6-1 新たなる仲間
「どうだい? 綺麗だろ? でも綺麗なだけじゃない。
このクリスタルチェーンは、どんなものでも拘束するのさ!
…………例えば、キミの心もね!」
派手な身なりの小人族が、酒場の机を演台にしている。
彼の両手には、水の魔術の鎖があり、氷の冷気を帯びている。
透き通るような魔術の鎖は、ある種の魅力を伴ってはいた。
「きゃぁぁぁぁぁぁああああああ! 縛ってぇぇぇぇぇええええええ!」
ここは冒険者が多い酒場なのだが、コビットの彼が連れてきた一般女性5名が歓声を揚げる。
「うるっせーなー。なんだアイツ」
セルケトが呻ると、ライカが答える。
「これから一緒に冒険をする、コビットのアンドレだぞ?」
大きな肉に齧り付きながら、真面目な顔でそう言う。
「そんなこと言ってんじゃねー。ウザいって言ってんだ」
セルケトがそう言って、麦酒を呷る。
「拙者も陰キャですゆえ、正直、苦手ですなぁ」
ヤスヒコがホットサンドを綺麗に食べながら、そう漏らす。
それから肉の匂いを嗅いで、床のボロンゴに下げ渡す。
「この肉は食べられるばい。よーしよしよし、賢かね〜」
「……ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ」
人をも殺せる巨大な虎が、ヤスヒコにだけは懐いている。
「ヤスヒコは仲間が増えたね。
紹介してくれないかな?」
アーネストがさりげなく聞くと、セルケトとヘティトが心の中で喝采する。
「おおぉ、そうだった。
新しい仲間を紹介してなかったね!
そこでフワフワ浮いてるのが、風クラゲのふにゃお。
それからこっちの強そうな子が、サーベルタイガーのボロンゴだ!」
なぜモンスターが酒場にいるかのも異様だが、それが自然と許されているのが特に異様であった。
普通、魔物は街に入ることは許されないし、仮に侵入しても衛兵が駆けつけてきて殺される。
だが、ヒルドの民はヤスヒコを知っており、オスターの魔災の功労者として、魔物使いだと認識していた。
オスターは、母なるクルーム河を南に下った大港湾都市であり、ヒルド経済のお得意様だ。
その危機を収めた戦士たちを、ヒルドの民はよく知っている。
西門広場のああああ像が、意外や意外、お馴染みなのだ。
「ふにゃおはかわいいな。何を食べるのだ?」
ライカが聞いて、ヤスヒコが答える。
「水の魔石を粉にしたのが好きみたい」
「おお、涼やかで良いな。かき氷のようだ!」
ライカが応答する一方で、周囲の聴衆は「なに言ってんだ?」の顔をしている。
「かき氷! 拙者はブルーハワイが恋しいですな!」
「ブルーハワイ? 聞かぬ名だな」
「元の世界で夏に人気のフレーバーですぞ。
シロップの味は単なる化学の甘さなのですが、添加されてる青色1号によって見た目が青に染まり、食べると舌も青くなります」
未知の食べ物にワクワクしているライカ以外の全員が「病気にならないのか?」と思った。
ただし、一人例外がいた。
「ヘイ! そんな食べ物があるのかい!?
クリスタルチェーンを操る、ボクのためのスウィーツじゃないか!!
用意してくれないかい?!!」
ウザ可愛い笑顔で、コビットのアンドレが向かってくる。
「あ……青色1号無いので……」
ヤスヒコが一瞬で心を閉ざした。
「ヘイ! フワフワ綺麗な風クラゲちゃん!
君の触手と、僕のクリスタルチェーンはどっちが強いかな?」
両手に氷の鎖を操るアンドレにとっては、ただの軽口だったろう。
だがしかし、内心で魔物が街にいることに苛立っていた一部の人の心に火を着けた。
「そうだ! 戦え!」
「風クラゲに負ける冒険者なんて信用できねーぞ!」
「アンドレさんッ!! かっこいぃぃぃぃぃぃいいいい」
一般女性に後押しされて、彼のナルシシズムにより、アンドレが後戻り出来なくなる。
「そうだ! 力比べをしよう! 僕のチェーンと君の触手!
どっちが強いか、比べるんだ!」
「え? やめてくれんね」
ヤスヒコが抗議をするが、陰キャゆえの超小声だったので誰も気づかなかった。
「よーし! 殺しはしないが本気で行くぞ!
クリスタルチェェェェーーーーーン!!!!」
アンドレの両腕に絡まった、水の魔術の重い鎖が、ふにゃおの触手に絡まっていく。
「だめたい! やめて!」
ヤスヒコの悲鳴は歓声に掻き消され、クラゲの触手とアンドレの鎖ががっぷり四つに組み合う。
「ハッ! 君の触手は柔軟なだけでなく、隠れた力強さも持ってるね!」
爽やか気味にそう言って、アンドレが鎖を強く引く。
ヤスヒコだけが気づいていたが、ふにゃおはアンドレを敵と認定しつつあった。
「さあさあ、クイックステップだ。
踊ろう、海月姫?」
アンドレの鎖が更に巻き付いていく。
そして、それが限界だった。
「PsssssshhhhhhhhhhhhHHHH!!」
青かった体色が白銀に変わり、ぶわりと大きく羽ばたいて、やけつくいきを吐き出すふにゃお。
阿鼻叫喚の騒ぎとなるが、麻痺の毒から逃れられない。
社交会は ぜんめつした!!
「きぃ~~ひっひっひっひっひっひ!!」
なお、早めに脱出していた、まほうつかいのメルビーが、みんなを癒して、事なきを得た。




