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「改めて自己紹介いたしますね。わたくしはマリーナ・リトルパイン……前世の名前は小松 真里奈。しがないオフィス・レディでしたの」
「これはこれはご丁寧に。私はエナ・ベルトゥリー改め鈴木 恵那……“ぬるぬるアオミドロ”の名前でヲタクやっておりました」
「“ぬるぬるアオミドロ”!?」
途端、リトルパイン伯爵令嬢ーーマリーナがカッと目を見開いた。
「“ぬるぬるアオミドロ”様といえば、あの、壁サーの……! あああ、あの、わたくし、ファンで……! いつもイベントではいの一番に買いに走らせていただいて……!」
「えっ! あ、そ、そうなんです? それはそれはありがとうございます?」
「あの、竜王伝説の覇王様のコスプレも素敵でした……超絶クールで孤高の麗しき覇王様に会計対応していただいた時の笑顔がもう、本当に悶絶して……なのに渡す本が覇王様の陵辱ものなんですよ! もう、覇王様ぁあああ! って気持ちになって」
「その説は本当にくだらない本を……」
「いいんです! それがいいんです! あの時は本当に素敵な本をありがとうございました。わたくしの中にいる雄の勃起が収まりませんでしたもの」
「ソウデスカ、ソレハヨカッタデス」
誰もが振り返る美少女のあけすけな下ネタにエナは対応に困惑した。
けれども彼女は興奮冷めやらぬ様子でエナのことを拝んでいる。
「まさかぬるアオ様がこの世界に転生してきているとは……いえ、マリオン様の漫画の画風を見た時からぬるアオ様の画風とよく似ているなとは思っていたんです。でも、まさかご本人様だとは……神はわたくしを見捨てていなかったのですね」
「そんな大袈裟な……」
「いえ! わたくし、ぬるアオ様が逝去なされたとご家族がSNSにお知らせしてくださった時、本当に絶望したんです。本当に惜しい作家を亡くした……わたくしはもうぬるアオ様の新刊を読むことができないのかと……そんな失意の中、退勤して……わたくしは信号無視のトラックにはねられて、気づいたらこの世界に転生していたのです」
「すごいテンプレ。異世界転生トラックじゃん」
「ええ、まさに。わたくしも驚きました」
そこでマリーナは興奮を冷ますようにお茶をひと口する。
エナもつられてお茶を飲む。
「……ちなみに、ぬるアオ様はこの世界がどのような世界かはご存知でしょうか?」
「ううん、私は知らないんだ。マリーナさんは知っているの? というか、元ネタあるの?」
「はい。この世界は"銀月が見守る世界に祝福されない花が咲く"という物語の舞台かと存じます」
マリーナは語る。
この世界は小説投稿サイトの片隅でひそわかに更新されていた“白い結婚”のテーマに昼ドラよろしくドロッドロの不倫劇を組み込んだちょっと毛色の変わった連載小説だったとのこと。
主人公はエナ。家族に冷遇され、売り払われた先でも冷徹な実業家レオニスに顧みられず、悲劇のヒロインとして涙に暮れる日々。
そんなある日、たまたまレオニスと参加した夜会で運命的な出会いを果たす。
それがアクアヴァリー小侯爵で、それからエナは彼とは何度かの巡り合いを重ねるうちに心を通わせるようになる。
そこに立ちはだかるのがアクアヴァリー小侯爵の婚約者・マリーナ・リトルパイン伯爵令嬢。
「つまり、我々は」
「そう……ヒロインと悪役令嬢という立場ですの」
エナの言葉を引き取って、マリーナが言った。




