4-8ED 急転直下
コビット料理の食堂に、ライカら4人は集っていた。
楽しいことが大好きなコビットの店だからか、時期モノのカボチャ頭の人形などが置かれている。
コビット料理は豊富な麦とバターが特徴の料理である。
さらにハチミツ、チーズ、ハム、ふんわりしたパンなどを、麦酒と共に頂く。
コビットたちの小さい手が織りなす食の芸術は、食べるのが勿体ないほどだ。
「で?
ドワーフの仕事、受けるんで良いんだな?」
セルケトが尋ねながら3人の顔を見回す。
全員が、何をいまさら、と言う顔である。
なおライカだけは、食べながらだが。
「オーケイ。ほかに何か、各自報告は?」
小さく手を上げて、ヘティトが口を開く。
「加速の魔術を、アーネスト様より教えて頂きました」
「ヘティトさんは風の元素を使うのが得意なので、僕より効率よく使えるはずですよ。
1日4回くらい、いけるんじゃないかな?」
アーネストが補足する。
なお、中級戦闘魔術の中で必須とされる加速をヘティトが知らなかったのは、やはり学院の件が関係していた。
体系的に術を学べる学院に対し、無所属の魔術師(学院からすれば呪術師)は、魔導書を探して求めて買ったり、他の魔術師と互いに教え合ったりするしかないため、重要な基礎的魔術が漏れがちなのだ。
アーネストは、ヘティトが加速を知っているモノだと思い込んでいた。
なぜ使わないんだろう? とすら思っていたくらいである。
最近よく話す中で、知らない事が発覚し、それで教えた、と言う経緯があった。
「僕は森人料理を学んだので、もし良かったら食べて感想を聞かせてください」
「うむ、昨夜のキーマカレーは絶品であった」
ライカの称賛に一礼を返すアーネスト。
「アタシは麻痺毒と睡眠毒を調合した。
数発ずつだから、使いどころは考えが要るけどな」
そう言いながら、セルケトがはちみつパンに手を出した。
報告は終わったと踏んで、食事開始を促す狙いだ。
「麻痺と睡眠は、運用上、どう違うんですか?」
チーズパンを手で裂きながら、アーネストが尋ねる。
セルケトはパンを口にしており、手で合図して、妹に任せた。
「麻痺の方は意識が残ります。
一方で睡眠は、気絶したように眠ります」
ハムコーンパンを食べながら、ヘティトが簡単に解説する。
「とは言え、相手の耐性や体調に寄っちゃあ、効かなかったり、効きすぎたりあるけどな。
病人や怪我人に使えば、最悪死んじまうし」
セルケトが後を受けながら、レモン水を口にした。
「こんなもんか? じゃあ、出る支度を始めろ」
食事を終え、食堂から出ようとする一行。
そこでセルケトは、ライカに声を掛ける。
「おい、お前は何してたんだよ」
「日々の弛まぬ鍛錬と、健康な食事、十分な睡眠に気を付けていた」
「何かねーのか? 必殺技を会得した、みたいな話は」
セルケトの問いにライカはあっさり答える。
「うん、ないな」
「オーケイ、分かってたぜ。その底力に期待しとくよ」
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「引き受けてけくれて嬉しい。
明後日の船便を調達させたから、それまで待機してくれ」
そう、ドワーフのリーダーに言われ、
「暇になったな」
「うむ。待機だな」
彼らの拠点の酒場を出ると、2日の猶予が出来てしまった。
「どーする? 飯でも食うか?」
コビット族のお店は間食に利用したので、昼食を摂ることも可能だ。
「でしたら、行きたいドワーフ料理店があるのですが、お付き合い頂けますか?」
ヘティトが提案し、一瞬、微妙な空気が漂う。
彼女が提案するからには、激辛料理店で間違いないからだ。
「……ドーワフ料理も久々なので、ライカ様さえ宜しければ、興味がありますね」
「む。構わん。私もドワーフ料理は好きだからな」
アーネストの言葉にライカが応じる。
セルケトは溜息ひとつ、
「まぁ、出発は明後日だからな。
腹壊しても、余裕はあるか……」
話が決まった。
……そう思ったのは、勘違いだった。
「おい、破門ってマジか?」
「ああ、パガン枢機卿が挙兵したって話だぜ」
「ワインが手に入らなくなるなぁ。買っとくか?」
「やめとけ。ワインは星教で使うものだから、攻囲してても収穫の邪魔はしないだろう」
通りすがりの商人が会話をしている。
セルケトの鋭い耳が、それを拾った。
「おい、テメェら!」
商人たちに詰め寄ってセルケトが尋ねる。
「詳しく話せ。
話せば礼はする。話さなければ殺す」
殺すんだ~……と、アーネストは思った。
その商人は若いヒューマンと、中年のドワーフのコンビだった。
セルケトの剣幕に戸惑っていたのも束の間、ドワーフが口を開いた。
「パガン候が破門になって、パガン枢機卿が兵を集めてるんだと。
パガン候は守りを固めるだろうが、破門されてちゃあ援軍もなぁ……」
パガン候の求めに応じて、援軍を出した場合、パガン候だけでなく、援軍の領主にも破門が言い渡される恐れがある。
破門というのは、宗教上の絵空事ではなく、言うなれば人権停止を言い渡されるようなもの。
それだけに慎重に取り扱われるモノなのだが、話を聞く限り、パガン枢機卿が政治力で押し切ったようだ。
「ガセじゃねぇだろな!?」
「…………商人ギルドの集めた情報だ。そう大きくは違わんさ」
「チッ……」
後ろ手に情報料を投げて、セルケトが戻ってくる。
「聞いたな、ヘティト」
「当然でございます」
そう言ってセルケトは、ライカとアーネストに向き直った。
「悪いが急用が出来た。パーティー解散だ」
「どういうことなのだ?」
ライカが尋ねると、セルケトが肩を竦める。
「古巣が困ってるのに、助けに行かないのは薄情だろ」
「急ぎましょう姉さま。軍に街道を封鎖されたら大変で御座います」
そんな姉妹の様子を見て、ライカが小首を傾げる。
「解散することは、無いのではないか?」
その言葉に、不穏な表情を浮かべるセルケト。
「アタシらには縁のある土地だが、お前らには無いだろ?
命がけの戦場に来る意味がねぇ」
「いや、私もパガン候サドア=ヴィーノ卿に面識がある。
領民思いの良い領主であった」
「…………そうか、貴族だから社交界があるのか」
セルケトが自分の見落としを反省する。
「そういうわけで、パガンに行こうと思うが、どうか、アーニー?」
「危険ですから賛成はできません。でも、反対もしません」
「よし、決まりだな。
ドワーフには私が断ってくるので、各自、出発準備!」
「お、おい、ライカ!」
セルケトが声を掛けるが、無視してライカは。依頼が受けられなくなった事をドワーフに告げに、去って行った。
「ったく、付いてくる気かよ……」
「お邪魔でなければ。ライカ様がそれを望んでおられますので」
アーネストの言葉に、セルケトが空を仰いだ。
「訳わかんねーよな、あいつ。
わざわざ戦場まで付いてくることないだろ」
「ええ。でも、そんなの気にしないのが、ライカ様なのですよ」
秋風が吹いた。
風雲急を告げる、少し鋭い秋風が。




