表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

テロ実施 政治家よ正直になーれ!

 ある時、ある日本の政治家がこのような発言をした。

 

 「日本の財政はギリシャよりも悪い……」

 

 近年の増税を正当化する為の発言だった。ギリシャは財政危機を経験していてそこから回復した経緯があるから、引き合いに出したのだろう。

 この発言は多くの点で正確性にかける。

 まず、確かに日本の債務残高はギリシャよりもはるかに悪い。だが、ギリシャはEU加盟国であり、しかも対外債務の割合が大きい。その為、財政健全化しなくてはならない立場だった。それに対し、日本は国内でほとんどの借金を賄っている。諸外国からの圧力がない訳ではないが、それほどではない。

 つまり、ギリシャはEU各国から財政健全化の圧力がかかっている状態にあったからこそ、財政健全化を進めなくてはならなかったのである。

 もちろん、外国の圧力があろうがなかろうが、日本に財政問題があるのは事実だし解決する必要があるのも事実だ。しかし、ギリシャはその手段として公務員の給与の削減や年金の減額も行っている。だから、

 「財政がギリシャよりも悪い」

 と、主張するのなら、増税ばかりでなく、それらも行うべきであるはずだ。因みに、日本は年収が1千万円を超える高齢者にも高額の年金を支払っている。年収200万円で年金保険料を負担している若者が知ったら激怒するのではないだろうか?

 

 ……さて。

 莫大な国の借金が原因で起こる通貨安…… 物価上昇は実は借金の踏み倒し…… 債務不履行とほぼ同義である。物価が二倍になれば、国の借金は実質的に半分になる。そして現在、通貨安、つまり円安が起こっている。更にこれはもっと直接的な借金の踏み倒しであるが、前述した通り、増税を行っている。

 つまり、現在日本は既に借金を踏み倒しているのである。

 

 ――では、何故、それを正直に発表しないのだろう?

 

 当然、前述した通り、責任を取りたくないからだろう。公務員の給与を削減したくないし、年金だって削減したくないのだ(ただし、年金に対する増税の話は出ている)。

 

 ならば、言わせてしまえば良い。

 

 国会中継を私は観ていた。

 政治家の一人が登壇している。ターゲットだ。

 私はにやりと笑った。

 彼には実は自白剤をこっそりと飲ませてある。質問された事を正直に何でも話してしまうのである。

 私はタイミングを見計らってボタンを押した。AIで作った人工音声で、質問が響く。

 『国の借金が悪影響を及ぼし、円安を引き起こしている上に財政を理由に増税まで行っているのに、既に債務不履行状態にある事を正直に発表しないのは何故か?』

 戸惑った顔を浮かべてはいたが、彼は自然と口を動かしていた。

 「債務不履行状態にあると発表を行えば、官僚や政治家達が責任を取らされ、収入や地位に悪影響を及ぼすからです」

 国会はざわついていた。が、中継は遮断されない。何が起こっているのか把握していないのだ。まだ質問は可能だと考えて私は再びボタンを押した。

 『様々な増税が実施される中で、何故、宗教法人に対しての増税が議論されないのですか? 欧米並みに課税すれば良いのに』

 焦燥した顔を付きではあったが、彼はまた口を開いた。

 『選挙において組織票やその他の協力を得られるからであります。また、暴力団の脱税にも宗教法人は利用されておりまして、彼らと付き合いのある我々としては、その手段を護らなくてはなりません』

 国会のどよめきが大きくなる。

 私は急いで再びボタンを押した。恐らく、後一回が限度だろう。

 『規制緩和、改革を行えば、生産性向上及びに新産業の育成を促せ、経済成長を起こせるはずです。そうすれば、債務不履行などせずに済むでしょう? 国民の生活の為にも早急に実施すべきでは?』

 「規制緩和、改革を行うと、既得権益を手放さざるを得なくなります。国民の生活よりも我々の利権の維持の方が優先事項としては上であります……」

 そこで国会中継は遮断された。

 画面が消える刹那、国会では喧騒の中、怒号が飛び交っていた。

 “やった”と私は思う。

 テロは成功だ。これで日本は変わり始めるかもしれない……

 

 国会中継後、テレビでもネットでもこの話題で持ちきりになっていた。SNSのコメント欄では政治家や官僚に対する悪口が溢れ、収拾が付かない状態だ。財務省解体デモも再び大きくなり、様々なインフルエンサーが反応しているが、国の肩を持つような態度は軒並み叩かれていた。

 “よし! いいぞ! これならいけるかもしれない!”

 が、盛り上がったのは1週間ほどだった。それ以降は徐々に尻すぼみになり、遂には前とほとんど変わらない状態にまで落ち着いついてしまった。

 「一体、どうしてなんだ?」

 私は会社の食堂でニュース番組を観ながら、思わずそう呟いてしまった。すると、偶然それを耳にしていた同僚が言う。

 「いや、だってさ、大体こんなもんだろうって、そもそも皆思っていただろう? 予想通りの事が、予想通りだっただけだから、あまり騒がないのじゃないのか?」

 それを聞いて私は愕然となった。

 

 ……そろそろ、日本人はもっと怒るべきなのじゃないだろうか? そうじゃなかったら、本当に悲惨な事態に陥ってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ