真夏の夜の故障
夏本番を迎えようとしていた朝だった。寝返りをして、暑さのあまり私は目を覚ます。つけっぱなしだったはずのエアコンが止まっている。故障だった。大家さんに手配してもらった業者が来るのは三日後で、途方に暮れながらも一日を終えた私は、その晩エアコンなしの就寝を試みる。
寝られたものではなかった。冷凍庫からかき集めた保冷剤も、窓を開けることも打ち水も、何の役にも立たない。明け方少しだけウトウトとし、目覚めた時には汗だくでぐったりと力尽きていた。
命の危険を感じた私は早見さんを頼る。
「二晩、寝るだけ。どうしても。お願い」
早見さんはどれだけ打ち解けても、これまで絶対に私を家にあげようとはしなかった。さも嫌そうに、私の背後に視線をやる。
「決して、何にも反応しないで。何があっても絶対」
何度も念を押され、何の話かわからぬまま私が肯首すると、ようやく許可がおりた。夜になり、風呂も歯磨きも終え、私は身支度を整える。枕とタオルケットを片手に、早見さんの部屋を訪れた。
必要最低限の家具、家電とちょっとした装飾インテリア、間取りが逆なだけで、私の部屋とさして変わらない。早見さんはもう寝るところらしかった。昨晩ほとんど寝ていないこともあり、私も早々と彼女の用意してくれていた寝床に横になる。ところがここでも私は寝られなかったのだ。
耳をつんざく爆音が私を襲う。驚いて、布団の上に身体を横たえたまま動けずにいると、これまで嗅いだことのない悪臭が漂ってきた。頭痛がしそうなほどの光が眩しく輝いた後、自分がどこにいるのかさえわからぬほどの漆黒に包まれる。いくらなんでもエアコンの効きすぎでは、と凍えるほど寒くなった刹那、昨夜の自分の部屋の方がましなのでは、と思うレベルの灼熱になった。一体何がどうなっているのか、混乱した私は助けを求めるように早見さんの方を見る。早見さんはベッドの上で微動だにしない。よくもこんな状況で、と呆れてよく観察してみると、ぶつぶつと何やら唱えたり、かすかに手が動いたりしている。熱心に眠るよう努めているかのようだった。
自分の部屋へ帰って寝た方がマシだ、私が枕を引き寄せ起きあがろうとした時だった。ぐいっと腕をつかまれた。
「ひぃ」
声にならない声を出して、私は腕を振りほどこうとする。この部屋には私と早見さんしかおらず、早見さんは私の目の前でベッドの上に横たわっており、私は誰からも腕をつかまれるはずはなかった。
「や、やめて」
私は腕を振り回す。腕に食い込む力は一層強くなり、思わず振り返った私の視界に、私の腕をつかんでいるらしき影が映り込む。私はひっ、と息を飲み、空いている方の手で思いっきりその影を突き飛ばした。