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隣発、渡り歩く

 年明けの、寒さの増す朝だった。私の出勤前のわずかな時間を見計らってやって来た早見さんから、引越すことを告げられる。

「相手する数が増えすぎたみたい。同じところに長くいられないの」

私はまなみを思い出す。まなみは満足したのだろうか、それともいまだ早見さんに面倒をみてもらっているのか。思えば越してきたばかりの頃、やたら偶然に出会って早見さんと仲を深めることに至ったのは、存在に気づいて欲しかったまなみによる、引き合わせの力が働いていたのかもしれない。私としては早見さんという友を得られたことは幸運だったが、早見さんにとっては迷惑な話だったかもしれない。

「まなみの、せい?」

「どう思う?」

逆に聞かれて、私は答えにつまる。少なくとも、まなみのことを思い出して以来、私の中に小さな灯火が灯り続けていることは確かだった。芸人になりたいわけではない。ただ、純粋に楽しいと思うことを楽しんでいた、あの頃の感覚が、私を前向きにたきつける。先のことを考えたり何かを選択したりする際、なりたいと思う自分へ針路を取るべく、私は迷うことが少なくなった。

「まなみのおかげ、か」

私たちはなんとなく見つめ合う。早見さんはいつもの、どこに足をつけているのかわからない頼りなさで、静かな笑みを浮かべていた。

「寂しくなるな、遊びに行きます」

どこへ越すのか聞いた私によくわからない、と早見さんは言う。

「最寄駅は?」

「なんだっけな」

思い出す素振りすら見せない。本当に覚えていないみたいだ。

「パン屋がある駅」

「ああ、あの有名なパン屋……って、全然わかりません!」

私が頬をふくらませると、ウケたのか、早見さんはぱちぱち、と手を叩いてみせた。それから空を見上げ、やっぱりさもおかしい、というように、屈託なく笑うのだった。



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