3-10 偶然の再開&幕間3 ホイミン
ライカたち一行が、オスターに到着する直前。
街道を歩いていると、向こうから、アホ面を晒したおっさんが歩いてきていた。
「あれ? ヤスヒコじゃないですか??」
アーネストが声を上げると、ライカもすかさず首肯する。
「うむ。ヤスヒコだな」
「なんだ、そのヘンテコな名前は……?」
セルケトの残当の感想に、アーネストが助け船を出す。
「セルケトさん。勇者ああああです」
「あぁ!? 殺すぞ!」
助け舟じゃなくて泥船だったようだ。
殺されては堪らないので、情報を足す。
「オスターの西門に銅像があるじゃないですか。
あれ、勇者ああああの像なんですよ」
「! あー、あれかー…………ちゃんと見たことなかったからなー……」
セルケトが記憶を探り、ああああの像を思い出す。
「――――なんで、作ってるとき誰か1人でも、止めようぜ馬鹿らしいって言わなかったんだ?」
アーネストもそう思ったが、謎なので考えるのを止めた。
そんなことをしているうちに、ヤスヒコたちが近づいてくる。
「おー、ライカ殿ではござらんか!! 奇遇ですな!!」
「姉さま、警戒を。豚人族です」
「いや、ヤスヒコは中年太りなだけでオークではない」
ライカの無邪気な悪口に、セルケトがツッコミを入れる。
「ちげぇ馬鹿! そのヤスヒコの後ろに居んだろうが!」
「おお、あれはオークのオークスだ。
ヤスヒコの仲間だぞ」
「…………なんで敵対種族連れ歩いてんだ?」
セルケトは混乱の渦に巻き込まれた。
「やあやあアーニーも。
こんなところで会うとは思いませんでした。
お帰りですか?」
満面のブサイクな笑顔で、ヤスヒコが語り掛けてくる。
当然、ライカが応じた。
「ああ、オスターへの帰路だ。
そちらは?」
「出発したばかりですな。
腐れ沼に行かねばなりません」
「おお、奇遇ではないか!!
我々は腐れ沼帰りだ!!」
「本当ですか!?
いやいや、これは面白い。
本当に極星神が見てるのかもしれないですねぇ」
「おい、ライカ。
いつまでここで立ち話するつもりだ?」
混乱から立ち直ったセルケトが、ライカに声を掛ける。
「おや、ライカ殿。
良かったら、お連れの方を紹介してはくれませんかな?」
「ああ。
セルケトと、ヘティトだ。
優秀な斥候と、強力な魔法使いだ」
「ほほう。
初めまして。
わたくし、ヤスヒコ=タナカと申します。
以後、お見知りおきください」
紫のターバンを巻きつけた頭を、律義に下げるヤスヒコ。
こうまでされると、冷血な気のあるセルケトも、大人しく頷くしかない。
「さて、お帰りならば、さぞお疲れでしょう。
あまり長くお引止めしてはいけませんな」
ヤスヒコはそう言って、アーネストに相対した。
「アーニーは立派になったな。
見違えたぞ。
――――やベっ、おじさん泣きそうかも!
年だなー、やだねー、はははははは」
「ヤスヒコも元気そうで安心したよ。
ちょっと仲間が変わってるけど、それもヤスヒコらしいね」
「おお、オークスと魔法使いか。
2人とも強いんだぞー?」
魔法使いの方は分からなかったが、重そうな槍を抱えたオークの方は、確かに歴戦の戦士と言った趣だ。
「きぃ~~ひっひっひっひっひっひ!!」
突如、魔法使いの老人が奇声を上げた。
全員が驚いて固まっていると、魔法使いはヘティトに声を掛ける。
「腐れ沼に行ったのなら、消臭香はお持ちだろう?
良かったら、譲ってくれないかねぇ」
にちゃりと歯欠けの口を開け、くしゃりと笑ってヘティトに頼む。
「え、嫌です」
ヘティトがバッサリと切り捨てると、老人はもう一度笑い、引き下がった。
「おいヘティト。
持ってんなら、売ってやりゃあ良いんじゃねぇか?」
あまりの一刀両断具合に、セルケトが助け船を出した。
「…………新金貨1枚なら」
それを聞いて、魔法使いがヤスヒコに声を掛ける。
「ほれ、腐れ沼に行くなら必要なアイテムじゃ。
買っておけ、買っておけ」
「むむ。
では綺麗なお嬢さん、新金貨をお渡しいたします」
ヤスヒコが財布から金貨を取り出し、ヘティトに差し出す。
ヘティトは一瞬、嫌そうな顔をした後、バッチイ物の受け取り方で金貨を受け取った。
それからカバンを開け、一袋の香を魔法使いに差し出す。
「使い方はご存じで御座いますね?」
「きぃ~~ひっひっひっひっひっひ!!
分かっておる、分かっておるわ」
不気味に笑って、魔法使いが受け取る。
「主材料は伽羅か? 沈香か?」
「白檀に御座います。そこにレモンピールを少々」
「ほほぉ~~。ヤスヒコ。この香はお買い得じゃぞ」
「えー、そうなんだ。
ありがとう、ヘティトさん」
「とんでもないことで御座います」
姉の後ろにぴょこんと隠れて、ヘティトがヤスヒコに返礼する。
「そろそろ行くか、ライカ。
夜になる前にオスターに入りてぇ」
「うむ。
ではな、ヤスヒコ。
武運長久を祈る!」
ライカが笑顔で手を振ると、ヤスヒコも笑顔で、
「美味しいお魚食べなねー」
そんな言葉を言いながら、パーティー2つが交差する。
ライカたちの冒険は、それで終わった。
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!!! オ マ ケ ヤ ス ヒ コ !!!
「へー。あれが腐れ沼かー」
数日後、腐れ沼の直前まで来ていたヤスヒコたち。
彼らの周りには荒野が広がり、腐毒交じりの不潔な風が流れている。
そこにフワフワと、風クラゲが飛んできた。
それは異様な個体であった。
普通は人のこぶし大の身体を持ち、群れで空を遊泳する風クラゲだが、その個体は人の腰ほどもあり、単体でフワフワとしているのだ。
水色の傘に、金色の触手。
異様な個体は襲ってくるでもなく、去って行くでもなく、付いてくる。
「んー? なんしよるとー? 仲間になるっちゃ?」
のどかな気分で、ヤスヒコの方言が出る。
すると、風の流れか、気まぐれか、風クラゲがヤスヒコの元に舞い降りてきた。
「でも君は、オークスや魔法使いみたいに、強かとは思えんけんなぁ……」
――と、その時、ヤスヒコの脳裏にイナズマが走った!!
(こ、これはもしかしてホイミンやなかと!?)
フワフワ降りる風クラゲ。
改めてみると、ホイミンにも見える。目と口は無いが。
「勇者の仲間にホイミンは必須たい。よかよか、ついてきんしゃい」
完全にウェルカムの姿勢を示したヤスヒコの元に、ゆっくりゆっくりクラゲが降りる。
ゆるゆるゆると触手を伸ばし、コミュニケーションを交わさんとする。
「お、なんね? ホイミをしてくれるっちゃ?」
完全ウェルカムの姿勢で待つヤスヒコの元に、触手がゆっくり近づいていく。
「ん? あ、なんか暖かい。りゃめぇぇぇ、癖になっちゃうばい!!」
触手に対して反射的に最低の反応を示すヤスヒコだったが……
「このマッサージ、ホイミやと?? 暖かいし、気持ちよかし。
あれ……感覚が、ん?」
ばたんと倒れてヤスヒコは叫んだ。
「しびれくらげやったと!?」




