第一宙 第一夢 夢境之棋
祁翔は、夢を愛し、夢を見るのが得意な彼は、いつも眠っている間に見たすべての夢を覚えています。最初は単なる好奇心や楽しみからでしたが、彼は日々の夢を記録し始めました。夢の中で夢を見て、記録をとり、しかし、意外なことに、夢の中には多くの時空世界が存在することに気づきました。それは人々が想像もしなかった時空世界でした。
彼はその世界を『夢宙』と呼び、すべての時空構成要素が含まれています。
彼は多くの夢の出來事を経て、自分も隠された『夢宙者』であることに気づき、未知の冒険に踏み出しました。
『夢・宇宙・時空』創始篇 ― 星の法則篇 ―
彷徨の法則!
中心の法則!
循環の法則!
欠片(砕裂)の法則!
集結の法則!
共鳴の法則!
回帰の法則!
自由の法則――最初にして最強、そして最も深奥なる法則!
「……ああ、もう複雑すぎるよ!」
軽やかで、どこかうんざりしたような声が響いた。
虚と実が入り混じり、夢か幻かも分からない世界。まるで「胡蝶の夢」のような曖昧な境界の中で、彼は静かに一冊の本を閉じた。
☆
満天の星が瞬き、夜空には大きな満月が浮かんでいた。
その夜、彼は意識や夢について書かれた本を何冊も読み、夢に関する記事や動画を見続けていた。もちろん、お気に入りのアニメも欠かさずに。
やがて疲れが押し寄せ、ベッドへ倒れ込む。
瞼はゆっくりと閉じ、抗えない眠気に身を委ねると、ほどなくして深い眠りへ落ちていった。
☆
ぼんやりとした意識の中で、彼は夢の世界へ足を踏み入れる。
気が付くと、そこは一枚の碁盤を挟んだ静かな空間だった。
彼は真剣な表情で碁石をつまみ、静かに盤上へ置く。
ふと自分の手を見る。
身にまとっていたのは純白の衣。長く垂れた袖は、まるで最高級の絹で織られたかのように美しかった。
対面には、長い白髭をたくわえた老人。
老人は彼とは対照的に漆黒の衣をまとい、しばらく考え込んだあと、一筋の汗を流しながら慎重に一手を打った。
☆
その遥か彼方――どこかも分からない戦場では、黒煙が立ち昇り、無数の兵が命を懸けて戦っていた。
勝利のためなのか。
名誉のためなのか。
それとも、別の何かのためなのか。
その答えを知る者はいない。
☆
その瞬間。
夢の中の彼は、碁石を持つ手を止めた。
──負けた。
そう悟ってしまったのだ。
盤上は静寂に包まれる。
次の瞬間、景色は一変する。
濃い霧に覆われた夜。
そこには壮絶な戦いの跡が広がっていた。
地面を埋め尽くす無数の屍。
耳を裂くような断末魔。
吐き気を催すほど濃厚な血の匂い。
長い戦いの果て、生き残ったわずかな兵士だけが旗を掲げ、歓喜の声を上げていた。
勝者だけに許された笑顔だった。
☆
景色は再び碁盤へ戻る。
「やはり師匠には敵いません。……私の負けです。」
「ほっほっほ。」
黒衣の老人は髭を撫でながら穏やかに笑う。
「いやいや、大したものじゃ。この勝負、わしも危うく負けるところだった。」
二人の背後には、巨大なパズルのような壁画があった。
その最上部にある一片だけが淡く光り――
やがて静かに輝きを失った。
☆
『まだ寝てるの? 早く起きないと遅刻するよ!』
突然、目覚まし時計の声で祁翔は目を覚ました。
大きく欠伸をしながらアラームを止める。
この目覚ましは、大好きなアニメキャラクターのAI音声を設定した特製仕様だ。
毎朝、推しに起こしてもらえるなんて。
彼にとって、それ以上に幸せな目覚めはなかった。
カーテンを開けると、朝日が部屋いっぱいに差し込む。
もう一度欠伸をし、洗顔と歯磨きを済ませると、ちょうどやって来たバスへ飛び乗った。
通学中、ポケットからスマートフォンを取り出し、昨夜の夢を書き留め始める。
「本当に……現実みたいな夢だったな。」
内容を思い返しながら、一つ一つ丁寧に記録していく。
彼には、不思議な力があった。
目覚めても夢をほとんど忘れないのだ。
細かな情景まで鮮明に思い出せるため、毎朝こうして夢日記を書くのが習慣になっていた。
理由なんて特にない。
ただ、それが面白かったからだ。
「また、あの夢か……。」
彼は苦笑する。
何度目なのか分からない。
しかし、回を重ねるたびに夢は現実味を増していた。
「いつも同じ碁盤で……一度も勝てたことがない。」
☆
バスを降りても、祁翔は夢のことばかり考えていた。
ぶつぶつ独り言を呟きながら歩いていると――
ぽん、と肩を叩かれる。
驚いて前につんのめり、危うく転びそうになる。
「祁翔、おはよう!」
口いっぱいにトーストを頬張っていた祁翔は危うくむせた。
「お、おはよう……。毎回そうやって驚かせるなよ、装弱兄。」
「だからその呼び方やめろって! 俺は荘洛! 『洛陽紙貴』の『洛』だ!」
「はいはい。四字熟語とか使って、いかにも頭良さそう。」
祁翔は呆れたように横目で笑う。
目の前にいるのは幼なじみであり親友。
クラスメイトではないが、アニメ好きで、都市伝説や怪奇現象好きという共通点もあり、小さい頃からいつも一緒だった。
性別さえ気にしなければ、幼なじみと言っていい関係だ。
「朝からぼーっとしてたけど……また変な夢でも見たのか?」
荘洛は大きなおにぎりを頬張りながら尋ねる。
「……うん。また、あの夢。」
「これでもう十三回目だぞ。」
「えっ? 数えてたの?」
祁翔は思わず目を丸くする。
「なんとなく気になってさ。毎回その夢を見るたび、お前ぼーっとして俺に驚かされるから。」
荘洛は胸を張って笑った。
「なるほど……。」
祁翔はスマホの夢日記を開く。
そこには無数の夢の記録が並び、その中で『夢の碁局』というタイトルだけが十三回も続いていた。
本当に荘洛の言う通りだった。
「よくそんな細かいこと覚えてるよ。」
「そりゃ覚えるさ。お前、毎回物語みたいに夢を語るじゃん。最近なんて、その夢ばっかりだし。」
そう言いながら荘洛は、祁翔のスマホを覗き込む。
「『夢宙』……?」
目次に書かれた二文字を見つけた。
「なんだこれ。夢宙? めちゃくちゃ厨二っぽい名前じゃん。」
「分かってないな。」
祁翔は少し誇らしげに笑う。
「夢の一つ一つが、それぞれ違う時空だと思うんだ。だから全部まとめて『夢宙』って呼んでる。」
「へぇ……。」
荘洛は画面を覗き込みながら呟く。
そこには夢の内容がびっしり書き込まれていた。
祁翔は慌てて画面を閉じる。
「続きは教えない。」
悪戯っぽく笑う。
「ちぇ、ケチ。」
荘洛は足元の小石を蹴飛ばした。
話しているうちに、二人はいつの間にか校門へ着いていた。
祁翔は荘洛の背中を見送る。
高校二年でクラスが分かれて以来、二人は隣のクラスになった。
近いようで遠い距離。
今のクラスにはどうしても馴染めない。
唯一好きな時間は昼休みだった。
昼寝をすれば、また夢の世界へ行ける。
数え切れない夢の中を旅する時間こそ――
祁翔にとって、何より幸せなひとときだった。




