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クイックリングちゃんドロップキック!  作者: 好きな言葉はタナボタ
第七章

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第88話 採用

同じ頃、ダレノガレ競技場の控室の1つで、名門ハンター事業所『竜の巣』の所長と所員がトオマスを話題にしていた。


「しかし所長、キングズブリッジに既にマスター(主君)がいたらどうします? 使いづらいですよ」


"キングズブリッジ" はトオマスの名字。


「奴はすでにマスターがおるよ。 しかし若い娘だから真のマスターではないはず。 思春期のナイトリングは忠誠心と恋心を混同すると言われる。 ウチのトップクラスに引き合わせ、本当の忠誠に目覚めさせてやるさ」


所長は別の所員にトオマスの動向を探らせていた。 だからクルチアがトオマスの主君だと知っている。


「なるほど、鞍替えさせるわけですね。 それはそうと、ナイトリングはマスターのため死にもの狂いで戦うのだとか」


「うん、回復力が高いから酷使もOKだ。 もっとも今のままトップチームに編入しても使い物にならん。 入所後に鍛えてやらんとな」


「でも所長、キングズブリッジがコンテストに来なければどうします? もう『バスターズ』が採用したかも」


「『バスターズ』は奴を "合格" にしただけで "採用" はしていない。 "実力主義" の体面を(おもんばか)り、明日の二次審査を経て "採用" する腹積もりだ。 だがウチは違う」


「ウチは甘くないですからね」


「ああ、容赦なく今日 "採用" だ」


          ◇❖◇❖◇


クルチアら6人は食堂を後にして、コンテスト会場である第2屋外競技場へと移動する。 人数が増えたのはサクラが加入したから。 ミツキと一緒にいるアリスを見て、サクラはミツキを守る必要を感じた。


『竜の巣』のコンテストに向けて、トオマスは意気込みのほどを語る。


「どう転んでもイナギリさんと同じ事業所に所属できると決まったからね。 腕試しに専念できる」


いっぽうクギナはアクビ。


「ファーァ、()みぃ」


トオマスはそれを見咎める。


「どうしたクギナ? アクビなどして」 気持ちが(たる)んでいるのでは?


「いや、食後だし...」


家に連れ戻されるのを泣いて嫌がったクギナだが、今やコンテストへの情熱を失っている。 クギナの目的は名門事業所への入所。 だから『バスターズ』のコンテストで自分の力が足りないと知ったうえ、『金の盾』に入れる可能性が生じたことで、すっかり気が抜けてしまった。


「オレも眠い」


ミツキが言い出した。


クルチアが面倒くさそうな顔になる。


「えー、あんたも?」


「どこかで一眠りしようよ」


コンテストに出場しないミツキは、クルチアに付き合って今この場にいるに過ぎない。


「困ったわね。 あんたを1人で寝かせとくと持ち去られそうだし...」 軍とか帝国とかクシナダさんの同類に。


「眠るオレをクルチアがオンブするとかは?」


「やだカッコ悪い。 あんたは恥ずかしくないの?」 プライド とかは?


静かに首を横に振るミツキを見て、サクラが申し出る。


「ミツキが眠る間、私が見張っていてやろう」


「助かりますけど、ミツキをどこで眠らせるんです?」


「『金の盾』で控室を借りておる。 そこで眠らすとよい」


クルチアたちは二手に分かれた。


           ◇❖◇


クルチアとトオマスとクギナは『竜の巣』のコンテスト会場にやって来た。


トオマスとクギナはエントリーがほぼ同時だったので、同時に試合。 クルチアはどちらを応援するか困ったが、クギナの勧めによりトオマスを応援することに。


「がんばれー、トオマス先輩!」


クルチアは〈気〉を放出しないよう気をつけて応援に励む。


トオマスの対戦相手は中年の男性。 コンテストの選手としては(とし)かさ。 顔の日焼けとシワに、彼が野外で過ごした年月の長さが現れる。 実はこの男、『竜の巣』のベテラン所員である。 彼の役目は、トオマスの力量をチェックしてナイトリングであると確認し、その上で負けること。


「双方、武器を構えて」


審査員が指示を出した。 審査員と男は同僚。 でも視線を合わせず他人のフリ。


「始めっ!」


こうしてトオマスの試合が始まった。


           ◇❖◇


ガシィンッ! 男はトオマスが振るった長剣を自分の剣で受け止める。


(うむっ。〈気〉を使わずしてこのパワー。 キングズブリッジはナイトリングで間違いない)


かわすのは簡単だったが、あえて受け止めた。


            ◇


男はそこから自然なピンチを演出し、あれよあれよと言う間にトオマスの剣を喉元にピタリと押し当てられた。


「参った」


男は降参し、審査員が宣言する。


「151番、採用!」


トオマスが訝しげに、確認を求める。


「いま "採用" と言いましたか?」 "合格" の間違いでは?


勝ったことを喜ぶ気持ちより疑問が強い。


審査員は平然と答える。


「そう、君は採用だ。『竜の巣』の一員となる実力があると認められた。 採用された人は入所手続きがあるので、あそこの人の指示に従ってください」


審査員が指差す先では、『竜の巣』の所長がニコニコ顔でトオマスに手招きしている。 手ぐすね引いてトオマスを待ち受けている。


「いやしかし...」


突然の事態に戸惑うトオマスの背中に手を当てて、審査員はトオマスを試合場の傍らで待つ所長のほうへ押しやった。


「では所長、後はよろしくお願いします」


           ◇❖◇


試合場を降ろされたトオマスにクルチアは駆け寄る。


「先輩、採用されちゃったんですか?」


「どうもそうらしい」


答えるトオマスの顔は深刻だ。 なにしろ『竜の巣』も『バスターズ』と同じく採用通告と同時に契約が発生する。 コンテストの申込書にサインした時点で、トオマスはそのことに同意してしまっている。


「じゃ、じゃあ先輩は『竜の巣』に―」


クルチアの言葉の途中で、『竜の巣』の所長が2人の間に割り込んできた。


「邪魔するよ。 彼に話がある」


「あなたは?」


所長はトオマスに手を差し出した。 握手を求めている。


「『竜の巣』の所長、ヒツマブシ・ユタカだ。 まあひとつ、よろしく。 我々は長い付き合いになる」


トオマスが仕方なく差し出した手を、ヒツマブシはぎゅっと握った。


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