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クイックリングちゃんドロップキック!  作者: 好きな言葉はタナボタ
第七章

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第93話 不安

決勝戦でクイノスケがアリスに勝利し、第576回ダレノガレ武術大会はクイノスケの優勝で幕を閉じた。


閉会式が終わり混雑する会場で、クルチアとミツキは所在なさげに(たたず)む。 ミツキとの交渉権を獲得したのは『バスターズ』で間違いないはず。 でもクルチアは、自分から『バスターズ』のもとへ押しかけるのを躊躇(ためら)っていた。


(もしもミツキの敗退で『バスターズ』がミツキを獲得する気を失っていたら? そんなハズはない。 ミツキは実力で負けたわけじゃないから。 でも...)


クルチアは弱気になっていた。 優勝を逃したミツキが市民権を獲得するには『バスターズ』の慈悲にすがるしかない。 そんな心境だ。


クルチアはミツキと手をつなぎ、『バスターズ』が2人を見つけてやって来てくれるのを待つ。 来てくれなかったらどうしよう。 いやそんなはずは...


           ◇❖◇


人が減り見通しが良くなり始めた会場。 しかし未だ『バスターズ』はクルチアとミツキの前に姿を現さない。 そう言えばシノバズ侯爵からも音沙汰がない。


(ミツキが優勝しなかったから見放された? 反則をしでかした私に怒ってる? ああ、いっそロイヤル控室に呼び出されたい)


世界に見捨てられた気分。 クルチアの不安そうな顔を見上げて不安そうにするミツキ。 汗ばんだ手をつなぐ2人の背中を、元気な声が打つ。


「ミツキくん!」


アリスの声だ。


振り返ったクルチアとミツキに、アリスはお悔やみの言葉を述べる。


「残念だったねミツキくん。 優勝できなくて」 まさかイナギリが反則するとは。


「アリスちゃん... あ、準優勝おめでとう」


「ありがと。 それよりさ―」


アリスはいそいそと、懐から折りたたまれた紙を取り出す。 契約書である。 長らく持ち歩いて、ヨレヨレになり始めている。


「ミツキくん、この契約書にサインをお願いできる?」 あたしと契約してくれるよね?


ミツキに代わってクルチアが答える。


「アリスちゃん、前にも言ったけどミツキは市民権を持ってないから契約できないの」


アリスには退散してもらう所存。 アリスがオファーする5千万モンヌでは、1億モンヌの市民権を買えない。


アリスは キッ とクルチアを睨みつける。


「この大会で市民権をもらえるんでしょ? ミツキくんが教えてくれたの」 あんたは教えてくれなかったけど。


「それはミツキが優勝すればの話でしょ?」 もう、ミツキったら。 いつの間に。


「えっ、そうだっけ?」


アリスに確認を求められ、ミツキが頷く。


            ◇


失意に肩を落とすアリスを見て、クルチアの心は軽くなり始める。


(アリスちゃんは相変わらずミツキと契約したがってる。 それなら『バスターズ』もきっと...)


敗退してもミツキは、スカウトする側にとって垂涎(すいぜん)の的なのだ。 しかし不安は残る。


(『バスターズ』は、ミツキの市民権が無いのを知ってるのかしら?)


もしも知っていれば、市民権を逃したミツキと契約したがらない恐れがある。 契約の履行を強制できず契約相手として適さないから。


(帝国のエージェントはミツキに市民権が無いって知ってた。 名門事業所はどうなのかな)


クルチアはミツキとアリスに口止めしておくことにした。


「これから『バスターズ』の人が来るはずだけど」 来ると思うんだけど。「ミツキの市民権のことを話題にしないでね」


ミツキは頷き、アリスは恨みがましい目でクルチアを見る。


「つまりイナギリは、私には契約して欲しくないけど『バスターズ』とは契約したいわけね」


クルチアは率直に謝る。


「ごめんなさい。 ミツキの市民権を買うのに1億モンヌが必要なの」


「ふ~ん、契約金で市民権を買うんだ」


アリスは目を伏せ、何かを検討し始めた。


           ◇❖◇


見覚えのある男性2人がクルチアたちに向かって一直線にやって来た。


クルチアの体に緊張が走る。


(来た!『バスターズ』の人たちだ)


『バスターズ』の所長と副所長である。 2人ともクルチアと面識がある。 副所長ゴシャデン・ユタカはミツキの交渉権の話を持ってきた人物。 所長はトオマスが『バスターズ』のコンテストに出場した折に、クルチアの隣で観戦した。


            ◇


やって来た所長はミツキに握手を求める。


「初めましてカスガノミチくん。 私の名はミクリヤ・ドラジロウ。 ハンター事業所『バスターズ』の所長だ。 ゴシャデンから話を聞いていると思うが―」


ミツキに挨拶を済ませたドラジロウは、いそいそとクルチアの手を握る。


「会うのは二度目だね、イナギリさん。 驚いたよ、まさかキミがカスガノミチくんの事業所の所長だったとは。 ナイトリングの主君にしてクイ混じりの雇い主とは恐れいる」


ドラジロウは予選を観戦しなかったので、トオマスの試合の折にクルチアと会ったときには、クルチアを『いなぎりハンター事業所』の者と知らなかった。

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