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1-11 招雨招雷

 Prrrrreeeee lrlr!!


 空気を震わす金切り音!!

 その音は物理の力を伴って、観測所を少し揺らした。


「なんだ!?」


 カルデラ湖からの重い波音。

 ライカはハッとなって、小屋の外に出る。


「やはりか!

 ……だがなぜ荒ぶる、ヤーデレーゲ!?」


 巨大な蛇体をのたくらせ、湖の水を波立たせながら、ヤーデレーゲが触手を振るう。

 暗く沈んだ黒雲に向け、雨よ風よと、奇声を上げる。


 Prrrrreeeee lrlr!!


「……(まず)いな。洪水を()び始めたか?」


 竜が何やら荒ぶっているのは瞭然(りょうぜん)だが、これが洪水を喚ぶ行為なのか、ライカには判らない。


(っ! 休めと言って、舌の根も乾かぬうちにアーニーを起こすか!?

 朝令暮改の責は負うが、そもそもアーニーが魔力切れなのが問題なのに……!)


「…………」


「……魔力が回復すれば、アーニーは起きるのか?」


 観測所の中を見れば、床に寝袋を引き、その上に寝るアーネスト。

 その傍らに、2人が背負ってきた荷物がある。


「ッ!!」


 ダダダと駆けて入室し、アーネストの荷物にライカが跳びつく。


(マナ・ポーション……! あれを使えば、アーニーが起きるっ!!)


 綺麗に整頓された背嚢(はいのう)を散らかしながら、ライカが目当ての薬を探す。


(緑……ッ! 緑の小瓶っ!)


 その時ふと気付き、携帯燭台(ランタン)を見る。


「……そうだ!」


 アーネストによって(おろ)された、黒いシェードをシャーっと上げる。


(明かりがあれば探しやすいぞ!!)


 当たり前である。


「あった! これだ!!」


 荷物を死ぬほど散らかして、緑の小瓶をライカは手にした。

 キュポンと可愛い音が鳴り、小瓶の栓が開け放たれる。


「よし、アーニー。

 これを飲むのだ!」


「…………」


「アーニー?」


「…………」


「……むぅ」


(寝ている人には飲ませられない……)


 当たり前である。


(……ここは……く……口移しか……?)


 ゴウゥゴウゥ、と空が()く。

 バアァバアァ、と雨が降り出す。


(迷っている暇はない!

 マナ・ポーションは()()()だが、そこは……っ我慢だ!)


 クピリと、ひと息に口に含んで、ライカは心の中で叫んだ。


(酸っぱい!!)


 予想外の味に、薬を吐き出しそうになりながら、ライカがズズッとアーネストの脇に(ひざまず)く。


(許せ、アーニー。緊急避難だ。他意はないぞ)


 口づけに対する言い訳を胸に、ライカがアーネストの頭を抱く。


「……ん……んっ……」


 ゆっくりとした口移し。

 一滴たりとも無駄にはしないという、ライカの生真面目な性格が伺える。


「……ん…………ちゅッ…………。

 …………ふぅ………………うむ」


 全ての薬をアーネストに飲ませ、ライカが緑の涎を拭う。


「よし。これでアーニーを起こしても大丈夫だ」


 問題の解像度が雑であった。


「おーい、アーニー。起きるのだ。寝入りばなで悪いが力を貸してくれ」


「…………」


「おーい、アーニー。緊急事態だ。起きないと大変なことになるぞ」


「…………」


「っせい!!!」


「ぐぼっ!!?」


 ライカ謹製のエルボードロップ(ただのぼうりょく)

 アーネストが薬を吐き戻すリスクを取って、意識を取り戻させる非情な選択。


「……っ! ラ、ライカ様、なぜ僕の上に寝転んでおられるのですか??……っていうか痛!?」


「スマヌ、アーニー。緊急事態だ。ヤーデレーゲが暴れ出した」


 ライカの言葉に反応し、痛みを押し殺してアーネストは起きた。

 ライカと共に起き上がり、ダダダと駆けて小屋を出る。


「!? 竜が嵐を喚んでいます! ゲホッ……ッ魔力探知するまでもありませんっ!」


「やはりそうか!! どうするアーニー??

 (ふもと)のレーネースに最速で知らせるには、どうしたらいい!?」


「っ!?」


 アーネストは迷った。

 寝起きなので、無理もない。責めないであげて欲しい。


魔導駆路通話機(マイクロフォン)も、壊れていますし、山を一刻も早く駆け降りるしか――」


「……加速は使えるか?」


「……加速?? ……それは……いや、使えますね。魔力が戻ってる……」


「マナ・ポーションを飲ませたのだ! 加速を強めに掛けられるか?」


「……飲ませた?……あ、いえ、使えます。強化をすれば時間を倍に……」


「それを掛けてくれ、アーニー!! 一刻を争うのだ!!」


 ライカの秘策に、アーネストが反対する。


「危険ですライカ様。大雨の中、加速を掛けて、滑りやすい山を下山など!?」


「ならば代案はあるのか!?」


 ス、と差し込まれた正論に、アーネストは黙るしかない。


「…………ありません」


「ならば(すぐ)に! 私が山を駆け降りて、レーネースに知らせる!!」


 アーネストは一瞬迷った。

 こんな辺境の村の危機ごときで、お嬢様がお亡くなりになってはならない。


 ご当主様からも、娘を守れと命じられたし、アーネスト個人としても、ライカを守ることに迷いはない。

 だがそのライカから、死地にある村を救うため、自ら死地に跳び込ませてくれ、と言われるとは思わなった。


「…………」


 風が鳴った。


「……アーニー!! 私の目を見ろ!! 私に加速を掛けるのだ!!」


 ライカの威勢に、アーネストが怯む。


(なぜ死にたがるのですか、ライカ様。この山を豪雨の中、加速状態(ステータス)で駆け降りるなんて……)


 動揺するアーネストが、主人の言葉に従って、ライカの目を見る。

 そこには、青い情熱が燃えていた。

 子供の頃と同じだった。


「アーニー!! 早く!! この時間で助かる人々がいるかも知れないッ!!」


「…………分かりました。ご準備は宜しいですか??」


 アーネストの返事に満足し、ライカはすっくと立ちあがった。


「うむ。良い」


「…………カネ・モンス。強化硬化(アドハーディング)。っまだです!」


 続けて、


「カネ・ソヌス。強化加速(アドヘイスト)


 音の魔力がライカに集い、そこだけ世界が2倍速になる。


「deハナッ! ァニ!! ヤsンディロ!! タスケヨコs」


「あ、足元にお気をつけて」


 アーネストの言葉を受けて、ライカがアーネストの頭を撫でる。


「……あ」


「マテロ」


 2倍の速度で踵を返し、小屋の外へと駆け馳せる。


「…………」


 アーネストは、口中の酸味を疑問に思った。


「……マナ・ポーションを飲ませた……???」

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