表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/54

2-10 大百足

 光蜈蚣竜(ブリュナーク)は、食後の甲羅干しを満喫していた。

 今日も光の魔力で増幅された、キラキラと降る木漏れ日が心地良い。


 自慢の白い甲殻をギギギと鳴らし、とぐろを巻いて寝返りを打つ。


 今日はクマを捕り、捕食した。

 第30節足あたりを噛まれた時には命の危機を感じたが、その直後、会心の大顎(おおあご)による噛み返しが決まった。

 これが決まれば、麻痺毒が注入できる。

 勝利が確定したと言っても過言ではない瞬間だ。


 その後は、麻痺したクマのはらわたを熱いまま(すす)った。

 思うままに、大顎に血を滴らせる快感は、何よりも代えがたいものだ。


 ――今日は良い日だ。


 彼のそうした感想が(くつが)るのも、間もなく先の事だった


★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「こっから先に進むと、感づかれるぜ」


 セルケトがパーティーを制する。


「とりあえず、弓矢と魔術で先制しながら、ライカが接敵するのが正攻法だろうな」


 防御魔術と香の効果は、既に効いている。

 準備万端。

 あとはいつ始めるかだ。


「よし、始める。

 仕掛けるので、好きに合わせてくれ」


「いいね、あんた良いリーダーだ」


「気を付けてくださいね」


 アーネストの無意味な言葉に、ライカが振り返り、微笑む。


「竜に対して油断をするほど、私もバカではない。

 だが、ありがとうな、アーニー」


 そう言って、再び前を見る。


「……では()く」


 その一言の直後、ライカは一条の雷になった。

 一つに結んだ金髪が、雷光のように風を切る。


 Grirrrrrrrrrrrrrrr??


 大百足(おおむかで)が鳴き、警戒を強める。


「カネ・イグニス。火の矢(ファイアボルト)!!」


「カネ・テラ。螺旋礫投(ドリルショット)!!」


「とりあえず目玉かぁ? 動くなよ、クソ虫」


 後衛組が攻撃を放ち、魔術と毒矢が、先を走るライカを追い越していく。


 Grirrrrrrrrrrrrrrr!!


 攻撃を受けていると気付いたブリュナークが鎌首を(もた)げる。


 体が半分持ちあがると、周囲のクェルカ(かし)の大木と見紛うばかりだ。

 光蜈蚣竜の装甲は、腹側と言えど硬く厚い。


 魔術と毒矢が着弾するも、弾かれてしまって効果はない。


「む、手強いな」


 風のように駆けながら、双剣を抜いてライカが呟く。


「装甲が厚いか。 ならば――」


 ライカは跳んで、頭部を狙う。


「――叩き斬るっ!!」


 ガゴン、と凄い音がして、砂埃が起こった。


「やったか!?」


「セルケトさん、それ、やってないの解ってて仰ってますよね?」


「キャンキャンうるせーなぁ。ボス戦だって楽しい方が良いだろうよ」


「……姉さま、来ます」


 ヘティトの警告に、全員が大百足を見る。

 百足は一転、暴走馬車のように駆けていた。


 当然、目標は後衛組だ。


「虫ッケラのくせに賢いじゃねぇかよ!」


 バサッとマントを翻し、セルケトが得意の道具を使う。


「ヘティト、犬ッコロ、散れ!!」


 セルケトが、マントの内ポケットから、小瓶を1つ取り出して投げる。


「燃えたら(つれ)ぇーだろ! 死ねクソ虫!!」


 追って短弓を構え、矢を放つ。

 矢が小瓶を貫くと、


 チュドン!!


 と、派手な爆発が起こった。

 セルケト姉さま謹製の、火薬と油を混ぜ合わせた焼夷瓶である。


 Grirrrrrrrrrrrrrrr!!?


 熱と炎に包まれて、ブリュナークが苦しみ悶える。


「ハッ、効果はバツグンだ!、ってか!!」


 (メタリカ)元素のブリュナークは、(イグニス)元素が弱点と予想できた。

 ブリュナークは炎元素も操るので、弱点である確率は1/2。

 冒険者にとっては、試す価値のある確率である。


「重ねます。カネ・ウェントゥス・エト・イグニス。

 ――炎渦竜巻(ファイアスポウト)


 魔術によって、風と炎に指令が下る。

 ただ漫然と燃える炎が、渦巻きとなって、大百足を焼く!!


 Grirrrrrrrrrrrrrrr!!?


 もだえ苦しむブリュナーク。

 101本の脚が、大地を削り、天空を掻く。


「やったか!?」


「セルケトさん……」


「やってねーのは、わーってるよ!」


「姉さま、尾が……」


「!? まっずい、光線が来る!! 最大防御!!」


「カネ・モンス。硬化(ハーディング)!」


「カネ・ウェントゥス・エト・イグニス。

 炎の壁(ファイアウォール)


 ブリュナークの尾がぶらりと()れる。

 光魔法を放つため、5本の尻尾が狙いを定める。


「来るぞっ!!」


 無音の熱波が、辺りを覆った。

 遅れて木々が、ジュワリと燃える。


「くっハッハッハ、虫ッケラのくせに面白れぇなぁ!!」


 燃える森林を背景に、セルケトが哄笑する。


「ライカぁ!! 30足目あたりの右側の腹が狙い目だぜ!!」


 攻め手に欠いていたライカが、その助言を聞いて狙いを定める。


「ふむ。確かに傷があるな……」


 クマと戦った傷痕なのだが、ライカたちには知る由もない。


「弱点なら、狙うか!!」


 もう一度、雷光となってライカが再び大地を駆ける。


「氷炎一閃!!」


 鉄壁のハズの装甲が、氷炎流の剣技に()じ開けられる。


 Grirrrrrrrrrrrrrrr!!

 

 体液を流し、もだえ苦しむブリュナーク。


「ケヒッ!! 殻が割れたぜ!! お手柄だァ!! ライカ!!」


 悪魔のような笑顔を浮かべ、セルケトが矢を放つ。

 セルケト姉さま謹製の、竜をも殺す毒矢である。


 ストン、と。


 殻が破れた右の腹に、致命の毒矢が突き刺さる。


「――っく! さすがに竜か、手強いな!」


 手応えのある一撃を与えたものの、弱った様子もない大百足を見て、ライカが漏らす。


「ライカぁ!! 毒を刺した!! しばらく様子見したらどうだ!?」


「? ――ふむ、毒か……」


 セルケトの助言に、ライカの心が揺れた。


(卑怯な手段は好みではないが、これは……戦だからな)


 101の脚を振り回し、光蜈蚣竜がのたうち回る。


(早めに片付けねば、山火事が広がる。可能な限り木材は残したいが……)


 貴族の視点で考えて、ライカは軽く逡巡する。


「ライカ様!! 光線が来ます!!」


「!!?」


 アーネストの警告で、ライカは現実に戻った。

 百足の5本の揺れる尾が、ユラユラ揺れてライカを狙う。


「簡単には狩らせてくれないな!!!

 流石は竜だ、ブリュナーク!!」


 尾から伸びる光線の焦点を潜り抜け、ライカが(はし)る。


(多少の山火事は已むを得んが……可能な限り制圧するとしよう)


 ライカは決心し、再び跳んだ。


「双剣崩落!!」


 2本の剣を上から共に叩きつける、氷炎流の技である。

 ガゴン、と重い音がして、百足の頭が地に沈む。


「へぇ、ライカも結構、戦闘狂(バトルマニア)だなぁ」


「セルケトさん、誤解です。ライカ様は周辺の被害を抑えるために戦っています」


「あぁん??」


 興を削がれてセルケトがアーネストを()めつける。

 ――が、


「へぇ、面白ぇこと言うなぁ、犬ッコロ」


 にやりと笑って、表情を変える。


(……こ、怖い、助けてライカ様)


 Grirrrrrrrrrrrrrrr!!


 ブリュナークが()く。

 5本の尾を振り回し、怪光線を振り回す。


「うむ、あの尾が厄介か」


 ライカが呟き、戦術を変える。


「尾を断てば、ただの巨大なムカデに過ぎない!!」


 ただの巨大なムカデというだけで迷惑なのだが、彼女はそう判断した。

 ダダダ、と駆けてブリュナークの背後に回ると、狙いを定める。


 薙ぎ払われる光線を(かわ)しつつ、その放射元を睨みつける。


「征こう……」


 決意を固め、ライカが()ける。


「――まず1つッ」


 Grirrrrrrrrrrrrrrr!!?


 ライカが順に、尾を切り払う。


「――2つッ!! 3つッ!!」


「……おー、スゲェなアイツ」


 遠くで見ながら、セルケトが呟く。


「ええ、ライカ様は凄いのです」


 アーネストが得意げに息を巻くと、セルケトは水を差されたように顔を(しか)めた。


「――うっせーな忠犬アニ公かよ」


「――4つッ!!! ……そして、これで――――最後だ!!!」


 Grirrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!!!?


 痛みにのたうち回るブリュナーク。

 長大な白銀の蛇体をのたくって、101本の脚が大地を削り、空を()く。


「!!っ、今、攻めるのは藪蛇(やぶへび)か」


 ライカが手を出しかねていると、何だかブリュナークの動きがゆっくりになってきた。

 ガチャガチャワキワキと(うごめ)く101本の脚が、壊れた玩具のように徐々にスローモーになる。


「?? なんだ?? 寝た、のか……??」


 ライカがブリュナークの挙動を疑うと、後衛から声が掛かる。


「おー、やったなライカぁ。討伐完了じゃねぇか」


 プラプラと歩いてくるセルケトに、ライカが疑問を投げかける。


「??? これは、死んだのか??」


「毒によるスリップダメージってやつだな。ライカがコイツを暴れさせてくれたおかげで、毒の効きが早まったぜ」


「……………………?」


「おい犬ッコロ、お前の主人バカだぞ」


「バカではない!」「バカではありません」


 主従でバカのような返答をして抗議する。


「とりあえず討伐完了だ。

 頭部の触角辺りを斬りとって、ギルドへの証拠にしようぜ」


「ふむ。……では斬ってくる」


 セルケトの提案にライカが応じ、本日最後の剣閃が(はし)る。


「ライカ様!! 雨の魔術を使っても宜しいですか??」


「……雨、か。山火事を消すのか??」


「そのつもりです。ヘティトさんにご協力いただけると助かるのですが……」


「え、嫌です」


 冷たく断られる。


「おいヘティト。風の魔術を使ってくれって話だろ?

 生理的嫌悪感は仕方ねーけど、そんくらい協力してやれよ」


 酷い言われようにアーネストは心で泣いた。


「チッ、雨を降らせるのですね?」


「ア、ハイ、オネガイシマス」


 アーネストは心を殺した。


「カネ・ウェントゥス。風の舞踏(シルフィードダンス)


「カネ・フォンス・エト・ウェントゥス。

 雨に歌えば(シンギンザレイン)


 ザァァァァァァァァァァァっと。

 魔術で呼んだ雨が降る。

 竜が燃やした木々に当たって、ジュウジュウ泣いて鎮火がすすむ。


「よし、帰ろう」


 ライカのこの一言で、今回の冒険は終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ