2-3 初探査
光蜈蚣竜ブリュナークを狩るべく、ライカたち2人はまだ夜中の内にクェルカを出た。
ブリュナークの棲むキノコ岳は、元々、光の魔力が滞留しやすい土地らしく、日中の気温と日照量が普通の場所とは大きく異なる。
そのため樹林の成長が早く、クェルカ材として知られる木質ペレットが特産品となるほどだ。
現在、エレニア王国中の燃料は、クェルカ材が広く選ばれているといっても過言ではない。
しかし、その光の魔力は面倒事を呼ぶ。
超暑いのである。
おまけに一面眩しいのである。
更にブリュナークが現れたことで、その傾向に拍車が掛かっているらしい。
そのため、昼間の活動は体力が奪われるので、涼しい早朝からの入山がセオリーとされていた。
なかには夜間のみに限って潜る冒険者パーティーもいるというが、光のダンジョンと化しているキノコ岳において、光の魔力を蓄えた素材を得るには、やはり昼間の方がよい。
ルクスキノコや、灯りゴケなどは、昼に蓄えた陽光を夜に消費して成長をするからだ。
首狩りウサギや、花火魔などの魔物も、夜は姿を隠すことが多い。
一方、夜には、ルクスキノコや灯りゴケがボンヤリ発光し、幻想的な場所へと変貌する。
そのためキノコ岳=ルクスダンジョンは、近隣の深謀遠慮に欠けた若者たちの逢引き場所としても、知られていた。
当然のように度々、遭難者や失踪者を出していた。
ゆえに、ルクスダンジョンの冒険者に対する依頼は、以下のように大別できた。
・1 早朝に動物系の魔物を狩り、昼頃を目安に生薬を採る。そして早めに帰る。
・2 夜間、ぼんやりと光るキノコやコケなどを採取しつつ、失踪者を探す。
もちろん、体力や編成、現地での消耗などを鑑みて、これらをフルコースでやるかといえば、パーティーごとに千差万別。
その肌感覚を、ライカたちは得ようというのであった。
「やはり夜中の出立で正解でしたね。
まだ昼前なのに、こんなに暑くなるとは思いませんでした」
ヒルド地方産、ドワーフ職人謹製の煙水晶を使ったサングラスを身に着けて、アーネストは感想を言った。
目が眩むだろうという想定で、事前に2人で用意したものだ。
空を仰ぐと、常軌を逸して成長した照葉樹の葉が、遥かな高みで天のほとんどを覆っている。
降り注ぐのはわずかな木漏れ日だけだが、そうは思えないほど、この山野は光に溢れていた。
「私も鎧の一部を外してきて正解だった。
こんな所では、蒸しライカになってしまう」
ライカが、サングラスを直しながら感想を述べる。
「だが思ったよりも湿気が無い。
風も通るし、これなら長時間でもいられるかもしれん」
ライカが鉈で、繁茂したシダ植物のヤブを切り裂きながら気楽に言った。
「ライカ様、光の魔力の毒性を甘く見てはいけません。
ジリジリ体力は奪われていきますし、肌を灼きます。
体の水分が汗として奪われるので、水分を摂らねばなりませんが、
我々の携帯できる水分など、この使い慣れた水袋程度」
「ふむ……」
ライカが自分の水袋を手に、不思議な顔をした。
「ぬ? こんなに飲んだか……?」
「山の渓流を利用することも出来るでしょうが、汚染されている可能性が高いです」
「なぜだ? 光で強く照らされていれば、水の瘴気は浄化されよう?」
アーネストの指摘に、ライカが問いを返す。
ピクリと耳を震わせてから、アーネストが説明を始めた。
「瘴気を甘く見てはなりません。
気温が高く、光が多いと、却って強まる瘴気も多いのです。
例えるなら、夏場の食中毒のようなものですね」
「ふむ。
たしかに夏には食中毒が増えるな……」
曲がりなりにも領主の娘。
領民の様子を見ることは、彼女の生活の一部であった。
「瘴気が1種類だと思ってはいけません」
「分かった、アーニー。
忠言ご苦労」
「痛み入ります」
一礼をして、アーネストは控えた。
「よしっ、ここは通れるようになったぞ。
アーニー、どうする? 切りも良いし昼にするか?」
「そうですね。ライカ様がお望みならば、確かに良い頃合いかと」
「よし、準備せよ!」
ライカが笑顔で指示を出す。
「かしこまりました。
こちら、冷えたレモン水です。
お飲みになって、お待ちください」
荷物の底から水筒を取り出し、ライカに渡すと、アーネストは準備を始めた。
「――ん、んーーっ! 冷たい! 甘い! 酸っぱい!」
上機嫌そうに漏らしながら、ライカが上気した顔を見せて、大木に寄りかかって座る。
「ライカ様、本日の昼食は食中毒を警戒し、少しハーブやスパイスを多めに使っております」
「おお、いいぞ。変わった風味は大歓迎だ!」
キラキラした目で歓声を挙げるライカお嬢様。
その時――
チュドン!!! ゴゴゴ!! と音が響いた。
「!? どこだ?? 左か!?」
光あふれるダンジョンではあるが、視界はそれほど通らない。
大きく育ったクェルカ樫が、視界を埋めているからだ。
「カネ・フォンス。魔力探知」
アーネストが魔力の乱れを探る。
「東の方ですね。
遠いので危険は無いでしょう。
ブリュナークが暴れているのかも」
「行ってみるか」
楽しそうに笑って、ライカが告げる。
「行ってみましょう」
ライカに影響され、アーネストもそう告げた。




