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5-3 武装果樹園

 ザザァッと枯葉が舞い散る。

 パガンの秋風は、残暑を中和してしまったのか、暑くもなく寒くもない理想の気温を作り上げていた。


「いつも通りなら、連中、この辺をウロウロしてるはずだ。

 人を見かけたら声を掛けていいぞ」


「姉さま、音は外に漏れません」


 ヘティトの指摘に、セルケトが渋い顔をする。


「この魔術って、お前中心なの?

 ……うん、そしたらアタシが、見つけた人に声掛けに行くわ」


 けもの道を辿ると、小さな果樹園に出た。


「アーニー、リンゴが美味しそうなのだが」


「ダメです、窃盗ですよ」


「住人に直接交渉したら良いさ。どうやら、立てこもってるみたいだからな」


 避難するのではなく、自主防衛をしようという、血気盛んな果樹園のようだ。


「あまり無暗に歩き回るなよ。

 籠城するつもりなら、罠なり、待ち伏せなりがあるはずだ。

 ……ほら」


 セルケトが指差す足元を見ると、隣り合った2本の雑草が低く結ばれている。

 気付かず歩いていると、足を引っかけ転ぶ罠だ。


「ヘティトさんの魔術で、住民と会話してはどうですか?」


 アーネストの提案に、セルケトが同意する。


「うろつき回るより安全だ。

 へティ。母屋の2階に人がいる」


 ヒュン、と短杖を振って、ヘティトが空気を掻き混ぜ始める。


「カネ・ウェントゥス。風の声(ウィンドヴォイス)


 風が渦巻き、細い竜巻が母屋の2階に伸びていく。

 ヘティトがチラリと、セルケトに首を向けると、セルケトが言った。


「こちらは旅の冒険者だ。総勢4名。

 少し話を聞かせてくれねぇか?」


 ヘティトがそれを、そのまま口にする。


「リンゴは貰えるのだろうか……?」


 ゴクリ、と喉を鳴らしてライカが漏らす。


「後で頼んでみましょうね」


「うむ」


 満足そうなライカを、満足そうに見つめるアーネスト。

 戦場にいるという緊張感など欠片もない姿である。


「姉さま、罠に気を付けて裏口に回ってくれ、とのことです」


「お、交渉成功。

 あとはこの武闘派果樹園が、専守防衛であることを祈るのみだな」


 場合によっては、旅人をおびき寄せて、殺してしまう猟奇の館の可能性もある。

 住人の良識に期待して、4人はぐるりと裏口へ廻った。


「ここだな。ちーと、待ってな」


 セルケトが母屋の戸を叩く。

 木製の丈夫な扉が、ドンドンドンと鳴り響く。


 するとしばらくして、扉の閂と鍵が外されて、ヒューマンの男が現れた。

 僧服を着ているからには、星教の教師らしい。


「連絡をくれた冒険者ですか? 全員、両手を上げて、全身を見せてください」


 言われた通りに、一列に並び、両手を上げる。


「賢明な用心だ。けどほら、4人きりなのは分かったろ」


 セルケトが2階の窓を見る。

 室内から覗いていた何者かが、それに動揺したのか転倒したようだ。


「パロマ! どうしました!?」


 男が2階の音に驚いて、動揺する。


「悪ぃ。アタシが驚かせたみたいだ。

 上の様子を見に行った方が良いんじゃないか?」


「――――すぐに戻ります」


 扉が閉められ、鍵がかかる。

 そして男の去る音が、秋の昼間に鳴り響いた。


「アーニー、腹が減ったぞ」


「申し訳ございません。干し肉かナッツで宜しければ、すぐお出しできますが」


 ん~、とライカは考えて、


「ナッツ!」


「はいどうぞ」


 ナッツの入った布袋を渡すと、ライカはナッツを食うマシーンと化した。


「――――お待たせました」


 そう言って教師らしき男が、今度は鍵も扉も、全開にしてくれる。


「入ってください。階段を上がって2階の広間です」


 建物は古びてはいるが、手入れの行き届いた丈夫な建材で建てられており、微かにチキンスープの匂いが漂っている。

 ゾロソロと2階に上がると女性が2人待ち受けていた。


 ひとりは車椅子の若い女性。もうひとりは布の鎧と布の頭巾を装備した、体格のいい老婆である。


「ようこそ、ウルスラ果樹園へ。

 非常時だけど、真っ当な客は歓迎するよ」


 老婆が落ち着いた様子で頷いてくる。


「少し休ませてくれ。

 それから馬酔木(あせび)衆がどこにいるか、知ってたらそれも教えてくれ」


 セルケトが鋼の心臓で応接テーブルの椅子に座る。


「馬酔木衆? 戦に巻き込まれるのを嫌って、山奥に引っ込んだんじゃないかね?」


「やっぱそうかー……!

 これは本格的に登山だぜ、クソが」


 罵声を吐くセルケトの横で、ライカがバカみたいな顔で口を開ける。


「リンゴを売って欲しいのだが、それは可能か?」


 ライカの問いに老婆が答える。


「そりゃ、勿論。銀貨1枚で、その箱いっぱい買えるよ」


「うむ。買おう」


「バカ、荷物になんだろ!

 旧銀貨で2個くらいにして貰え」


 セルケトの注意を素直に受けて、ライカが言い直す。


「旧銀貨でリンゴを2個、譲ってもらえまいか?」


「構わないよ。どうせ戦で市場は開かないんだ。

 2個でも3個でも、食ってくれたら、作った甲斐があるってもんだ」


 その話を聞いて、アーネストが思いつく。


「小麦粉はありますか? ヘティトさんはシナモンお持ちですよね。

 アップルパイでも作りましょうか?」


「アップルパイ!!」


 アーネストの提案に、ライカが壊れた。


「小麦なら1階の台所に置いてるよ。

 私ら3人の分も、ついでに作ってくれないかい?」


 老婆がそう提案し、アーネストが応じる。


「他に食べたい人いますか?」


 全員が手を上げて、7人分のアップルパイを作ることになる。


「アーネスト様。お手伝いいたします」


「助かります。かまどの管理をお願いできますか?」


「承知いたしました」


 アーネストがヘティトと階下に降りていく。


 間もなくシナモンとリンゴとバターの香りが漂って、一同は安らぎを得た。

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