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「ーーおい、花飾りはこれじゃない。新しい発注書はどうした?」
「新しい発注書……ですか?」
式場の飾りの発注書の最終確認をしていて不備を見つけ、レオニスは顔をしかめる。
前の発注書を手にした式場スタッフの様子にレオニスは彼の持つ書類一式を受け取ってパラパラと確認する。
エナが持ち込むウェディングベアの雰囲気に合わせてウェルカムスペースは愛らしく華やかに飾りつける予定で差し替えた花飾りの発注書が前の格式高い上品なもの入れ替わっている。
ベルトゥリー伯爵領の引き継ぎのための書類申請等はすでに終わらせていたが、結婚式の準備に商会の本部移転。色々とごたついているせいで抜けがあったのだろうか。
だがレオニスは間違いなく新たな発注書を揃え、式場のスタッフに届けるように商会のものを使いに出した。
どこで紛失したのだろう。
怪訝に顔をしかめていると、式場スタッフが戸惑いがちにレオニスのことを伺った。
その様子にレオニスは「すまない」と応え、
「……確か発注書の控えが商会に残っていたはずだ。すぐに戻って取ってこよう。その間に披露宴の段取りの確認を進めておいてくれ」
「了解いたしました」
式場のスタッフが頷くのを見て、レオニスは急ぎ商会へと引き返す。
馬車を飛ばして商会に戻ってくれば、そこで大きな箱を持ちこむ商会の従業員とバッタリ会った。
「……? おい、その箱は何だ?」
「あ、はい。マダム・クリスティンの店からドレスを受け取るように連絡があり、今し方受け取ってきたところです」
「マダム・クリスティンの店からドレス……?」
ドレスの入荷依頼など自分は聞いていない。
マダム・クリスティンの店のドレスは高位貴族に向けた高級品。平民どころか下級貴族だっておいそれと手の出せる代物ではない。
その取引があれば必ず自分に報告が上がらねばおかしい。
「奥様のドレスだとか……」
難しい顔をしたレオニスに従業員がおずおずとそう声をかける。
エナのドレスだと聞き、ますます不可解さに眉間にシワが寄った。
マダム・クリスティンの店で発注したエナのドレスなど、ウェディングドレスしかない。
それが何故ここに? そも店には完成したらウィスタリア男爵邸に直送するように申し伝えていたはずなのだが。
眉間にシワを寄せたまま黙り込んでしまったレオニスに、従業員は困惑の表情のままオロオロとしている。
「……いや、わかった。それは俺が預かる。君はウィスタリア男爵邸にすぐに向かってドレスを受け取るものを呼んできてほしい」
「? それなら俺がこのまま運びましょうか?」
「いや、ドレスを検めておきたい。悪いが今すぐうちのものを呼んできてくれ」
「わかりました」
重ねて告げるレオニスの言葉に彼は首を捻りながらもレオニスの言葉に忠実に従ってウィスタリア男爵邸へと向かう。
レオニスは彼を見送るとドレスの収められた箱を手に商会長室へと向かう。
「あら」
その途中、キャシーと出くわす。
「おかえりなさいませ、レオニス様。大きな箱ですね、私が倉庫へとお運びしましょうか?」
「不要だ。これは商会に関係のない私物だ」
「そうなんですか? それでもレオニス様に荷物を持たせるわけにはいきませんもの。丁重に扱いますからぜひお頼りください……」
と、馴れ馴れしくレオニスの腕に触れようとするキャシーにレオニスは反射的に腕を引く。
それがすげなく払う形になり、キャシーが「あ…」と傷ついた声を出す。
「不要だと言ったのが聞こえなかったか? 早く通常業務に戻れ」
けれどもレオニスは彼女に冷たくそう告げ、足早に商会長室へと向かう。
そこで箱を下ろし、箱を開いて中を検める。
中身はやはりエナのウェディングドレスだった。
最高級のシルクに繊細なレースをふんだんに使い、ふんわりとしたシルエットになるように仕上げた逸品。
輝くような麗しい純白のドレスにはパールも惜しみなく縫い付けられている。
どこにも破れも汚れもないことを確認して、レオニスは小さく息をついた。
こちらに届けられただけで今のところウェディングドレスには何の不備もない。
けれどもウィスタリア男爵邸に直接届けるように伝えたウェディングドレスが移転作業でごたついている商会本部に届いたことが解せない。
レオニスは丁寧にドレスを箱に戻すと、花飾りの発注書の控えを探す。
しまいこんだはずの場所に控えがない。
「…… …………」
不可解なことが続いている。
レオニスは怪訝に眉をひそめながら発注書の控えを探し、それからその発注書が丸められて屑かごに捨てられていることに気がついた。
屑かごから丸められた発注書の控えを拾い上げ、しばらく考え込む。
それからやがてベルを鳴らして人を呼びつける。
「商会長、お呼びでしょうか」
「本部長を呼んでくれ。至急聞きたいことがある」
レオニスの言葉に彼は目を丸くしながらも命じた通りに本部長を呼びに走った。




