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アクアヴァリー侯爵主催の夜会からしばらくして、リトルパイン伯爵令嬢からエナに茶会の誘いがあった。
最初の誘いはエナには伝えず、病弱設定を利用した体調不良ということで丁寧に辞退した。
フォローのできる使用人をつけるとはいえ、まだエナにひとりで社交をさせるのが不安だったからだ。
ましてや相手は侯爵に嫁ぐ未来の侯爵夫人なのだから、万一の無礼があってはならない。
だがリトルパイン伯爵令嬢はめげずに二度、三度と誘いをかけてきた。
女伯爵と伯爵令嬢では身分こそこちらが上ではあったが、リトルパイン伯爵令嬢は未来のアクアヴァレー侯爵夫人だ。
社交界への覚えもよく、あまり誘いを無碍にするのは悪手だ。
それに、
「ーー…………」
レオニスはリトルパイン伯爵令嬢が書いた茶会への招待状の内容に目を細める。
エナへの手紙がよもや検閲されていると思っていなかったのだろう。
彼女の招待状は茶会の誘いの他に、不可解な文面が書き綴られていた。
『エナさん、日本という国をご存知でしょうか? 心当たりがあるならぜひ、わたくしの誘いを受けてくださいませ。わたくしはただ同郷のものとお話がしたいだけなのです』
何度読んでも意味がわからない。
そもそも日本という国はこの世界の地図上には存在しない。
彼女の指す同郷はこの国にかかるのだろうが、リトルパイン伯爵令嬢の妄想の中にある国をエナが知っているはずがない。
彼女たちは生まれも育ちもまるで接点がなかったはずなのだから。
いや、それとも自分の知らないところで彼女たちは何か接点があったのだろうか。
レオニスは深いため息をついて、リトルパイン伯爵令嬢の手紙を机に投げた。
わからないことは考えていても無駄だ。
レオニスは手元のベルを鳴らす。
「お呼びでしょうか、旦那様」
「エナ嬢のアフタヌーンティーに俺も同席する。二人分用意しておいてくれ。彼女には俺から話があると伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
家令に申し伝えると、彼は一礼をすると執務室を出ていった。
レオニスは机に投げた手紙にもう一度目をやる。
なんだか得体の知れない予感が腹の中に居座っている感覚があって気持ちが悪い。
「…………ニホン」
馴染みのない国の名前を口の中で転がすように呟く。
普通ならば知るはずがないと一笑に伏すところであるが、それでも何となくエナはその国を知っているような気がした。




