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ルルという少女はレオニスのいた孤児院に身を寄せていた少女だった。
そんな彼女の存在をレオニスに知らせたのはルルの世話をしていたあの女性。
彼女もまたレオニスと同じ孤児院の出身であり、元は孤児院の職員でもあった。
ルルはとても重い病気にかかっており、孤児院だけの収入では彼女の治療を賄うことができなかった。
そこで国内有数の資産家となったレオニスに同じ孤児院出身のよしみでルルのことを助けてほしいと懇願された。
その懇願にレオニスは頷いて、彼女を孤児院に隠したまま密かに援助を始めた。
ルルの病気は良くはならなかったけれども、レオニスの援助で彼女は現状維持にまでは持ち直した。
次にレオニスは彼女の病気を完治させるための治療法を探した。
そこでベルトゥリー伯爵領の薬草園で細々と育てられていた薬草が特効薬になり、数年ほど服用をすれば完治することを突き止めた。
その薬草はベルトゥリー伯爵領の気候でのみ育つ植物で、栽培方法も少々特殊だ。
そのためにコストが嵩み、とても一般の人間には手が出せない代物となっていた。
それでも資産家のレオニスならば簡単に手が伸ばせるだろう。
だがそれがわかっていてもわざわざベルトゥリー伯爵領に恩を売り、ベルトゥリー伯爵領で新規事業を起こして薬草を手に入れようとする迂遠な方法を取ったのはルルと同じ病で苦しめられる人間を減らしたいというレオニスの願いがあったからだ。
薬草の栽培を広げ、栽培方法や製剤技術を研究し、コストを下げて誰でも特効薬に手を伸ばせるように。
それがレオニスがムーンランド子爵邸で二人に語ったこと。
ムーンランド子爵邸で話を終えた後、レオニスの話はそのまま受け入れられた。
それはエナがそのままを受け入れて許したことが一番大きい。
そればかりかエナはレオニスの話に協力的な姿勢を示し、ルルは新領主が始める新規事業の治験者としてレオニスに探してきてもらったことにしないか、と提案した。
無論、今巷に流れているレオニスの悪い噂の払拭のためである。
エナが協力的であるならばムーンランド子爵もレオニスを許さざるを得なく、彼もまたレオニスの願いに協力をしてくれることとなった。
・ ・ ・ ・ ・
「ーーエナ」
ムーンランド子爵邸での話し合いの後、ベルトゥリー伯爵邸へ帰る馬車の中でレオニスはそう口を開いた。
緩やかに流れていく馬車の外の景色を眺めていたエナがきょとんとした顔でレオニスを振り返る。
その顔を見返して、レオニスはこう続けた。
「…………君に話しておきたいことがある」
「はい」
「俺がルルに入れ込んだ動機と、彼女を隠していた本当の理由だ」
「隠していた本当の理由? レオニス様の弱みだから悪い人たちに狙わせたくないとか、彼女の周りを騒がせたくなかったって言っていたのは本当は違うってことです?」
「それも理由のひとつには間違いない。でも……それだけではないんだ」
レオニスは言う。
ムーンランド子爵邸でした話は、実はすべてではない。
特に話す必要はないからこそ省き、意図的に伏せたこと。
「ルルを隠していたのは、俺にとって彼女が特別だからだ。これから話すことは俺の内側でもっとも柔く、いまだに割り切れていない部分のことで、言葉にするのが難しい。そことルルのことは切り分けられないから、隠したかったんだ」
レオニスの言葉にエナは何も言わず、目線の動きだけで続きを促した。




