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 バルミューダ・トライウィール辺境伯令嬢がレオニスが不在であるベルトゥリー伯爵邸を訪れたという話はすぐにレオニスに報告が入った。


 わざわざベルトゥリー伯爵領に移転した紹介本部にまで知らせに走ってくれた使用人の報告を聞いたレオニスは珍しく辟易とした表情を隠さずに顔をしかめた。


 トライウィール辺境伯領に封じこめられているはずだったろうに。

 だが彼女は特に罪人であるわけでもない。王弟殿下の厚意によってそうしてもらっていただけなのだ。

 故に絶対的に何が何でも辺境領に繋ぎ止められるわけでもない、と考え直し、レオニスは頭を抱えた。


 まさか自分ではなくエナの方にアプローチを仕掛けるとは。


「……それで、彼女はあの女に何と」

「奥様は特に動じた様子は見られませんでした。“現状に不満はなく、自分から離縁を言い出すつもりはない。ただレオニス様が仰れば応じる”と」

「そうか」


 使用人の言葉を聞いて、小さく息をつく。


 ひとまず彼女が気の強いバルミューダに押し負けて離縁を切り出すような状況ではないことに安堵した。

 貴族淑女として教育を受けていたマリーナが同席し、盾となってくれたことも大きいだろう。


 けれども事態はあまりよくはない。

 王弟殿下に連絡を取り、彼女を至急引き取ってもらうことも可能だろうが、それでは根本的な解決にはならない。


 結局のところ、バルミューダの執着を断ち切らない限り彼女はずっと自分に付きまとう問題のままだろうから。


「旦那様」

「うん?」


 めんどくせえなあ。とうんざりとバルミューダの対策を考え始めようとした時、使用人からそう声をかけられた。


 彼は言おうか言うまいかを悩むような素振りを見せた後、やがてこう口を開く。


「本日、邸にお戻りにはなるのでしょうか?」

「…………なぜ?」

「奥様と……直接お話をされた方が良いかと」


 レオニスの問いに彼はモジモジとしながらもそう答える。


「その……トライウィール辺境伯令嬢との話し合いで奥様が夫は別に旦那様でなくとも良いと仰っていたのを聞いてしまって。確かに我々は旦那様と奥様が契約で結ばれた関係であることは承知しておりますが、もう少し歩み寄っていただけたら、と。我々は……いえ、少なくとも私は奥様と旦那様、お二人に仕えられることに喜びを感じておりますので。なので、差し当たりトライウィール辺境伯令嬢とのことをきちんとお二人で話し合っていただけたらと……」


 要するに彼はエナとレオニスが離縁するかもしれないと不安を感じているわけだ。


 確かにエナの気が変われば、エナの方から離縁を切り出す可能性があるようにも聞こえる言葉だ。

 だからきちんとレオニスがエナを繋ぎ止めてほしい、と。


 実際、エナの方から離縁を言い出されるようなことになれば厄介なことはレオニスもわかっていた。

 何せレオニスが入婿なのだ。実務を担っているのがこちらなのだとはいえ、元の権限が強いのは向こうの方だ。


「差し出がましいことを申しました」


 深々と頭を下げる使用人を見て、レオニスは「いや」と言葉を濁した。


 エナは本当にベルトゥリー伯爵邸の使用人に慕われている。

 彼女に無理を強いれば当然のように彼らに恨まれるのだろうな、と容易に想像がついてレオニスは苦笑した。


「……そうだな、忠告感謝する。エナとは近いうちに話す時間を取ろう」


 そう告げると使用人がホッとした息をついた。


 その反面、レオニスの内心は少し重苦しい気持ちだった。

 何せ、話すといっても現状報告以外の何を話せばいいのか。エナを繋ぎ止めるだなんて何をすればいいのかなんて、自分にはまるで検討がつかなかったので。

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