1-12 下山
ハッハッハ、っと息が鳴る。
豪雨に濡れて、呼吸が詰まる。
ざあざあと降る雨粒が、顔を濡らして息を邪魔する。
(アーニーを置いて駆け降りるのだ。最速&無事故で降りねばならない!!)
生真面目さ故の使命感に駆られながら、ライカが2倍の速度で駆け降りる。
足元はインベル山の、滑りやすい蛇紋岩。
そこに豪雨と強風が乗る。
「ッ落ちると思うから、気を遣うのだ! 降りると思えば問題など無い!!」
解像度が雑な覚悟を胸に秘め、ライカは2倍の速度で疾る。
当然、2倍の速度は功罪もある。
敵などの邪魔には2倍の速度で反応できるのだが、
速度に任せて足を滑らせ、2倍の速度で地面に転がる。
「……!! っ痛くない!!」
硬化の術も掛けてもらった。
転倒程度で怪我は負わない。
驟雨に防がれた視界の中で、先ほど見た崖が映る。
(ここは……!)
崖から飛び降り、虚空に舞う。
墜落死への、危機感は無い。
「ショートカットだ!! なぁ、大ナマズ!!」
ボカン!!!と。
沼を震わせ、ナマズが跳ぶ。
久々の大物に胸を震わせ、無い脳みそを興奮に染めて。
ガボン!!!と、ライカを呑み込んで、ナマズがスルリと泥中に戻る。
……だが、バカな魚類の希望は通らない。
――シャキンッ、と堅い金属音。
「お役目ご苦労。冥福を祈る」
口の中からナマズを斬り裂き、死んだそれからヌチャリと抜け出る。
「……ハッ、ハッ、ハッ!!」
(生臭い……だが、もっとも気になるのは……口の中が酸っぱいことだ)
アーネストに口移ししたマナ・ポーションの味が、駆けるライカの頭を離れない。
(未熟なライムをベースとし、数種の薬草。
少量の塩と、多少のハチミツ……の、ような味であった)
不味かったわけではない。
ただ、予想外の味で驚いたのだ。
フッ、と笑って、ライカが走る。
(この味は忘れんな……)
吊り橋を駆け、坂を下り、村に向かってライカが疾る。
サフォ川の増水と時間比べだ。
(待っていろアーニー! 助けを呼ぶからな!!)
固い決意を胸に秘め、ライカは山を転がり落ちた。




