06
<side ユリウス>
「レイチェルとの婚約を白紙に?なぜですか陛下」
父に呼ばれた執務室で「レイチェル嬢との婚約は白紙になった」と告げられた。レイチェルが危惧していたことが現実となり、魅了の魔法の恐ろしさを知る。
外堀を埋められ、レイチェルとの婚約は無かったことになり、あの姫との結婚を命じられるのだろう。
「隣国のスカーレット王女がお前を見初め、嫁入りしたいと申し出があった。魔力や魔法の精度もレイチェル嬢より上であるし、身分も高い。立太子に反対していた者たちも賛成せざるを得ないだろう」
「その王女にレイチェルと同じ事ができるとは思いませんが」
「魔石や道具のことであれば、レイチェル嬢に作成を命じればいいだけだ」
レイチェルは意思や思考をすべて操るほどの力はあの姫には無いだろうと言っていた。だから、この発言はおそらく本心なのだろう。だからこそ腹が立った。
一度目の人生で僕に全てを捧げたレイチェルは殺された。今回の人生でもそのほとんどの時間を僕のために充て、献身的に僕を支えるレイチェルが不要だと?
僕の事を何も知らないあの女が完璧な魔力の制御を行っているレイチェルが劣ると?
怒りでどうにかなりそうな自分を鎮め、なんとか言葉を紡ぐ。
「陛下はレイチェルの献身に報いる気はない、と」
「白紙とは言えども今までの働きに関しての対価は与えるつもりだ」
「そう、ですか」
お前に何が分かる。
レイチェルの働きはなにも魔石や道具だけではない。折れそうになる僕の心を癒し、前を向くように手を引いてくれる唯一無二の女性だ。そして新たな道を提示してくれた。
無能である僕を誰も助けなかった。魔法が使えないからできなくて当然だと言う人間たちをよそにレイチェルは「二人でなんとかしましょう」と笑って僕を助けてくれた。
魔法が使えない僕でも魔法を嫌わないように楽しませてくれたし、なにより魔法を使いたいという願いをレイチェルは叶えてくれたのだ。
そんなレイチェルの功績を金銭に変えられるわけがないだろう……!!
「これは決定事項だ。さきほどレイチェル嬢の元にも使いをやった」
「……」
無言で頭を下げ、僕は父の前から辞し、僕は行くべき道を決めた。
「今度こそ二人で幸せになろう、レイチェル」