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<side ユリウス>


 愛する人の命が奪われたのは憎らしいぐらいに晴れ渡った日だった。公開処刑が行われる刑場へ入ってきた彼女は一切の恐怖を心のうちに隠し、いつものように穏やかな微笑みを浮かべていた。それは断頭台へと首を差し出すときも変わらなかったが、それすらも民衆に”化け物”として恐怖を与えた。

 公開処刑とされたのは国内外へ”化け物が処分された”という事をアピールするためのものだ。彼女が大罪を犯したわけではない。奇異な容姿と大きすぎる力を持ったが故に恐れられ、人々へ恐怖を与えてしまっていたのは事実だ。だが、彼女は大きな力を持っているだけで、人に向けて行使したことは一度もなかった。


「人を傷つけてはダメだよ、レイチェル。本当の”化け物”になってしまうからね」

「はい!」


 幼い頃に約束したことだ。力の大きさやその容姿から”化け物”と呼ばれ疎まれていた彼女は、時々彼女が想像する化け物である毛むくじゃらの怪物になってしまう夢を見ていた。その夢の中で自分は大好きな僕を殺してしまったのだと大泣きしている時に約束したものだ。

 もちろんその当時の僕には打算があった。僕だけが化け物をコントロールできるという印象を周りに与え、彼女が僕の力であると思わせたかったのだ。もっとも、レイチェルは僕の命令であっても人を傷つけることを泣いて嫌がったので、彼女自らに傷つけられた人間など皆無だけれど。


 それなのになぜ処刑されることになったのか。その理由はレイチェルが生み出す魔法の理論が危険すぎたことによる。莫大な魔力量あってこそのものであったが、国の一つや二つ地図から消し去ることが容易な代物だった。本人は純粋に魔法の研究を突き詰めただけだが、それを利用しようとしたのが野心家の彼女の父親だった。レイチェルが僕の婚約者となったことで権力を増していた彼は更なる力を求め、その理論を他国へ売るつもりだと王家へ伝えてきた。売られたくなければ、僕を即位させ、自身を側近に加えろと。

 そして国が出した結論は、危険な魔法を生み出す根源であるレイチェルを殺し、王家を脅した彼女の父親を投獄する事だった。事は慎重に進められ、僕でさえレイチェルが捕まった時にようやく何が起きているかを知った……。



 レイチェルは僕にとって最愛の人だった。”無能”と呼ばれる僕をひたむきに愛し、全てを捧げ、その命まで散らしてしまった。


 出会った頃は使える駒という感覚だった。幼い彼女は僕への好意を包み隠さなかったけれど、他の貴族令嬢のように女性性を押し出して媚びる事はしなかった。彼女が僕に向ける感情は”物語の王子様”への憧れのようなもので、他の令嬢のように自分だけに目を向けさせようという気持ちはなかった。そんな彼女が僕の表面的なやさしさに縋って、捨てられないように、二度と孤独にならないように従順でいる姿は哀れだった。けれど僕にとってその従順さは心地のいいものだった。

 だって彼女は僕を”無能”とは思っていなかった。”素敵な王子様”と憧れを抱き、好意を向け、僕の傷ついた自尊心を満たしてくれた。蔑みは一切なく、ただ僕を想ってくれていた。そんな彼女の気持ちに絆されてはいたけれど、”化け物”の彼女の好意を受け入れる気にはなれなかった。

 そもそも彼女は魔法に関して天賦の才を持っていたし、それ以外でも教えればなんでもこなす天才だった。容姿以外は誰もが羨む能力を持っていて、僕の劣等感を大いに刺激した。だからこそ、道具と思って彼女を下に見ていないと気持ちがおさまらなかった。

 

 その気持ちが変化したのは、僕の「魔法を使いたい」という願いを彼女が叶えたからだ。誰も彼も僕が魔法を使うことを諦め、そんな願いを持つ僕を否定した。魔法の源となる魔力が無いのだ、それは当然の事かもしれないが、願いを持つことすら否定されることが悲しかった。

 けれどレイチェルは否定することなく「分かりました!」と笑顔で応え僕の願いを傷だらけになりながらも叶えてくれた。

 包帯の巻かれた小さな手で僕が憧れていた魔法を使える石をプレゼントしてくれたのだ。最初に使った魔法は水の魔法だった。小さな水の玉を浮かすだけのものだったが、疑似的にでも魔法を使えたことに僕は泣いた。

 馬鹿な子だと思った。今まで誰もなしえなかった事を僕のために傷だらけになりながらも成し遂げてしまう彼女を心底馬鹿だと思った。でも、小さな体で精一杯僕を愛し、僕だけのためにその力を使ってくれるその姿に僕は絆され、馬鹿らしいプライドを捨て、本心からレイチェルを愛し、大切にした。


 そう、愛していたのだ……。


 レイチェルが成長するにつれて、彼女を危険視する声が上がっていたのは知っていた。しばらく魔法の研究をやめるように伝えても彼女は今はやめられないと僕の願いを優先した。その結果が化け物としての処刑に繋がった。

 僕がレイチェルを殺したのも同然だ。僕が悪い。僕が願わなければレイチェルは殺されなかった。僕とレイチェルが婚約なんてしなければ、僕が無能でなければ……。後悔ばかりが頭をよぎり、合間に首を落とされたレイチェルの姿を思い出し怒りに駆られる。

 

 僕はレイチェルを殺した全てが許せなかった。



「ごめんね、レイチェル。君はこんな事をする僕を許してはくれないと思うけど……。僕や君を愛さない国を作ったやつらなんていらないだろう?」


 彼女が処刑された時に首から下げていたネックレスと同型のレイチェルの物を首からさげ、彼女が贈ってくれた全ての魔石や僕を守るために城に張られていた結界を暴発させ、微笑んだ。


「レイチェル、今会いに行くよ」


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