感情が落ち着くはずもない。

 手を組み、項垂れるように額をつける姿が祈りの姿とよく似ていることの自覚のないまま、レオニスは静かに報告を待ち続ける。


「レオニス」


 やがてベルトゥリー伯爵邸にひとりの男が訪れた。

 レオニスの前に置かれたランタンと同じものを持った家令に連れられて現れた男にレオニスはハッと腰を浮かせる。


「王弟殿下……! 何か進捗はありましたか……!」

「ああ、数刻前に隣領へ向かう街道近くにベルトゥリー伯爵家の馬車が乗り捨てられているのを見つけた」

「ではエナは……」

「すまないがまだ見つかっていない。今、その周辺を重点的に探すように指示を出している」


 エルンストの言葉にレオニスは深くため息をついて浮かした腰を戻した。

 ぬか喜びから一転、結局はまだ安心できない状況を改めて厳しい表情を浮かべるレオニスに、エルンストが励ますように肩を叩いた。


「お前がそんな顔をするとはな。あのお嬢さんはよほどお前の大切な人らしい」


 ふとそう言われ、レオニスは黙したままエルンストを見た。

 剣呑な目つきのままのレオニスの視線を真っ向から受け止めたエルンストはくすりと笑う。


「だってそうだろう。確かにお前ならどんな身内だろうと、同じ目に遭ったら今と同じことをしているだろうが、そこまで余裕のない顔をすることはないはずだぞ。結婚生活で絆されたか、あのレオニス・ウィスタリアが」

「王弟殿下、今は非常事態です。戯れはお控えくださいませ」

「悪い、からかったわけじゃない。なんていうかな、そう、お前の人間らしいところを見れて不謹慎だが俺は嬉しくてな」


 エルンストの物言いにレオニスは怪訝そうに顔をしかめる。


 そんなレオニスの頭をエルンストがぐしゃぐしゃと撫でる。

 まるで幼児扱いだ。

 いや、まるで、ではない。エルンストの中では、レオニスは初対面で出会った頃の背も伸びきっていない小僧のままなのだろう。


「お前は上辺は丁寧で人好きする雰囲気を取り繕っても、根っこの部分は決して気を許さずに距離を取るところがあるからなあ。そういうお前が何にも取り繕えなくなるほどに大切な人ができたっていうのが嬉しいぞ」

「…… ……………」


 彼が頭をかき混ぜるように撫でられるがまま、レオニスは何も答えずにエナのことを考えた。


 エナという女は自分にとって大層都合のいい女だった。

 自分の欲しいものを持っていて、なおかつその裁量を自分に委ねてくれる。

 自分のやることに何も言わず、我儘も控えめ。驚くぐらいに無欲で、使用人に任せきりでも文句のひとつも言わない手のかからない女。


 愛するつもりはない、と初対面で言ってのけるなど相当な無礼を働いたにも関わらず、彼女のレオニスに対する態度はいつもフラットだ。

 顔を合わせると何も考えていないのではないかと思うくらいにあっけらかんとして、気安く接してくる。

 大らかな気質なのだろう。

 何でもかんでも受け入れるから、つい自分の背負うものまで渡してしまった。重たいものなのに。

 それでも彼女は同情や憐憫の態度もなく、変わらずいつもの調子で接してきた。


 絆されているのはとっくの昔に。

 そうでなければ長く関係を続けていきたいと思ったりはしない。

 だから大切な人だというのは、そう。否定しない。

 自分にとって、エナ・ベルトゥリーは代え難い妻だ。


「安心しろ、俺が責任持ってお前にお前の妻を返してやる。と、いうことでお前は少し休め、怪我人なんだから。ここは俺が受け持つ。彼女が見つかったらちゃんと教えてやるから」

「ですが……」

「いいから休め。心配で眠れないなんて言い訳が通用すると思うなよ。お前、どうせ今も頼ってんだろ」


 そう言われ、レオニスは沈黙を返す。


 エルンストが何を指してそう告げているのかはわかっている。


 エルンストの後ろで佇む家令を見れば、家令もまたレオニスに頷き返した。

 レオニスは小さくため息をつき、エルンストに頷いた。


「わかりました、ここはお任せいたします」

「おうとも、しっかり英気を養っとけ。彼女が見つかった時に動けないなんて格好悪いからな」


 明るく笑い飛ばすエルンストに向かって一礼し、レオニスは家令にこう告げる。


「聞いたな、()()()()薬だ」

「心得ております」


 胸に手を当てて礼をする家令の返事を聞いて、レオニスは自分の部屋へと向かう。

 しんと静まり返った部屋は暗く、朝はまだ遠い。

 痛み止めが切れてきたのか、つきりと痛む腹部に手を当てて小さく息をつく。


「エナ……」


 どうか無事で。

 今はそれだけを祈っている。

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