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1-6 雨天登山

 パラパラパラ、と雨が降っていた。

 (メタリカ)元素の竜ヤーデレーゲが、(フォンス)属性の魔力を使い、雨を降らせているのだろうか。


「土が流れてしまって、滑りますね」


 アーネストが歩きながら愚痴を言う。

 ヤーデレーゲが雨を降らせるインベル山は、蛇紋岩の岩肌が露呈した不毛の大地であった。


 アーネストの愚痴は珍しいことなので、ライカはそれに真面目に答える。


「この依頼は移動速度が重要だ。魔法を使って、自己を補助せよ」


「そんな便利な魔術ありませんよ」


 アーネストの答えに驚いて、ライカが振り返った。


「無いのか!?」


「魔術で何でも解決できると思わないでください」


 愕然(がくぜん)として、ライカは震えた。

 心配になって、アーネストは声を掛ける。


「ライカ様、どうしました?」


「魔法は何でもできると思っていた……」


「解像度が雑です」


「アーニーが悪いのだぞ!

 火を着けたり、飲み水を出したり、探知をしたり!!

 防御の岩を呼び出したり、攻撃の矢を飛ばしたり!!


 何でもできると思っても仕方がないではないか!!」


 合羽を濡らす雨粒を振り払いながら、ライカが強く主張する。

 こうも強く言われると、アーネストとしてはタジタジである。


「確かに、便利系の術を多めに修めてはおりますが……」


「むぅ。……この話題は以上とする。

 足元に気を付けて、足を速めるぞ」


 矛盾した指示をアーネストに課し、ライカはサッサと先に進んだ。

 率先垂範(そっせんすいはん)有言実行(ゆうげんじっこう)という事なのだろう。


 ライカほどには足腰の強くないアーネストは、濡れた坂道に滑りながら後を追った。


「ヤーデレーゲの居る山頂には、難所を2つ越えねばならないらしい。

 1つ目はそろそろだと思う。周辺警戒を密にせよ」


「了解」


 ライカの指示にアーネストが従い、周囲の生命を感知する術を唱える。


「カネ・ソヌス。生命探知(ディテテクトアニマ)


 すると脳裏に、こちらを囲うように集合する魔物の反応があった。


「敵です。15体。全方位。ジリジリと囲いを狭めてきます」


「ふむ。こういう時はどうすると良いと思う?」


「いや、私は軍師では無いので。……ライカ様の方がお得意でしょう」


「そうだな。ではオーソドックスに正面突破と行こう」


 そう言ってライカが走り出す。


(オーソドックスとは……?)

 小さな疑問を抱きながら、アーネストも慌てて後を追った。


「ついてくるな?……なんだと思う??」


「群れで狩りを行う魔物ですから、ダイヤウルフか猩々(しょうじょう)か。

 あと、可能性は低いですがレプテールの可能性もありますね」


蜥蜴人(レプテール)など。御伽噺(おとぎばなし)でしか聞いたことが無いぞ」


 ライカが呆れたように呟く。

 しかしアーネストは続けて言った。


「近年、ここのような王国の辺境地帯では、レプテールの活動が報告されているんです。

 魔術学院(ムーンライトタワー)の情報網ですから、ライカ様がご存じないのは当然ですが」


「……もしレプテールなら、ウェットフォードの地主としては聞き捨てならんな」


 ライカの生地であるウェットフォードは、凡そ100年前、レプテールの土地であった。

 それを奪い取った手柄によって同地を与えられたのが、英雄3家と呼ばれる武門貴族なのである。


 ライカの属するノール家も、3家の内の1家であり、筆頭と呼び習わされる家柄であった。


「包囲網はどうだ?」


「カネ・ソヌス。生命探知(ディテクトアニマ)


 アーネストが術を唱えると脳裏に包囲の網が浮かび上がる。


「遅れず付いてきていますね。ただ、正面突破は正解かもしれません。

 後ろを追ってくるヤツが、少し遅れています」


「そうか、ならばそこに勝機を見出そう」


 ――ブブブと羽音が耳に障る。

 黄色と黒の体色で、我らは危険だという主張をしながら、蠍蜂(さそりばち)たちが襲い来る。


「ハァ!」


 ライカは既に剣を抜き、4体を亡き者としていた。


「蜂だったな!」


「蜂でしたね!」


 土魔術の螺旋礫投(ドリルショット)で、巨大な蜂を撃ち落としながら、アーネストが応える。

 残り、10体。


 蠍蜂はその針に致命的な毒を持っており、刺されると厄介なのだが――

 ガリガリガリと、魔術の岩肌がライカとアーネストを保護している。


「掛け直します! カネ・モンス。硬化(ハーデニング)


「やはり魔法は何でも出来るな!」


「解像度が雑です!」


 それぞれ2匹ずつを屠りながら、ライカとアーネストが冗談を交わす。

 残り6体となった蠍蜂は、しばし逡巡したあと、撤退していった。


「ヤーデレーゲの魔力の高まりで、山一帯がダンジョン化しているな。

 蠍蜂程度なら、あしらいやすいが……」


「ダイヤウルフだったら、ピンチでしたね」


「ダイヤウルフなら楽しいピンチだ。

 彼らの狩りにはロジックがある」


「狩られる側に回るのは、僕はあまり楽しくありませんが……」


 アーネストがボヤくと、ライカは背筋を伸ばし、気を取り直して言った。


「良し、旅路を続行する。

 気づかぬ怪我など無いか、もう一度確認せよ」


「大丈夫です。行きましょう」


 こうして主従は肩を揃えて、インベル山の深みへと分け入っていった。

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