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クイックリングちゃんドロップキック!  作者: 好きな言葉はタナボタ
第八章

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第97話 勇姿

家を出たミツキとアリスは、コンデコマ市とゲータレード市をつなぐ街道を歩く。


「お腹が空いてきた」


「あたしも」


ミツキの訴えにアリスは同調するのみ。 クルチアならこんなとき、ナップサックからバナナの1本でも出してくれたものだが。


街道には2人の他に誰もいない。 クルマも通っていない。 今日、街道は通行止めだ。 ラットリング予報が "嵐" の予報で、街道を大量のラットリングが通過するから。


その大量のラットリングの退治が、今回の仕事。 依頼主はコンデコマ市当局。 放っておくと際限なく増えるラットリングに対処するため市当局は、"嵐" の予報の発生頻度が一定水準を超すとラットリング退治を公共事業として執り行う。


「サイテーよね、この仕事」


アリスが仕事の悪口を言い始めた。


「そう?」


「日給100万モンヌは20匹倒すのを想定する金額でしょ? でもアタシは強いから、きっと50匹とか倒しちゃう。 そうすると1匹あたり2万モンヌ。 写真持ち込みの底辺ハンターと変わらないじゃない」


「20匹だけ倒せば?」


「あたし仕事に手を抜かない主義なの」


遅刻はしても手は抜かない。


           ◇❖◇


街道を進むと、目印の(やぐら)が見えてきた。 高さ7mの櫓は移動式で金属製。 市役所の職員が櫓に上がり、ハンターを監督する。


「ヤレヤレ、どうにか2時間の遅刻で済んだ」


「そうね」


「オレがいなかったら、4時間は遅刻してたよね」 ね?


「うっさい」


「アリスってさあ、いつもこんな感じで仕事してるの?」


アリスは答えず、プイ と横を向いた。


           ◇❖◇


ミツキは櫓の近くに立つ男性に声を掛けることにした。 槍で武装しているが、市役所職員が放つ特有の雰囲気は隠せない。


「すいませえん、ラットリング退治に来たんですけど」


「ラットリング退治? 君が?」


ミツキは見るからに子供でありジャージであり、装備は腰に帯びる短剣のみ。


「こう見えても、『セレスティアル・ドラゴンズ』のパートナーです」


市役所職員はミツキの後ろに控えるアリスの重装備をチラリと見て、ミツキに視線を戻す。


「ひどい遅刻だぞ」


アリスが明らかにハンターだからミツキもハンターだろうと察し、叱ることにした。


「ハイ、すいません」


「高いカネを払うんだ。 色々きっちりやってもらわないと困る」


「ハイ」


叱られながらミツキは心の中でグチる。


(クソッ、なんでオレが怒られるんだ)


アリスは櫓に近づく頃から、ミツキから一歩下がった位置をキープしていた。 だから市役所員に声を掛けるのも、市役所員のお叱りの矢面に立つのも、自然とミツキが引き受ける羽目になった。


(くそう。 クルチアなら...)


クルチアなら常にミツキの一歩前にいて、こういうときは率先して頭を下げてくれた。 そんなときミツキは遠くの空を眺め、クルチアの求めに応じて会釈程度に頭を下げるだけで良かった。


アリスは叱られるミツキを見ながら、仲間がいる幸せを噛み締める。


(エヘ♡ 全部ミツキくんが引き受けてくれるから楽チン)


           ◇❖◇


市役所員がわざとらしく溜息をつく。


「ハァ、君らが遅刻したせいで、同じ説明を繰り返さなきゃならん」


「説明って?」


不用意なミツキの発言に市役所員が噛みつく。


「仕事内容の説明だよ! 説明しなきゃ君らに分からんだろう?」


突然の大声にミツキは ビクリ と体をすくませ、アリスは市役所員を睨みつける。 市役所員がアリスを睨み返し険悪な雰囲気になりかけたそのとき、背後から親切に申し出る者がいるッ!


「僕が彼らに説明しておきましょう」


ミツキが振り返ると、そこに立つのは見覚えがある長身の若者。 トオマスだ。『竜の巣』に泣く泣く連れ去られたトオマス・キングズブリッジの勇姿が、そこにあった。

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