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「こんにちわ〜、ルルちゃん。エナですよ〜」
「こ、んにちわ……」
「ご挨拶できてえらい! 花丸あげちゃおうね〜」
「ハナマル……?」
ベッドの上でぎこちなく頭を下げるルルにエナが明るく話しかける。
初めて顔を合わせた時には人見知りをしてレオニスのことを離さずに一方的に喋るエナをレオニスの影から見ていたルルだったが、通うほどにエナに慣れてきたのか何度か顔を合わせた今ではエナと会話を交わせるようにはなった。
まだレオニスが同席をしなくてはまともに話せないが、それでも進歩は進歩だろう。
「ルル、今日の体調はどうだ? もし体調が良ければ少し散歩に行こう」
「お散歩……! 行く!」
レオニスの言葉にルルはぱ、と顔を明るくする。
そんなルルの様子を微笑ましく思いつつも、レオニスは彼女の額に手を当てて熱がないことを確認し、それから手足の冷えや顔色も悪くないか確認する。
確かに今日のルルの調子は良さそうだ。この分なら温かくしていれば、短時間ならば外に出られそうだった。
レオニスは使用人に車椅子を持ってくるように指示を出し、自分はルルに上着を着せてマフラーを巻き付ける。
病気のこともあるが、レオニスが彼女のことを隠そうとしてルルにはずっと狭い部屋の中で過ごさせてしまっていた。
いつもは狭い窓からしか眺めることのできなかった外へ出られることに顔を輝かせているルルを見るとほんの少し罪悪感が沸く。
「じゃあ行きましょうか」
ルルを車椅子に移し、エナが彼女の膝に厚手の膝掛けをかけた。
レオニスがゆっくりと車椅子を押す。
ルルはニコニコとご機嫌な笑顔で車椅子の肘置きを叩いていた。
外に出れば、冬にしては暖かな日差しが出迎えた。
空気は少し冷たいが風はなく、絶好の散歩日和だ。
「今日は小春日和ですねえ」
「コハルビヨリ?」
「本格的な冬の前に来るあったかい日のことだよ。春みたいにあったかいから小春日和って言うの」
ルルの問いにエナがそう答える。
ルルが「へえ」と相槌を打つ。
「これからどんどん寒くなるから今日みたいな日はなかなか来なくなるだろうけど、本当の春になってあったかくなって、ルルちゃんがもっと元気になったらピクニックとかいいかもですねえ。お弁当持って、ちょっと遠出して、みんなと一緒にお外でご飯食べるの」
エナの言葉にルルの目がキラキラと輝く。
そんなルルの想像を膨らませるようにエナが「ランチボックスにはサンドイッチと果物入れて〜」と身振り手振りで話を続ける。
微笑ましい光景にレオニスもそっと口元を緩める。
確かに彼女の言うように春までにルルがもう少し元気になったらそれも良いかもしれない。
社交シーズンが始まる前ならば時間も取れる。
レオニスもまたエナの言うピクニックを思い描く。
ルルの体調次第ではあるが、ベルトゥリー伯爵領の領都の郊外あたりが適当だろうか。
確か穏やかに流れる小川があって、野うさぎが駆けずり回っている場所があったはずだ。
シロツメクサが一面に広がる場所だったから春ならばちょうど真白の花が絨毯のように咲き誇って見頃のはずだ。
きっとルルは喜んでくれるだろう。
エナはどうかはわからないが、彼女もまた幼児のように喜びそうな気がした。




