3-1 セルケトの依頼
イッキ、イッキ、イッキ、イッキ!!
――ダンッ!! 「――飲んだぁーーー!!」 オォーーーー!!
狭い船底の食堂に、野太い歓声が上がる。
「おい犬ッコロ、何の騒ぎだぁこりゃ??」
セルケトが尋ねると、騒ぎの中心にいる主人を、遠く見守りながらアーネストが答える。
「矮人種の船員たちと、火酒の耐久レースが始まってしまって……」
「……ドワーフと麦蒸留酒飲み対決とか、アホか、ライカは」
酒豪で知られるドワーフ族は、エバーマイン王国崩壊後、主に肉体労働者としてエレニア各地に散った。
船乗りなどは良い例で、ドワーフの船乗りと言えば、エレニアの沿岸部で石を投げたら当たるくらいには存在する。
ホントに投げるとドワーフは短気なので、やめておいた方が良いと、筆者から忠告を添えておく。
船揺れと酒酔いを絡めて、ドワーフたちが嘯く箴言がある。
「どっちも揺れてて、気持ちいいだけ。
船室の狭さも、洞窟暮らしと同じさ」
愚かな放言なのだが、良く知られた名言として庶民の巷間に流布しているのだ。
「でもご主人様は既に1人抜きしてますよ」
「マジか……酒精の申し子かよ……」
ドワーフに飲み勝つライカを眺め、魔物を見る目でセルケトが見る。
「まあ、明日は二日酔いでしょうが、早朝にはオスター港に着くらしいので、放っとこうかと」
「……………………」
セルケトは初めて、アーネストに同情した。
「なぁ、犬ッコロ。相談なんだが、仕事の依頼をしても良いか?」
出し抜けにセルケトが口を開いた。
「……内容にもよりますが、伺うだけなら。
決定権はライカ様にありますので」
その応えに、皮肉そうに表情を歪めてから、セルケトが言った。
「――OK。じゃ後で打ち合わせなー」
フラフラと後ろ手を振りながら、セルケトが去って行く。
「お食事は召し上がらないんですか??」
「バカの熱気で食欲が失せた。もう寝るわ」
「打ち合わせは??」
「下船前でイイだろ。起きたら声掛けるぜ」
気だるげにそう言い残し、セルケトは船室に姿を消した。
イッキ、イッキ、イッキ、イッキ!!
――ダンッ!! 「――また飲んだぞーーー!!」 オォーーーー!!
ドワーフの男らに囲まれて、ライカが次々酒を干している。
明日の二日酔いは確定だろうと、アーネストは諦めた。
明日の朝は、主のお世話に、セルケトとの打ち合わせ、下船と忙しくなりそうだ。
「…………徹夜で準備しようかな……?」
アーネストはそう呟いたが、深夜、彼は船酔いでグンニャリする運命にあり、対して泥酔したライカは熟睡という、理不尽な夜を迎えることになる……




