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クイックリングちゃんドロップキック!  作者: 好きな言葉はタナボタ
第八章

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第98話 親切心

「久しぶりだねミツキくん。 タカラズカさんも。 どうして2人で? イナギリさんは?」


トオマスが矢継ぎ早に放った質問の全てに、ミツキは答える。


「オレはアリスに買われたんだ。 クルチアは強くなるって言ってた。 掃除係はイヤなんだってさ」


でもトオマスには理解できない。


「どういうことだい?」 買われた? 掃除係?


今のミツキの説明では無理もない。


            ◇


理解に苦しむトオマスにアリスが助け舟を出そうとする。


「えっとね―」


そのとき、横合いから美しい女性がやって来た。


「トオマス、無駄話はやめて早く説明を済ませなさい。 もう何時(いつ)ラットリングが来てもおかしくないのよ?」


女性は20代半ば。 髪の色はブラウン、長さはミディアム。 ヒールが高めのブーツを履く彼女の足元に、水たまりが蠢いている。 女性は水使いなのだ。


「はい、ミカさん」


「あんたの新しい主君?」


アリスに問われ、トオマスは頬を桜色に染める。


「うん。 クズキリ・ミカさん」


「イナギリから乗り換えたの?」 イナギリかわいそー。


トオマスは苦しげな表情。


「いや、決してそういうわけでは」


ミカが苛立たしげに口をはさむ。


「ト・オ・マ・ス。 無駄話はよしてって言ったでしょ?」 これだから子供は嫌なの。


「ごめんなさいミカさん」 怒らないで。


ミカは主君としてトオマスを完全に支配下に置いていた。


           ◇❖◇


トオマスは今回の任務の説明を始める。


「僕らの仕事は、街道をやって来るラットリングの大群を叩くことだ」


ゲータレード市を通過したラットリングの "嵐" は、街道を通ってコンデコマ市へやって来る。 街道が歩きやすいので自然と街道に集まる。 川の流れのように街道を通る。


「今のところラットリングの流れはチョロチョロ程度で、"写真持ち込み" のハンターが退治している。 でも間もなく500匹のラットリングが洪水のように押し寄せる」


そうなれば写真持ち込みハンターには荷が重い。 こずかい稼ぎを目論む引退ハンターや若者あるいは零細個人事業所のハンターは、統率が皆無だし個々の能力も低いから。


「そこで僕らの出番だ」


今回の公共事業に参加するのは10数名。 いずれも大手事業所の所員。 公共事業としてのラットリング退治はアリスも嘆いたように実入りが薄いが、事業所のイメージアップのため大手事業所は、市当局の求めに応じ所員を出す。 『竜の巣』は訓練を兼ねて、この仕事をトオマスに割り振った。


            ◇


大人しく説明を聞くアリスとミツキ。 しかしトオマスには、それが不満。 それだけでは不十分だ。 もっとヤル気になって欲しい。


「いいかいミツキくん、タカラズカさん」


トオマスの口調が熱を帯びる。


「今回の仕事はとても重要なんだ。 僕らの双肩にコンデコマ市の浮沈がかかっている」


ミツキとアリスが来る前のブリーフィングで市役所職員は、ハンターたちの意欲が乏しいと見て激励の訓示を行った。 多くのハンターは訓示を聞き流したが、トオマスは律儀に聞き届けた。 そして発奮した。


トオマスは切なそうな目をミツキとアリスに向ける。 彼は待っている。 ミツキかアリス、できれば両方が話の続きを促すのを待っているッ!


親切心を発揮したのはミツキだ。


「どう浮沈がかかってるの?」


トオマスはひとつ頷き、返答の奔流を吐き出す。


「ウム、コンデコマ市はラットリングの "嵐" の吹き溜まりだ。 わが市の山野に入ったラットリングは山の幸を食べ漁って増殖し、農村地帯を襲う。 知っての通りコンデコマ市の主要産業は農業。 だからラットリングは死活問題。 僕らは何としても、この地点でラットリングを殲滅せねばならない。 このとき大事なのは極力ラットリングを逃さないコト。 ラットリングは、数が一定数を超えると増え方が急激に高まるんだ。 君たちの奮闘を期待するッ」


語り終えたトオマスの目が底光りしているので、トオマスを刺激しないようミツキとアリスは無難に受け答え。


「なるほどー」「がんばろーね」


後ろ向きな態度、茶化すような発言。 そういうのはトオマスの激発を招く恐れがある。 そう判断した。

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