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 ベルトゥリー伯爵家の領地に赴いたり商会の仕事で忙しくしていたレオニスと顔を合わせるのはひと月ぶりほどだろうか。

 久しぶりに顔を合わせるはずのレオニスから「話がある」と言われた時には、エナは自分が何かをやったのかと恐々とした。


 結婚式の招待客のリストを家令と相談しながら作ったのだが、あれに不備があったのだろうか。

 それともこの間の茶会で何か無作法があり、どこかの家から苦情でも入ったのだろうか。


 そう思って生きた心地がしなかったのだが、


「……お、おあー……マリーナさんが恋焦がれる乙女になってて、それでレスターさんが出版社に乗り込んできたと」


 レオニスからことの次第を聞いて、エナは呻くようにそう漏らした。


「そこでヌルアオ……君の名前が出てな。コスプレ茶会とやらで何があった。詳しく説明してくれ」

「何かあったっていうか……何かしかなかったっていうか……」


 そう呟くエナを、レオニスが軽く目を細めてその何かを話すように促してくる。

 エナは手持ち無沙汰を誤魔化すようにティーカップに入ったハーブティーをティースプーンでクルクルとかき混ぜながら言う。


「……あの状況、何て言ったらいいんですかね? 私も上手い言葉が思いつかないんですが」

「いいから話せ。一から全部だ」


 レオニスの言葉にエナはうぐぐと唸り、必死に説明の言葉を捻り出した。


 そう、あの日は初夏の日差しというにはまだ柔らかい、春うららかな日差しが降り注ぐ絶好の茶会日和だった。

 リトルパイン伯爵邸の庭は麗しい薔薇が咲き誇り、ため息が漏れるほど。

 そんな麗しい庭で行われることになったコスプレを楽しむ茶会。


 すでにその字面だけでもおかしいのだが、それでも久しぶりにコスプレイベントを楽しめるのだと思ってエナは張り切っていた。


 張り切っていたのはエナだけではない。主催者のひとりのマリーナももちろん、一番張り切って楽しもうとしていたのは主催のサポートを行っていたアクアヴァリー侯爵夫人だ。

 マリーナとアクアヴァリー侯爵夫人が厳選した招待客も変わった催しに心を躍らせ、次々にリトルパイン伯爵家を訪れた。


 そうしてエナはマリーナ、アクアヴァリー侯爵夫人と共に招待客をもてなしたのだ。

 コスプレをして。


「いやあ……なんというか、女の子にあんなにキャーキャー言われるのって初めて体験しましたわ。もうアイドルになったかと」


 前世でもコスプレをしてきて「お写真いいですか?」と尋ねられたり、お世辞のように「素敵ですね」と褒められることはあったが、あそこまで現実にマンガのキャラクターがいる! と興奮されることはなかった。

 そんな熱狂状態に水を差さないようにエナは必死に招待客をもてなしたのだ。


 そのおかげもあってか茶会は大成功だった。

 次も参加したいという令嬢。次は自分もやってみたいという令嬢。いっそ舞台をみんなで作ってみないかと提案する令嬢。


 反応は様々だったが概ね好評で、次もまた企画してみましょうね、とマリーナたちと話して終わっている。


「それでマリーナ嬢の反応がどうして恋する少女のようになる?」

「あー……マリーナさんのコスプレがヒロインだったからですね。王子と公子の間に挟まれて取り合われる役なんですけど、そういう場面とかを再現することもあって……まあ、彼女もヲタクだったので……」


 美味しすぎる! と噛み締めてしまったわけだ。


 その萌え滾ってしまった想いが恋心と勘違いされている可能性が高い。


「なるほど」


 エナの言葉を聞いてレオニスは小さくため息をついた。


「つまり舞台役者に恋焦がれるような感覚に陥っているだけと」

「あー、それに近い感覚は確かにありますね。でもマリーナさんの場合、それだけじゃあなくて……」

「それだけじゃない?」


 エナの言葉にレオニスが怪訝に聞き返す。

 レオニスの疑問にエナはどう答えるべきか思い悩み、しばらく唸るとやがてこう切り出した。


「なんて言ったらいいんだろう。マリーナさんの名誉に関わることなんで、あまり言いふらさないでいただきたいのですが」


 そう前置きするエナにレオニスはますます怪訝に顔をしかめる。

 その顔に向けて言うのは嫌だなあと思いながら、エナは躊躇いがちにこう告げた。


「マリーナさんって、腐ってるんですよ」

「は?」

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