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「…………わお」
聳え立つ鉄門。その奥にあるのは花が咲き乱れる麗しい前庭と、エナが今まで見たこともないほど大きな邸宅。
前世ですら見たことのない大規模の邸宅の前に立ったエナは自分の足が若干震えるのを感じた。
感覚は一等地駅前のタワーマンションの高層階に招かれた気分。
世話役の侍女がいるとはいえ、これからあの邸宅にひとりで乗り込むのだ。
レオニスにもついてきてもらえば良かった、と後悔するも後の祭り。
だが彼は忙しいのだからあまり煩わせたくないし、何よりこれから会うリトルパイン伯爵令嬢はレオニスがいたら話をしてくれないだろう。
エナは自身を懸命に奮い立たせると、頼もう! と心の中で唱えながら門番にリトルパイン伯爵令嬢からの招待状を差し出した。
「エナ様、お会いできて嬉しいですわ! お身体は大丈夫ですか?」
門番に招待状を見せれば大きな邸宅の中にすぐさま招かれて、エナはエントランスホールで招待主に手厚く歓迎された。
「ええ、本日はお招きいただきまことにありがとうございます。今までご心配をおかけいたしましたがこの通り本日は体調も良く、リトルパイン伯爵令嬢にお目通りが叶って嬉しゅうございます」
「まあ、エナ様。そんな他人行儀な呼び方なさらないで、わたくしのことはマリーナと呼んでくださいな」
レオニスが呼んでくれた教育係から習ったことを必死で思い出しながらエナがカーテシーを披露すれば、リトルパイン伯爵令嬢はにこやかに対応してくれた。
「さあ、こちらへどうぞ。お茶とお茶菓子をご用意しております」
そうしてリトルパイン伯爵令嬢の案内の元、エナはこの邸宅のサロンに踏み入れた。
そこはウィスタリア男爵邸にあるサロンと比べものにならないほど贅沢なサロンだった。
いや、ウィスタリア男爵邸が見窄らしいわけではない。
ただ単純にここの格が違うのだ。
赤を基調として纏められたあたたかな部屋にはベルベッドの絨毯が敷かれ、一歩一歩踏み出すごとに深く足が沈む。
ダークブラウンの調度品はどれもこれもが丁寧に磨かれて、すべてが高級なアンティーク品。
勧められて座ったソファーはフカフカのクッションに深く体が沈んで、一度座ったら立てなくなるような心地よさ。
アフタヌーンティー用のセットはとても上品で、見ているだけでため息をついてしまいそうな美しさがあった。
さながら高級ホテルのラウンジを独り占めするかのような部屋に、エナはひとり恐縮して身をすくませた。
やっぱりレオニスについてきてもらえばよかった。
何度目かもわからない後悔に思わずチラチラと出入り口の方を見てしまう。
リトルパイン伯爵令嬢が二人で話したいと人払いし、エナの連れてきた世話役の侍女も部屋の外で待たせている状態だからだ。
「そんなに緊張なさらないで。格式ばった作法は求めておりませんから」
「は……はい」
「さあ、冷めないうちにお茶をどうぞ」
「いただきます」
リトルパイン伯爵令嬢に茶を勧められ、エナはティーカップを取って口をつけた。
鼻から抜ける香りは飲んだことのない甘やかな薔薇の香り。
これほど高級感のある香りの茶葉を飲んだことはなくて、ますます緊張する。
貧乏舌には前世で飲んでいた大量生産品の水出し麦茶が一番合っている。
そういえば転生してから久しく麦茶を飲んでいない。今度使用人に相談して作ってみようか。
うっかりと現実逃避気味に物思いに耽っていると、リトルパイン伯爵令嬢と目が合ってにこりと微笑まれた。




