1-13ED 復興
やいの、やいの、と人が騒いで、太陽の下で作業が進む。
流れた家や荷物を片付け、岩、砂利、泥を掻き出していく。
「助かりました、ノール様。
あなたのお陰で、犠牲者はゼロだ」
フットウィーク冒険者ギルド参議に声を掛けられ、ライカは疲れた笑顔を浮かべた。
「ここの民は強いな。
犠牲者はゼロ、か……」
「お2人が御身体を張ってくださったお陰ですよ。
ヤーデレーゲと観測所の様子を、迅速にお知らせくださったお陰で、人的被害はありませんでした。
それに、必需品を持って逃れる余裕もあった。
この災害の記録は、長く、このレーネースで大切に保管されることでしょう」
上質な綿の上下ではなく、帽子と作業着、手袋にブーツの姿で、フットウィークが笑う。
革の丈夫な手袋を、ズボンのポケットに差し込んで、男はスッと金貨を差し出した。
「……? これは?」
「追加報酬を払う稟議が通りました。
レーネース冒険者ギルドの会議で決まりましたが、
これは、全ての住民の思いと考えて頂いて構いません」
「いやいや、それはいけない。
契約書に追加報酬の条文は無かった」
ライカが固辞するも、フットウィークは引き下がらない。
「先ほど、ベッドでお休みのアーネスト殿から頂いた報告書に、
マナ・ポーションを使った、との記載が。
……この新金貨1枚で、合計報酬は5枚になります。
赤字にならずに済むかと」
「確かに使ったが……」
消えていた酸味が蘇り、ライカがそっと唇に触れる。
「船もほとんど、別の浜に逃がせましたから、
ここの生活が止まることは無いでしょう。
ご滞在中の食費と宿泊費は、冒険者ギルドで払わせて頂きます」
「至れり尽くせりではないか」
フフッと笑って、ライカは腕を組んだ。
「……息子は」
「?」
「ライカ様が口頭で速報をお伝えくださった時、息子は家を出ていました。
フラフラと、そこいらを散歩して、自然観察をするのが趣味のようです」
「……渋い趣味だな」
「ライカ様方のお陰で、息子を探す時間も得られた。
犠牲者ゼロとは、そういうことですよ」
男は笑顔でそう言って、再度、金貨を押し付ける。
「……ありがたく頂戴しよう」
「ええ、これで我々も、心置きなく過ごせます」
2人が笑みを交わしていると、サフォ川の方から、何やら大声が上がった。
「!? なんだ! また増水か!?」
「いえ、あれは歓声です。翡翠を見つけたのだと思います」
耳をすませば、確かに声は悲鳴というより歓声のようだ。
「ヤーデレーゲが暴れると、山が削れて翡翠が流れてくるのです。
我々がこんな王国の果ての、小さな浜に身を寄せるのにも、理由があるのですよ」
「……それで毎度この騒ぎか。
ご苦労なことだ」
ライカが重い溜息を吐く。山で転んだ打撲が疼く。
「それより、長老方が降参したので、観測所に本格的な調査隊を遣りました。
……1名死亡、1名行方不明。
それと――」
「レプテールの影、だ。
俄かには信じ難いが、アーニーが言ったのだ。
間違いは無かろう」
ライカがウィークフットの目を見て告げる。
「王国の東の果てということは、裏を返せば異郷と隣り合っているということ。
警備を見直す必要があるでしょうな……」
「問題山積ではないか」
ライカが本音でチクリと刺すと、ウィークフットは笑った。
「なんのなんの!
問題を次々に解決していく。
あるいは難問を塩漬けにする。
それが人生と言うものでしょう?」
パチリ、とチャーミングなウィンクを放ち、ウィークフットが歩き出す。
「さぁて、うちの片づけに戻らせて頂きます。
なにかございましたら、住民にお申し出ください。
話は通っておりますので」
ライカがしばらく見送ると、やさしい風が吹いた。
はらはらとライカの髪が舞う。
ひと仕事終えた感慨が、ゆっくり心に押し寄せる。
「…………」
無意識に唇に手をやって、ライカはコクリと頷いた。
「ごはん食べて寝よう」
部屋で待つアーネストの元に、ついでに何か持って行ってやろうか?
とびきり酸っぱいライムジュースはどうだろう。
疲労回復に効果があるし、何よりびっくりさせられる。
「フフッ……お返しというやつだな」
間違った復讐心を胸に秘め、ライカは上機嫌にキッチンへ向かった。
~劣等種と呼ばれた少年と、その手を取ったお嬢様と、支離滅裂なことを言う中年勇者の冒険譚~
第一話 翡翠竜ヤーデレーゲ
~fin.




