表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/54

5-10 血戦

 ワン=イーは苛立っていた。

 思ったよりも混乱が拡散しない。

 パガン候が自ら前線に出て、忌々しいリーダーシップを発揮しているようだ。


 燃える城下町を眺めながら、ワン=イーは考えた。

 パガン枢機卿の従者の姿を借りて、今いる同胞は5人。

 ワン=イーを含めても、6人でしかない。


「ワン=イー同志。山に火をかけては、いかがでしょう」


 同志の1人が、破壊的で象徴的ながら、その実、無意味で混沌に満ちた提案をしてくる。


「…………小さな火花も荒野を焼き尽くす、ですか」


 蛇のように、異常なまでに口角を上げて、(きびす)を返す。


「同志の意見を容れます。燃やしましょう」


 城下町から道を外れて、登山道へ。

 この地には、馬酔木(あせび)舞いという土着の行事がある。


 それを含めて燃やし尽くせば、さぞ爽快なことだろう。


 山奥の馬酔木衆の村に6人で向かう。

 燃えるような紅葉が、ワン=イーの考えを助長する。


 村の直前に、同志が建設的な提案をする。


「混乱させましょう。同志」


「許可する」


「スペシオ。混乱(コンフュージョン)


 判断力を奪われた馬酔木衆の村人が、互いに傷つけあい始める。

 妻が夫を、父が子を、化け物の姿に見せているのだ。


 惨劇を尻目に爬虫人たちは、秋の紅葉を炎に染める。


「スペシオ。放火(オーソン)


「スペシオ。放火(オーソン)


 全く熱を持たない、幻の炎が、秋の木々を舐めとる。


 本来であれば燃えるはずは無いのだが、虚偽の魔術を扱う爬虫人の出した幻の炎であれば、無生物はともかく、生物には本物と見分けることは困難だ。


 降り積もった落ち葉が燃え上がり、木々の幹にも炎が移って、山が炎に踊るようだ。


「各人はその能力に応じて、各人にはその必要に応じて」


 ワン=イーが部下に命じると、彼らは各々、目標を見つけて混沌を拡大する。

 すると、


「!??」


 部下の1人に矢が突き立った。

 そのまま倒れ、動かなくなる。


「敵襲!! 警戒!!」


 仲間に短く警告し、ワン=イーは矢の飛んできた方向に向き直った。

 4人の冒険者が、城下町から登山道を辿り、こちらへ向かってくる。


 その途上にも、同志が剣士に斬り殺される。


「……不遜な人間どもが!」


 ワン=イーの警戒を受けて残った仲間が集まってくる。


「ワン=イー同志、相手は手練れです。写し身(リフレクション)を使っては?」


 同志の提案に許可を出す。

 爬虫人たちは情報工作は得意だが、直接戦闘は苦手なことが多い。

 そのため、写し身の魔術が重宝されるのだ。


 続々と、写し身の魔術を使う同志たち。

 向かってくる冒険者姿と能力を、寸分違わず模倣する。


 これで最低でも、互角になるだろう。

 ワン=イーは敵の先頭を進むウッドエルフの斥候(レンジャー)の、姿と能力を写し取った。


「思い知らせてやろう。虚偽と風説がもたらす混沌を」


 紅葉と山火事を背景に、それはヌルリと姿を変えた。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「む、向こうにセルケト殿がいるぞ!」


 ライカが、ワン=イーを指して言う。


「阿呆! 変身するの見てただろ! 妙な魔術だ。警戒しろよ!」


 セルケトが、他の3人に声を掛ける。

 正面に見える聖職者たちは、ぐにゃりと姿を変えていた。


 敵の4人の内2人が、ライカモドキの姿を取っている。


「おい、アーネスト、嫌われたぜ」


「防御は要らないってことですか。カネ・モンス。強化硬化(アドハーディング)


「ならば押し切ってしまいましょう。カネ・ソヌス。強化加速(アドヘイスト)


 アーネストの魔術で魔力のバリアが皆を包み、ヘティトの魔術で全員が一時的に2倍の速さで行動する。


氷炎斂牙(ひょうえんれんが)!!」


 両手の剣を袈裟懸(けさが)けに斬りつける攻撃技だ。

 ドドンと土煙が上がり、紅葉と炎がサァ……と乱れ飛ぶ。


 2倍の速度で駆け寄って、ライカモドキをライカが斬り伏せる。

 一瞬のことで、相手は構える暇もない。


「良いぜライカ、でも危険なのはアタシの偽物だ。

 もしアイテムも写し取られてるなら、毒撒いて自爆ってのも相手の手札にあるぜ」


 セルケトが麻痺毒の矢を、セルケトモドキに撃ちながら告げる。


「なるほど。ではセルケト殿を狙おう」


「……万が一にもアタシを斬るなよ?」


「うむ。任せておけ」


 早速4vs3にしたが、敵も当然、攻撃に移る。


「カネ・ウェントゥス・エト・イグニス。

 ――炎渦竜巻(ファイアスポウト)


 ヘティトモドキが炎を操り、ライカとセルケトを包み込む。

 ライカモドキは前衛を避け、一直線に後衛組に。

 セルケトモドキは、どうやら毒矢を撃つことにしたようだ。


「炎を止めます。防御をお願い致します」


「ライカ様か~、手強そうだなぁ」


 苦笑いを浮かべながら、アーネストが迎撃の準備をする。


「カネ・モンス。石壁(ストーンウォール)


 飛来する毒の矢と、向かってくるライカモドキの動線を防ぐため、地面から石の壁を呼び出すアーネスト。


「双剣崩落!!」


 ライカモドキが宙を跳び、二本の剣を叩きつけてくる。

 しかし、石壁の向こうにアーネストとヘティトの姿は無い。


 ライカの動きを予測して、アーネストが罠にかけたのだ。


「カネ・テラ。螺旋礫投(ドリルショット)


 今跳び越えた石壁から、無数の石弾が放たれる。

 ライカモドキは背中がズタズタになって、気絶する。


「カネ・ウェントゥス・エト・イグニス。炎の壁」


 ヘティトの魔術で炎の渦に一本の道が出来る。


「アタシは任せたぜ、ライカ」


 そう言い置いて、ヘティトモドキの無防備な姿に、麻痺毒を連射する。

 トトト、と矢が突き立って、ヘティトモドキはバタリと倒れた。


「へティをヤるなんて、偽物でも嫌な気分だな」


 矢を薙ぎながら、突進していくライカ越しに、セルケトは妹を見た。


「ふざけるな。こんなところで終わるものか」


 セルケトモドキが、不気味に怨嗟する。


「マズいぞ、ライカ!」


 セルケトモドキの動きから、狙いを悟って本物が警告を発した。


「心配ない――――氷炎無双突き!!!」


 一気に加速して、二本の剣で突き技を放つ。

 一本の場合と比較して、弱そうに思えるかもしれないが、剣が別の急所を狙うのだ。


「猿どもに負けるなど許されん」


 毒ガスを取り出そうとしていたセルケトモドキ=ワン=イーに、凄い速さでライカが走りかかる。

 ズブリ、と2回音がして、セルケトモドキは串刺しになった。


 風が吹き、燃える紅葉が背景を飾った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ