5-10 血戦
ワン=イーは苛立っていた。
思ったよりも混乱が拡散しない。
パガン候が自ら前線に出て、忌々しいリーダーシップを発揮しているようだ。
燃える城下町を眺めながら、ワン=イーは考えた。
パガン枢機卿の従者の姿を借りて、今いる同胞は5人。
ワン=イーを含めても、6人でしかない。
「ワン=イー同志。山に火をかけては、いかがでしょう」
同志の1人が、破壊的で象徴的ながら、その実、無意味で混沌に満ちた提案をしてくる。
「…………小さな火花も荒野を焼き尽くす、ですか」
蛇のように、異常なまでに口角を上げて、踵を返す。
「同志の意見を容れます。燃やしましょう」
城下町から道を外れて、登山道へ。
この地には、馬酔木舞いという土着の行事がある。
それを含めて燃やし尽くせば、さぞ爽快なことだろう。
山奥の馬酔木衆の村に6人で向かう。
燃えるような紅葉が、ワン=イーの考えを助長する。
村の直前に、同志が建設的な提案をする。
「混乱させましょう。同志」
「許可する」
「スペシオ。混乱」
判断力を奪われた馬酔木衆の村人が、互いに傷つけあい始める。
妻が夫を、父が子を、化け物の姿に見せているのだ。
惨劇を尻目に爬虫人たちは、秋の紅葉を炎に染める。
「スペシオ。放火」
「スペシオ。放火」
全く熱を持たない、幻の炎が、秋の木々を舐めとる。
本来であれば燃えるはずは無いのだが、虚偽の魔術を扱う爬虫人の出した幻の炎であれば、無生物はともかく、生物には本物と見分けることは困難だ。
降り積もった落ち葉が燃え上がり、木々の幹にも炎が移って、山が炎に踊るようだ。
「各人はその能力に応じて、各人にはその必要に応じて」
ワン=イーが部下に命じると、彼らは各々、目標を見つけて混沌を拡大する。
すると、
「!??」
部下の1人に矢が突き立った。
そのまま倒れ、動かなくなる。
「敵襲!! 警戒!!」
仲間に短く警告し、ワン=イーは矢の飛んできた方向に向き直った。
4人の冒険者が、城下町から登山道を辿り、こちらへ向かってくる。
その途上にも、同志が剣士に斬り殺される。
「……不遜な人間どもが!」
ワン=イーの警戒を受けて残った仲間が集まってくる。
「ワン=イー同志、相手は手練れです。写し身を使っては?」
同志の提案に許可を出す。
爬虫人たちは情報工作は得意だが、直接戦闘は苦手なことが多い。
そのため、写し身の魔術が重宝されるのだ。
続々と、写し身の魔術を使う同志たち。
向かってくる冒険者姿と能力を、寸分違わず模倣する。
これで最低でも、互角になるだろう。
ワン=イーは敵の先頭を進むウッドエルフの斥候の、姿と能力を写し取った。
「思い知らせてやろう。虚偽と風説がもたらす混沌を」
紅葉と山火事を背景に、それはヌルリと姿を変えた。
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「む、向こうにセルケト殿がいるぞ!」
ライカが、ワン=イーを指して言う。
「阿呆! 変身するの見てただろ! 妙な魔術だ。警戒しろよ!」
セルケトが、他の3人に声を掛ける。
正面に見える聖職者たちは、ぐにゃりと姿を変えていた。
敵の4人の内2人が、ライカモドキの姿を取っている。
「おい、アーネスト、嫌われたぜ」
「防御は要らないってことですか。カネ・モンス。強化硬化」
「ならば押し切ってしまいましょう。カネ・ソヌス。強化加速」
アーネストの魔術で魔力のバリアが皆を包み、ヘティトの魔術で全員が一時的に2倍の速さで行動する。
「氷炎斂牙!!」
両手の剣を袈裟懸けに斬りつける攻撃技だ。
ドドンと土煙が上がり、紅葉と炎がサァ……と乱れ飛ぶ。
2倍の速度で駆け寄って、ライカモドキをライカが斬り伏せる。
一瞬のことで、相手は構える暇もない。
「良いぜライカ、でも危険なのはアタシの偽物だ。
もしアイテムも写し取られてるなら、毒撒いて自爆ってのも相手の手札にあるぜ」
セルケトが麻痺毒の矢を、セルケトモドキに撃ちながら告げる。
「なるほど。ではセルケト殿を狙おう」
「……万が一にもアタシを斬るなよ?」
「うむ。任せておけ」
早速4vs3にしたが、敵も当然、攻撃に移る。
「カネ・ウェントゥス・エト・イグニス。
――炎渦竜巻」
ヘティトモドキが炎を操り、ライカとセルケトを包み込む。
ライカモドキは前衛を避け、一直線に後衛組に。
セルケトモドキは、どうやら毒矢を撃つことにしたようだ。
「炎を止めます。防御をお願い致します」
「ライカ様か~、手強そうだなぁ」
苦笑いを浮かべながら、アーネストが迎撃の準備をする。
「カネ・モンス。石壁」
飛来する毒の矢と、向かってくるライカモドキの動線を防ぐため、地面から石の壁を呼び出すアーネスト。
「双剣崩落!!」
ライカモドキが宙を跳び、二本の剣を叩きつけてくる。
しかし、石壁の向こうにアーネストとヘティトの姿は無い。
ライカの動きを予測して、アーネストが罠にかけたのだ。
「カネ・テラ。螺旋礫投」
今跳び越えた石壁から、無数の石弾が放たれる。
ライカモドキは背中がズタズタになって、気絶する。
「カネ・ウェントゥス・エト・イグニス。炎の壁」
ヘティトの魔術で炎の渦に一本の道が出来る。
「アタシは任せたぜ、ライカ」
そう言い置いて、ヘティトモドキの無防備な姿に、麻痺毒を連射する。
トトト、と矢が突き立って、ヘティトモドキはバタリと倒れた。
「へティをヤるなんて、偽物でも嫌な気分だな」
矢を薙ぎながら、突進していくライカ越しに、セルケトは妹を見た。
「ふざけるな。こんなところで終わるものか」
セルケトモドキが、不気味に怨嗟する。
「マズいぞ、ライカ!」
セルケトモドキの動きから、狙いを悟って本物が警告を発した。
「心配ない――――氷炎無双突き!!!」
一気に加速して、二本の剣で突き技を放つ。
一本の場合と比較して、弱そうに思えるかもしれないが、剣が別の急所を狙うのだ。
「猿どもに負けるなど許されん」
毒ガスを取り出そうとしていたセルケトモドキ=ワン=イーに、凄い速さでライカが走りかかる。
ズブリ、と2回音がして、セルケトモドキは串刺しになった。
風が吹き、燃える紅葉が背景を飾った。




