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 レオニスはフツフツと腹の奥底から沸き立つような怒りを逃すように深くため息をついた。


 最近、ベルトゥリー伯爵領にレオニスに関する不名誉な噂が立っている。

 彼はエナ・ベルトゥリーという先代領主の忘れ形見である一人娘を娶っておきながら、他所に家庭を作っているというものだ。


 この噂による領民の忌避感は凄まじいものだった。


 なにせ元々、このベルトゥリー伯爵領は先代伯爵が入婿に蔑ろにされていた記憶が新しい。

 ましてやその入婿は先代領主が亡くなった後は我こそが領主と言わんばかりの態度で税だけ搾り取って贅沢ばかりしていたのだから。


 彼が囲っていた愛人とその間に作った息子も同様。

 彼らに対する忌避感が、そのまま同じ噂を立てられたレオニスにも向かうのはさもありなんというものだ。


 噂の仕掛け人はわかっている。

 バルミューダ・トライウィール辺境伯令嬢だ。


 噂の出所を調査させたところ、彼女の子飼いの従者があちこちで吹聴していることがわかった。

 けれどもその噂を払拭することが今のレオニスにはできなかった。


 完全に根も葉もない噂だったのなら払拭は簡単だった。

 そう誤解させるような状況に必死に火を立てようとしているのならば、あっという間に鎮火せしめただろう。


 だが、


「…… ……………」


 それがレオニスの後ろ暗いところから発されているということは、レオニス自身が一番よくわかっていた。


 だから頭を悩ませる。

 その場凌ぎで良ければ根も葉もない噂だと偽ることも可能だ。


 けれどもその嘘が後々にレオニスの首を絞めることになるだろうことは容易に想像がついた。

 だから安易な誤魔化しはできない。

 噂の元を切り捨てることは論外。


 ベルトゥリー伯爵領を捨て、新天地で新規事業を改めて起こすことをチラリと考えはしたが、生憎レオニスには抱えたしがらみが多くてその分影響が大きい。

 それがその場凌ぎでやり過ごすことと同じくらいに得策ではないと知れた。


 こういうことは手をこまねいている間に事態が悪化する。

 早めの判断が必要なのはわかっていたが、どうすることが正解なのか迷ってしまった。


 思うように身動きができないことに焦れながらも、やれることはやらなければ。


 まずは悪い噂を煽り立てるバルミューダ・トライウィール辺境伯令嬢の対処だ。


 それからしばらくは噂の元になる場所には近づかず、噂が下火になるまでは迂闊な行動を避けなければ。

 幸い、使用人がエナの耳に入らないように噂を食い止めてくれている。


 その間に解決を、


「旦那様!」


 と、考えていたのに悪いことは重なる。


「ルルが……ーー!」


 レオニスの元に必死な形相で駆け込んできたひとりの女性が出した名前に、レオニスは行かないという選択を選べなかった。

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