4-1 ドワーフ街
「おぉ! ここが名高きドワーフ街か!」
ライカが街の光景を見て、感動の声を上げる。
ここはヒルド伯領のドワーフ街。
港町オスターから、母なるクルーム河を東に遡ったところにある鉱山街である。
河に面した交易都市と、山に面した鉱山都市が連携し、鉱山から良質な鉄を掘り出している。
また、稀に魔法金属や魔力石も出るらしく、それらの取引で鉱山都市ヒルドは活況を呈していた。
その街の中で、労働者街の一角を担うのがドワーフ街だ。
ドワーフ街はミニチュア街の異名を持つ。
体の小さいドワーフの寸法で家が建てられ、ドワーフ流に半地下にした構造は、緻密で複雑だ。
平均的なヒューマンが無警戒に建物に入ると、頭をぶつけること請け合いだ。
その色味は単調だが、象嵌などは精緻である。
これは穴蔵暮らしのドワーフが、色の判別が難しい反面、物の造形にこだわった結果と言われている。
「ほら、サッサと行こうぜ?
ドワーフ臭くて、イライラすんだよ」
セルケトが苦い顔で、ライカに告げる。
「姉さま、香を焚きましょうか?」
ヘティトが尋ねると、セルケトは肩を竦めて、
「ドワーフどもから、臭いって因縁つけられるから止めときな」
姉の言葉に、妹もが舌打ちをする。
「この酒場ですよね?」
アーネストが半地下の建物を見て尋ねる。
典型的な最近のドワーフ様式で、半地下、木造の建造物だ。
完全にスラム的な汚れ方をしていて、普段ならば足を踏み入れたくない場所である。
だが今回の依頼者が、この場所を指定したのだから仕方がない。
「ドワーフ鋼のためだ。
皆の者、気を引き締められよ!」
「なんで出陣なんだよ。
まあ同感だけどな。サッサと終わらせよう」
4人は気を引き締めて、暗い酒場の中に入って行った。
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「鉱山で虫が増えとるんや。邪魔やさかい、一匹残らんように全部殺してほしい」
矮陣族の少女が、ライカたちに言った。
彼女は若年ながら、ドワーフ街のまとめ役らしい。
10代と見える未熟な体に、リーダーの覇気が既に宿っている。
酒場の椅子にふんぞり返り、水のように麦蒸留酒を飲みながら、少女が続ける。
「どうや? できそうか? 金に糸目は付けへんけど」
「虫か。減らすのは出来るが、全滅は難しーぜ」
セルケトがボヤく。
事実、虫の魔物は卵鞘に大量の子が入っていることが多いため、根絶するのは大変なのだ。
「アンタらの評判、聞いとるで。毒を使うんやろ? なんとかできひんか?」
「……まぁ、出来ねーことはねぇが」
セルケトが言葉を濁す。
爛尾水を手に入れたばかりだが、この毒は強力すぎて、設置に計画性が必要だ。
「ええ毒さえあれば、こっちで設計して設置、発動までやれるで」
ドワーフの地下採掘の技術は、他種族と群を抜いている。
鉱山では鉱毒や地下水などに警戒せねばならないので、その知識の蓄積はバカに出来ない。
「じゃあ協力してもらうとして、実地検分だな。行けそうなら契約で良いんじゃねぇか?」
セルケトの提案に、ライカが応じる。
「アーニーと、ヘティト殿が問題なければ、明日さっそく、鉱山に潜ってみようと思うが?」
「僕に異論はありません」
アーネストが意見を表明すると、後はヘティトだけになった、が……
「OK、3票だな。オーケー、引き受けるよ」
「おお、ありがたいわ。頼りにさせてもらうで」
ここに1つの依頼が決まった。
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「姫様、冒険者など信用できるのですか?」
「信用できんでも、数を放り込めば必ず成果は出るやろ」
ドワーフの少女は冷酷に言い切る。
彼女はドワーフの名門の娘であった。
そのため、祭り上げられ、リーダーにされてしまっていた。
ただ本人は、不本意ではなかった。
エバーマイン復興の旗印となることを、進んで受け入れたくらいだ。
「冒険者と虫どもが相打ちしてくれたらええんやけどな。
まぁ、試さへん理由はあらへんわ」
悪い笑いを浮かべつつ、ドワーフ姫が火酒を呷る。
「姫様、冒険者が来ました」
「よっしゃ、次ぃ用意しよか」
小悪魔が笑った。




