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4-4 石毒蜥蜴

 アーネストとヘティトは、山の魔術と音の魔術を互いにかけて、透明になり音を消して、岩陰に身を隠していた。


 降りた底には、多くの(ジャイアント)飛蝗(ローカスト)がおり、黄色黴(イエローモールド)や光ゴケなどを食べている。

 静けさに包まれたその場所は、大飛蝗の咀嚼音だけが不気味に響いている。


「黄色(かび)を食べるなんて、凄いな。

 人間だったら窒息死することもある毒黴なのに」


 アーネストが声を潜めて、ヘティトに告げる。


「下等生物は見苦しいです。

 滅びればいいのに」


 一応、生態系にとって、重要な働きをする黄色黴や大飛蝗だが、ヘティトはそれを分かったうえで、嫌悪感が勝るようだ。


「何もわからずライカ様たちが降りてくると、危険かもしれませんね。

 タイミングを見て焼いてしまうのを提案したいんですが、ヘティトさんはどう思います?」


「……だから貴方が飛び降りたから、面倒な状況になっているのではありませんか」


 ヘティトの非難に、アーネストが素直に頭を下げる。


「重々承知しております。

 考えなしだったと、反省中なので、許していただけると助かります」


「――――許しません。

 ですが、助けて頂けたことに関しては、感謝します」


 アーネストの目を見ず、言いにくそうに告げるヘティト。


 ヘティトの言葉に、アーネストは驚きと共に胸が温かくなるのを感じた。

 彼女の冷たい態度の裏に、感謝の気持ちが隠れていることが感じられたからだ。


 アーネストは静かに笑い、視線を周辺警戒に戻した。

 生命探知の反応に、少し奇妙な動きをする反応があったからだ。


 それは大飛蝗とは異なり、より大きな反応で、もっと地下からゆっくりと上がってくるようだった。


「何か来る」


「危険で御座いますね。

 対応策を検討しましょう」


 ヘティトが小さく頷いて、反応を注視する。


 やがて――――


 のそりのそりと、人より大きな蜥蜴が姿を現した。


 頭に大きな角を持ち、4つの足で這うように歩く。

 キョロキョロと辺りを見回し、目を光らせると、蜥蜴に見られた大飛蝗が


 ――――ガゴンッ!! と。


 石になった。


「rrrrrrrrrrrrrrrrrr!!?」

「rrrrrrrrrrrrrrrrrr!!?」

「rrrrrrrrrrrrrrrrrr!!?」


 大飛蝗たちは危険を感じて跳びはね始めるが、目立てば視線を誘うは道理。

 次から次へと蜥蜴に睨まれる。


 すると蜥蜴の視線を浴びた飛蝗が、次から次へと石と化す。

 

石毒蜥蜴(バジリスク)だ。マズいな」


 石毒蜥蜴は魔力を宿す邪眼を持った、大蜥蜴である。

 知性はそれほど高くは無いが、見つめられた生物は石になってしまう。


 今は隠密の魔術を使っているから気付かれていないが、対応しなければマズいことになりそうだ。

 しばらく警戒しながら監視していると、石毒蜥蜴は周辺の全ての大飛蝗を残らず石にする。


「Screeeeeech……」


 長い舌を出し入れし、擦過音の鳴き声をあげる石毒蜥蜴。

 石になった大飛蝗にヒョコヒョコと近寄ると、それをガリガリ食いだした。

 

 ガリガリガリと、採石場のような音が鳴る。

 石化は呪いの一種なので、中の肉は一部残っているのかもしれない。


 大方の大飛蝗を食いつくすと、動きがゆっくりになる。

 石毒蜥蜴も黄色黴への耐性を持つため、ここは十分快適な寝床となるのだろう。


 ノロリノロリと隅っこに行き、どうやらアッサリ寝てしまう。

 一般に蜥蜴は10時間以上眠るため、ここに付け込むのは良い手であるはずだ。


「どうなさいますか?」


「このままギリギリまで隠れていても良いと思います。


 ですが次善策として、ライカ様たちが合流する前に戦闘になった場合、

2人で撃退する作戦も立てましょう。


 石毒蜥蜴は金元素の魔物ですから、ヘティトさんにお任せできますか?」

  

 金元素の魔物ならば、炎の元素が有効だ。


「ならば、わたくしは最大火力を石毒蜥蜴に放てば宜しいですか?

 黄色黴が反応すると危険かも知れません」


「あぁ黄色黴を忘れてた。

 刺激を与えると、確かに危険かもしれませんね。

 凄いですヘティトさん」


「とんでもないことで御座います」


 そっぽを向いて、ヘティトが答える。


「黴は僕が抑えます。

 もうしばらく様子を見ましょう。

 ライカ様たちが到着するようなら、そのタイミングで仕掛けます」


「承知いたしました」


 アーネストの提案に、ヘティトが小さく(うなづ)く。

 しばらく、緊張感を孕みながらも静かな時間が流れた。


「ヘティトさん、一旦休憩しません?

 僕が見張ってるので、狭いですが休んでください」


「大丈夫で御座いますか?」


「この場で簡単にリラックスすれば、後が楽になると思います。

 僕はまだ、大した魔術は使っていないので、ヘティトさんが休んでください。


 もし余裕があれば、ヘティトさんの休憩の後に、僕も少しだけ休ませて貰おうかと思います」


「ですが、危険では御座いませんか?」


「状況が変わったらすぐにヘティトさんを呼びます。

 眠ってしまわれると怖いですが、休憩で何か飲食したりすることは出来るかと。


 僕も一応、月影の塔(スターライトタワー)を出た魔術師です。

 信用してください」


 アーネストがそう伝えると、ヘティトが渋面を浮かべる。


「塔の魔術師は信用できません」


 アーネストは、かつて彼女が塔への入学を認められなかった可能性に思い至る。


「ご不快にさせてしまったのなら御免なさい。

 では、2年近く冒険者をしてきた魔術師として信用していただけませんか?」


 アーネストの提案に、驚いたように首を傾げてヘティトが溜息を吐く。


「――――そちらでしたら、信用させて頂きます。

 では、失礼ながら、少し休ませて頂きます」


 ヘティトは丁寧に一礼し、カバンを開けて香木を取り出す。

 それを小さなナイフで刻みながら、ヘティトは風の魔術を唱える。


「カネ・ウェントゥス。消臭(デオドラント)


 ゆっくりと風を操って、薬草の匂いが漏れないように上へと逃がす。

 微かな風でも耐えずに流せば、結構上まで匂いは飛ばされる。


「カネ・イグニス。着火(イグナイト)


 アーネストとヘティトの周りの狭い範囲だけ、甘くてスパイシーな香りがゆっくり漂う。

 ヘティトがアーネストに声を掛けた。


「アーネスト様も、こちらにいらっしゃいませんか?

 魔力回復に効能があるアガーウッドの香りですよ」


「ああ、良いですね。

 ヘティトさんの休憩後に頂きます」


「いけません。

 香はゆっくり聞いた方が効果が高いのです。

 アガーウッドは貴重な香木。

 是非とも楽しんで頂きたいです」


 ヘティトの提案に、アーネストは笑って言った。


「じゃあ、そうしようかな?

 お言葉に甘えさせてもらえますか」


 ヘティトはそれに笑って答えた。


「はい、勿論です」


「ああ、いい香りですね。

 スパイスが利いて少し焦がした飴のような」


「ちなみに、このひとつまみで新銀貨6枚相当です」


「高っ!?」


「そうです。高いのです」


 誇らしげに胸を張り、ヘティトが自慢する。


「希少な香木なんですね。

 見つけるのも買うのも大変だったでしょ」


 グルリ、と凄い勢いで体を回して、ヘティトが意気込んでくる。


「そう! そうなのです!

 偽物も多くて、商人との知識比べをしなければなりません。


 彼らは日常的に香木を扱っていて、そのため知識が豊富です。

 更に交易商人は、安く買って高く売るのが商売です。


 偽物を本物だと、何度(だま)されかけたとか――――」


 凄い勢いでそう言って、ヘティトが小さく興奮する。

 魔術で音を消していなければ、蜥蜴を起こしたことだろう。


「く、苦労してますね」


 アーネストが答えると、ヘティトが答えた。


「ええ。苦労しているのです!!」

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