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04

<side ユリウス>


「ユリウス殿下、こちらを」

「あぁ、悪いね」


 メイドが持ってきたブランケットを僕の膝で眠るレイチェルにかけてやる。知識にある魔法をどの程度まで使えるかを試していたのだが、魔力よりも先に体力が尽きて眠ってしまったのだ。

 あどけない寝顔は本当に可愛くてそっとその頬にキスをする。

 

 前の人生では両親からの愛が得られず愛情に飢えていたレイチェルを毒するように、みせかけの愛情を注いでいたから、どこか陰鬱で暗い雰囲気をしていたけれど、今ははつらつとした愛らしい子供だ。

 まぁ、中身が肉体年齢とそぐわないということもあるだろうけれど、僕からのありったけの愛と使用人からの愛を受け取れば、変わるのは当然だろう。

 化け物という評価は複合的なものだ。力の強さ、何を考えているか分からない所、容姿、僕の婚約者という肩書、彼女の父、そういった様々なものに恐怖した人間がつけたものだ。

 だから僕は変えられる所を変えていった。これから先、レイチェルが少しでも楽に生きられるようにそれとなく本人と周りを誘導してやれば、面白いようにうまく事が運んだ。今ではこの別宅のアイドルだ。


「ん……。……ユリウス様?」

「おはよう」

「あぁ、また寝てしまったのですね。申し訳ありません」

「可愛いレイチェルの寝顔が見られるこの瞬間は至福の時間だよ。ゆっくりと開かれる瞳に僕が映る瞬間も好きなんだ」

「それは、なんと申し上げたらいいか……」

「ユリウス様、大好きとかだと嬉しい」


 顔を真っ赤にしたレイチェルは小さな声で「大好きです」と口にし、ブランケットをかぶせて己の顔を隠してしまった。

 その可愛らしい行動に内心悶絶しつつも、努めて平静を装ってその体を優しく抱きしめる。


「顔、見せてよ。寂しい」

「お見苦しい表情ですので!」

「僕はどんなレイチェルでも好きだよ。あぁ、でも”あの瞬間”のレイチェルは嫌だった。だから可愛い今のレイチェルで忘れさせてよ」

「……ずるいです」


 そっとブランケットから顔を出したレイチェルは眉間にしわを寄せて不服そうだったので、その眉間にキスを落とし、頬にもキスをする。


「使えるものは使う主義だからね。でも、可愛いレイチェルを見たいのは本音だよ」


 仕方ないとばかりに体を起こしたレイチェルは両手を広げて「抱っこ」とせがんできてあまりの可愛さに、一瞬息が止まった。


「……どうしようレイチェル」

「お気に召しませんでした?」

「今すぐ君を攫って僕の部屋に閉じ込めたい……。今までも最高に可愛いと思ってたけど、それ以上があるの?嘘だろ??」

「監禁はちょっと……。あと、そうまじましと見られるとさすがに恥ずかしいと言いますか……」

「最高だよ、レイチェル!!」


 レイチェルを抱きしめて、可愛い可愛いと囁けば「今日のユリウス様は変です」とひかれたが気にしない。

 この時の僕はこの愛らしさを世間が知れば化け物と呼ばれることは少なくなるだろうと確信していた。だが、それ以上に厄介な問題があることに僕は気が付いていなかったのだ。


 レイチェルは思った通り可愛らしく成長した。容姿の奇異さはあるものの、魔法研究に明け暮れ引きこもることもなかったし、友人付き合いもそれなりにできるようになっていた。

 僕に付き合って剣の稽古をしているからほどよく筋肉がついて、前のような不健康な白さや細さはなくなり健康そのものの体つきになりドレスもよく似合うようになった。

 

 そんな彼女は勉強も魔法もできる第一王子にふさわしい”完璧なご令嬢”として過ごしていた。

 

 本人は完璧を目指していたわけではないようだけど、化け物と呼ばれ僕の評価が下がるよりは完璧と言われた方その評価があがるからと、手を抜くことなく何事にも一生懸命に取り組んでいた。

 それがご令嬢たちの憧れとなり、男どももあわよくばという気持ちで近づいているものが多かった。レイチェルが好かれる事は喜ばしいことだ、敵より味方が多いというのは何かと助けになる。

 

 そして、そういった状況になって僕は気が付いてしまったのだ「今のレイチェルに僕は必要ない」と。

 前の人生ならば、レイチェルを愛する人間は僕しかいなかった。愛に飢えていたレイチェルは僕の愛無しでは生きていけなかったはずで、僕が生きる意味の全てだった。


 だが、今は状況が違う。レイチェルは僕以外の愛を受け取ってしっかりと自分の足で前に進んでいる。僕の存在が大事と言うことは分かっているし、なによりも僕を優先することも知っている。

 でも、僕に対する依存度は昔よりもずっと小さい。むしろ僕の方が依存度を増していると言っていいくらいだ。 


 僕はレイチェルがいなければ生活が成り立たない。王子でいるにはレイチェルの力が絶対に必要だ。魔法を前提とした式典や儀式はレイチェルの力なしでは成し遂げられないし、書類仕事一つにしても彼女が作った道具がなければ完遂できないのだから。

 

 そんな僕をレイチェルが自ら手放すかもしれない事に気が付いて背筋が凍った。どんなに僕が愛しても、レイチェルが僕を永遠に愛してくれるとは限らない。また僕はレイチェルを失うのか……?

 そんなのダメだ。レイチェルは僕のレイチェルでいてくれないとダメなんだ。

 僕はレイチェルしかいらない、レイチェル以外のモノはなにも望まない。レイチェルさえいてくれればそれでいい。僕の隣で笑ってくれていれば僕は幸せなのだから。


「ユリウス様」

「なんだい」

「私はあなたに閉じ込められ、枷をはめられてもいいと思っています。さすがに、婚約者とはいえ未婚の学生で妊娠ということは避けたいですが、それをユリウス様が望むなら受け入れます」

「え?」

「ユリウス様が悩まれることは大抵私の事ですし、今と昔の違いは私の立ち位置だけですから。間違っていましたか?」

「正解だよ。あと、その受け入れるっていう表現はなんだか聞こえが悪いから訂正してくれるかい」

「訂正ですか……?大好きなユリウス様との初めては結婚した後がいいです、ダメですか?」


 小首をかしげて可愛らしく願う姿を教えたのは僕だが相変わらず破壊力がすさまじい……。


「……うん、満足した」

「お気に召したようでなによりです」


 子供のころは恥ずかしがっていたのに今では僕の機嫌を取るのもお手の物だ。試験前で時間があるからと僕の屋敷を訪ねてきたレイチェルの用事はおそらく僕を安心させるためのものだ。

 今も前も僕の感情を読み取るのが上手だから、すぐに彼女には僕の考えている事がばれてしまう。この年頃のレイチェルはおどおどして思った事は僕が促さないと口にしなかったのにすっかり変わってしまった。それが少し寂しく感じるのは僕のわがままだろう。


「ねぇ、レイチェル」

「はい」

「ずっと僕を好きでいてね」

「はい、もちろん」



 こんな口約束で安心はできないけれど、不安は紛れたので今は良しとしよう。


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