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05

<side レイチェル>


 年に一度の建国祭に向け、各国から要人が集まってくる。建国祭前からあらゆるところでパーティーは始まっており、私もユリウス様の婚約者としてどこかしらのパーティーへと出席していた。

 前の人生では引きこもっていたから初めての経験だったけれど、いつも以上に輝きを増しているユリウス様と一緒にいられるのは楽しかった。


「……レイチェル、ダンスも上手になったね」

「幼いころからずっとユリウス様に練習相手になってもらいましたから」


 感慨深げに私を見て微笑むユリウス様に笑みを返してダンスもつつがなく終える。あとは挨拶回りをして適当なところで帰れば良いと思っていた時だ、入口付近がざわざわと騒がしくなったのは。


「見えるかい?」

「少々お待ちください」


 遠見の魔法を使って入口付近を観察すると、どうやら招待状を持っていない姫君が中に入れろと騒いでいるらしかった。他国の姫君の扱いに騎士たちも困り果てているようで、一人がこちらに向かってくるのが分かった。


「厄介ごとは全部僕。王子なんて損な役回りだと思わないかい?」

「王子様でなければ、私と婚約していただけなかったので私は嬉しいです」

「はいはい、ご機嫌取りも上手になって……。行こう、レイチェル」

「はい」


 私たちを見つけた騎士がユリウス様に事情を話し、対応を求めたのは予想通りだったが、その場に着いたときに、注目の的になっていた姫君がユリウス様に抱き着いたのは予想外だった。

 止めようとした騎士をするりと躱してユリウス様に抱き着くその姿は見事としか言いようがなく、私も後れを取ってしまったが、ユリウス様が身に着けている宝石すべてが私の魔石なのでそれが反応しないということは害意がないという事だ。とりあえず事の成り行きを見守ることにした。


「ようやくお会いできましたわ!ユリウス殿下!!」

「あなたは……」

「申し遅れました、スカーレットと申します」


 その名は隣国の姫で、お騒がせ姫と呼ばれる厄介な姫君だった。私とユリウス様の間に割り込むように入り、自身の胸をユリウスの腕に押し付ける彼女にユリウス様は不快感を隠さず眉間にしわを寄せた。


「それで、どういったご用件でしょうか」

「わたくし、決めたのです!あなたの妻になることを!!」


 前の人生でこんな展開はあったのだろうか?と純粋な疑問を持ち、ユリウス様を見やればどうやら初めての出来事らしく大いに戸惑っていた。


「失礼ですが、私には婚約者がおりますので」


 スカーレット姫の腕を振り払い、私を抱き寄せたユリウス様にもめげずに、彼女は恍惚とした表情で「略奪愛も覚悟の上です!」と言い放った。

 これは、人の話を聞かないタイプの姫君なのだろうと思い、ユリウス様に「別室に移動いたしましょう」と耳打ちする。

 ユリウス様に促されれば、スカーレット姫も抵抗せずに別室に移動してくれたのだが、そこからが大変だった。自分がいかに魅力的かという怒涛のような話とセットでの私の悪口。そんな話を聞かされるユリウス様の額に青筋が立っており、いつ怒りが爆発してしまわないかとハラハラしていた。


「あなたは、僕に一目ぼれをし、結婚を願っている。そいう事ですね?」

「はい!父上にはもう頼んでおります!!」

「お話は承知いたしました。ですが、ここで結論が出るお話でもありませんので、本日のところはお引き取り願えますか?」

「ええ、そうですね。そこの邪魔な女の顔も見られた事ですし、お暇致します。お見送りをお願いできますか?」

「申し訳ありませんが、僕はすぐに会場へと戻らなければなりませんので」


 食い下がろうとした姫が言葉を発する前に、ユリウス様の側近がさっと彼女を促し部屋から出ていく。そして十数秒後、私が防音の結界を張った瞬間ユリウス様は叫んだ。


「なんなんだあの女!?」

「パワフルな方でしたね」

「猪突猛進、あれはイノシシかなにかか!?」

「……魅了持ちというのは、対人関係において優位に立てるはずですから焦っていたのでしょう」


 魅了というのは人の心を操る魔法の一種だ。先天的にしか得ることのできない魔法で、常時発動型と随時発動型の二系統に分かれる。彼女は後者のようで任意のタイミングで魅了を使っていたが、ユリウス様が身に着ける私の魔石にすべて弾かれていた。


「やっぱりそうなんだね」

「はい」


 魅了を弾く魔石はユリウス様のピアスに仕込んでいたので、力を補充しようと手を伸ばすとその手に捕まり、頬を寄せられた。


「あれ?という表情が垣間見えていたから、もしかしたらとは思っていたが……」

「体調はなんともありませんか?」

「ああ、レイチェルが愛しくてたまらない」



 そう言って私を抱きしめるユリウス様の腕の中で大人しくし、この先、どうするべきかを考える。魅了の魔法からユリウス様を守る事は造作もないことだが、相手が相手だ。外堀を埋められる可能性は高く、私はそれを阻止する力がない。

 ユリウス様も王子という立場ではあるが、王命には逆らえない。そんな事態になったら私たちが時を遡った意味がない。だから……


「あの、私のお話を聞いていただけますか?」

「なんだい?改まって」


 ユリウス様を見上げ、じっとその顔を見つめるとその頬がわずかに赤くなる。


「キス、しちゃうけど?」

「お話の後でならいくらでも」

「話して、早く」

「……王子をやめませんか?」

「え?」

「ユリウス様が王子として成し遂げたいことがあるのであれば、無理にとは言いません。けれど、人を意のままに操れる魅了を持った姫君に対して私は対抗できる術がない。魔法で負けるという話ではありません、政治的な話です。私にはユリウス様という後ろ盾以外何もありません。父は私を使うだけで期待はできないのですから」

「僕が王子を辞めたらそれこそ何もないだろう?」

「私がいます」

「一緒にいてくれるの?王子では無い僕と」

「当たり前です。私はユリウス様と幸せになりたい。ただそれだけのために生きております」

「……そっか」

「もちろん簡単な事ではないと思います。これから先のことは未知の未来。それでも、死ななければどうとでも変えられる。それに、あなたを無能と蔑むこの国の人が私は嫌いなんです。昔から」

「少し考えさせてくれるかい?」

「もちろんです」

「ありがとう、レイチェル、僕の愛しい人」


 優しく触れるだけのキスをされ、ほっと息を吐くと噛みつくようなキスが降ってきて慌てて受け止める。


「レイチェル、愛してる。君が好きだ。君だけが僕のすべてを愛してくれる。僕の最愛……」


 私もです、と答えたかったがふわふわと思考が溶け、まともに言葉を紡ぐことができなかった。



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