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 マダム・クリスティンの店で、エナは緊張でカチコチに固まっていた。


 借りてきた猫のように大人しく、腕を上げて、伸ばして等の指示にはきちんと従うのは良いのだが、どうにもデザイナーの言葉は耳をすり抜けているのか、着心地やデザインについてはひどく曖昧な返答を繰り返していたという。


「ーーだってパールとかダイヤとか……! 宝石をドレスに縫いつけるとか恐ろしいわ……っ!」


 仮縫いの小休止、その件を問いただせばエナは緊張でカスッカスになった声で悲鳴を上げた。


「ねえ、レオニス様、大丈夫です? 予算本当に大丈夫なんです? そんな高級なウェディングドレスなんて着たら私、怖くて一歩も歩けなくなりますよ……!」

「予算自体は向こうに伝えてあるから君が気にすることではない。大体前に言っただろう。伯爵家の結婚式だ、見窄らしいものは困る」

「ちくしょう、貴族ーーーーーっ!」


 レオニスの言葉にエナはそう叫んで頭を抱えた。

 淑女らしかぬ叫びに奥にいた店員がエナを二度見するので、レオニスはため息をついた。


「前にも言ったが、君は伯爵になった。相応の待遇というものがある。君の家族のような過剰な贅沢も困りものだが、その逆もまた困る。慣れろ」

「くっ……ぐ、ぅ……ぅぅっ」


 エナがぐうと唸る。そうして「でもそうはいっても前世三十余年庶民やってきたのに」「最近の十年はほぼ囚人だし」「大体伯爵ってのが中途半端で困る。水準がわからん」とブツブツ呟き出した。


 その姿に何度目かわからないため息をつきつつ、レオニスはこう口を開く。


「……例えば、君はこれからすべての財産を預けて庇護を受ける身として、身なりをきちんとした裕福そうな人間とツギハギだらけのボロを着た人間。どちらに託したいと思う?」


 レオニスに問われ、エナはブツブツ呟くのを止めてポカンとした顔をする。


「少なくとも自分の面倒を見るのに精一杯のような人間よりは余裕のあるように見える人間に身を預けたいと思うんじゃないか?」

「それは、まあ……」

「そういうことだ。急に被せられていまだに自覚はないと思うが、君は“ベルトゥリー女伯爵”。領地を持ち、そこに住む領民を預かる代表。実務等は俺が担っているが、看板はあくまで君だ。だからこそ余裕のある姿でなくてはならない。贅沢も仕事だと思って、表向きには何でもない顔をして受け取れ」

「なる、ほど……妻業の一環スか……」

「そうだ」


 レオニスの言葉にエナが複雑そうな顔をする。

 それでも何も言わないということは納得したのだろう。


「失礼いたします。ウェディングドレスに合わせるアクセサリーをお持ちしました」


 と、その時、タイミングを見計らったかのように店員が声をかけてきた。


 静々と店員が持ってきたトレーの上に並べられたアクセサリーはどれもが白銀に輝くダイヤモンドで彩られていた。

 そのアクセサリー群を見た瞬間に、エナが気の遠くなりそうな顔をした。

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