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「どういうことなの」


 バルミューダはうまく行かない現実に焦れていた。


 せっかくばら撒いたレオニスの噂はいつの間にかほとんど払拭されている。

 ムーンランド子爵に糾弾させ追い出すはずだったレオニスの娘は、気がつけばエナが起こす新規事業の治験者だったとして、レオニスの隠し子という噂が誤解だったと認識されている。


 それもこれもエナがその子の元にレオニスと共に通い出し、領民にアピールをし始めたからだ。


 彼女は自分の夫が見知らぬ子供の存在を隠していて、何も思わなかったのだろうか。

 夫が別の家庭を持っていることに傷つき、嫉妬を燃やさなかったのか。

 あるいは入婿が子供の存在を隠していて、お家乗っ取りを企てるのではないかと危機感を抱かなかったのか。


「なんなのよ、あの女」


 なぜあの女はこうもバルミューダの思惑通りに動かず、神経ばかりを逆撫でするのか。


 不和を煽ったはずなのに、彼らはむしろ良好な仲を示すように共にいることが目につくようになった。

 穏やかにレオニスに笑いかける能天気な笑顔がどれほど癪に障ったか。


「ギルバート!」

「はい」

「何かないの! あの女を貶める方法は!」


 バルミューダの目的がレオニスを手に入れることからエナを貶める方向にすっかりすり替わっていたことにギルバートは気がついたが、言葉にはしなかった。


 従者の彼に求められているのは主人の意向を叶えることであり、彼女の目的をそっと正すことではない。


 ギルバートはほんの少し考え込む。

 エナは前ベルトゥリー伯爵・エミリアのひとり娘であり、この地での人気はとても高い。

 後見人として横暴を重ねていたデーニッツの統治がひどいほど相対的に、その前に穏やかな統治をしていたエミリアの血を継ぐ娘への期待のためだ。


 時間をかければ、おそらく彼女の評判を貶めることはできる。

 何せ長く表舞台に立たなかった社交界に不慣れな娘だ。レオニスが守るとて付け入る隙はあるだろう。


 けれども。

 ギルバートは目の前の主人を見た。


 怒りに目を真っ赤にして今にも爆発しそうに顔を歪めているバルミューダには時間がない。


 気性自体もそうではあるが、彼女自体にもう時間がない。

 今回のトライウィール辺境伯領からの出奔が知れれば、連れ戻された彼女は溺愛する祖父が何と言おうとも彼女に何も権限を与えない厳格な家へと嫁がされて飼い殺しになるだろう。

 貴族夫人としては遇してもらえるだろうが、それだけだ。


 それを目の前の主人は我慢がならない。

 昔から祖父の前辺境伯に甘やかされて育った彼女は思い通りにならないことが、欲しいものが手に入らないという自体に怒りを覚えるのだから。


 思いあぐねたギルバートは結局、手っ取り早く“暴力”というものに頼ることをバルミューダへと提案するのだった。

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