4-3 輝く坑道
「おお、凄まじいな」
ライカが周囲の光景を見て、感嘆の声を上げた。
坑道は大洞窟にぶち当たり、開けた空間が広がっている。
広大な空間は、魔法石や光茸の光で満たされており、さながら蒼い大劇場のようだ。
ちょうど右回りにスロープが続いており、その道が奥へ続く下への道らしかった。
左側は深い崖になっており、注意しなければ落ちてしまいそうだ。
「そろそろ大飛蝗がいるんで、気を付けてください。
襲ってくるわけではありませんが、臆病で、近づくとパニックになって跳びかかってきます。
色が岩肌と同じ灰色なので、見落としやすいのも注意です」
「厄介だな。
生命探知を掛けろ、ヘティト」
「カネ・ソヌス。生命探知」
ヘティトの脳裏に複数の反応がある。
「居りますね。40体以上。
直近では、その右の岩に擬態しています」
「……うわ、あれかよ!?
全然気づかなかった。
結構やべー位置にいるな」
セルケトが驚いてイーダに訊ねる。
「普段はどういう風に対処するんだ?」
「クズ石を投げて移動させます。
ただ、1匹驚かすと、近くの個体が連鎖して驚くので、注意が必要です」
「イーダ殿は博識だな」
ライカに褒められて、イーダが照れ笑いを浮かべる。
「父が生前、坑夫として働いていたので、話を聞いて育ったのです。
その後、冒険者になりたくなって、お金も稼がなきゃいけなかったので、一石二鳥で鉱山のガイドを始めたのです」
「へえ、偉いね」
アーネストの返事に、まだ薄い胸を張るイーダ。
「よし、矢も勿体ねーし、ドワーフのやり方を試してみっか」
セルケトがそう言って、道端の石を1つ取り上げた。
こぶし大の大きさで、攻撃としては十分な威力を持つだろう。
ヒュンヒュンと、投石紐を振り回し、セルケトが石を放つ。
カコンと固い音がして、大飛蝗の背に命中した。
「rrrrrrrrrrrrrrrrrr!!?」
気の毒な飛蝗が、鳴き声を上げて、崖から飛び降りていく。
「ホントに飛ぶ方向、ランダムなんだな。
気を付けねーと。
ヘティト、適宜、生命探知を頼む」
「承知いたしました」
「ヘティトさんは炎属性がお得意なので、魔力は温存したほうが良いのでは?
良かったら、僕が生命探知つかいますよ」
「結構でございます」
即答するヘティトに、姉が声を掛ける。
「いや、犬ッコロのアイデアは悪くねぇ。
犬ッコロ。頼んでいいか?」
「勿論です。
カネ・ソヌス。生命探知」
アーネストが代わりに唱えるが、ヘティトが凄い目でアーネストを睨んでくる。
アーネストは驚いて、犬に似た耳と尻尾をビクリと震わせた。
ともあれ、アーネストの案内とセルケトの偵察で、しばらくは無難に旅路は進む。
「セルケトさん、あの岩陰に群れが居ます。5匹」
「おぉ、初めての連鎖が見られるか?
全員、注意な」
セルケトが再び投石紐を振り回し、大飛蝗に石を投げつける。
「rrrrrrrrrrrrrrrrrr!!?」
「rrrrrrrrrrrrrrrrrr!!?」
「rrrrrrrrrrrrrrrrrr!!?」
鳴き声が共鳴して、大音響が巻き起こる。
一行は一瞬驚いて、対応が遅れた。
「………え?」
ライカとセルケトの横を跳びぬけた1匹が、ヘティトに当たって、崖へと突き落とす。
「しまった!? ヘティト!!」
セルケトが叫ぶ中、アーネストは後を追って跳んでいた。
下には飛蝗の大群がおり、自分ならば対処が容易だと判断したためだ。
「下で隠れています!」
ライカが飛蝗を一刀両断し、片を付ける。
「チッ、魔術師がいなくなったのは痛えな」
「もしよろしければ、私が先行しましょうか?
ドワーフは暗闇でもよく見えるので、魔術の代わりが出来るかも知れません」
イーダがそう言って、セルケトに訊ねる。
「……チッ、それが一番、良さそーだな。先行ってくれ」
「はい、頑張ります!」
大槌を構え直して、イーダが真面目に答えた。
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「ヘティトさん、飛べますか!?」
上から共に落下しながらアーネストが尋ねる。
呆然としていたヘティトは、その言葉に我に返った。
「カネ・ウェントゥス。浮遊」
すると落下が止まり、空中で姿勢を取り戻したヘティト。
「カネ・ウェントゥス。浮遊」
続いてアーネストにも同じ魔術をかける。
アーネストの落下も止まり、2人は空中で合流した。
「ヘティトさん、ゆっくり降りて、隠れましょう。
山と音の魔術で、隠れられます」
なおこの浮遊は、上下にゆっくり移動することしかできず、横方向には移動が出来ない。
よって上に戻っても、ライカたちとは合流できない。
2人の最適解は、下で隠れて助けを待つ、であった。
ゆっくりと降りながら、2人は下を警戒していく。
「アーネスト様。
何故こちらに来たのですか?
姉さまやライカ様では、生命探知が使えません」
「んー、そう思ったんですけど、ヘティトさんが突き落とされた時に、体が勝手に……」
「勝手にって……!
余計なお世話に御座います」
「スミマセン。
でも取り返しは付かないので、一緒に下で隠れませんか?」
シュンとして、アーネストがそう提案する。
「仕方のないことで御座いますね。
あとで姉さまとライカ様に、一緒に謝りましょう」
「一緒に謝ってくれると助かります。
ではゆっくり静かに降りましょう」
アーネストがそう促して、2人は洞窟の底へ向かう。
降りるにしたがって、開発の手が加わっていないところが増し、魔法石や光石、光茸やヒカリゴケによって、まるで蒼い昼間のように明るくなってくる。
「わ~、綺麗ですね~」
「気を抜かないで頂けますか?
我々ははぐれているのです。
真面目にやってください」
アーネストの素直な感想に、釘を刺すヘティト。
「ごめんなさい。
真面目にやります」
素直に謝って、アーネストは口を閉ざした。
2人は蒼い光の中を、ゆっくりゆっくりと下って行った。




