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クイックリングちゃんドロップキック!  作者: 好きな言葉はタナボタ
第七章

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第81話 掃除係

注文を済ませたアリスは、クギナを(なだ)めるクルチアと、離れたテーブルでサホウと話し込むサクラを盗み見て、隣に座るミツキに目を戻す。


(シメシメ 今なら落ち着いて話ができそう)


アリスは懐から折りたたまれた紙面を取り出した。 アリスのお手製の契約書だ。 大手事業所はミツキ獲得に関して紳士協定に縛られ、大会終了までミツキに接触できない。 だから今のうちにミツキと契約しておく。 さすれば、後から大手事業所がどれだけの高額を提示しようと手遅れ。 ミツキはアリスの事業所『セレスティアル・ドラゴンズ』に入所する。


            ◇


アリスは指でミツキの脇腹をつつき、ヒソヒソ と小声で話しかける。


「ねえミツキくん」


隣の隣に座るクルチアに気付かれないうちに、ミツキに署名させてしまいたい。 クルチアが割り込んで来るとミツキに署名させられない気がする。 今ならクルチアはクギナを(なだ)めるのに忙しい。


つつかれたミツキは、すぐに振り向いた。 彼はクギナを宥める作業に参加せず、背筋を伸ばし食堂のメニューを熱心に眺めていた。


「あのね、ここにサインして欲しいの」 ペンはこれを使ってね。 ハイ、どうぞ。


アリスは手書きの契約書を コッソリ テーブルの上に広げる。


「何これ?」


アリスが小声なので、ミツキも小声。


「契約書。 ミツキくんにウチの事業所に入って欲しいの。 契約金は5千万モンヌでどう?」 あ、金額を記入しとくね。 ハイ、M50,000,000。


おお、M50,000,000。 これまで縁がなかった桁の金額を目の前に突きつけられ、ミツキは本気で検討し始めた。


            ◇


ミツキが『セレスティアル・ドラゴンズ』に抱く印象は悪くない。 ミツキはサクラからアリスの事業所『セレスティアル・ドラゴンズ』のことを聞いていた。 ヒトコトで言えば零細事業所。 所員はアリス1人で、最近は客足も遠のいている模様。


サクラはアリスの事業所をけなそうとして零細ぶりをミツキに伝えたが、サクラの陰口は逆効果。 閑静(かんせい)を好むミツキに良い印象をもたらしていた。


            ◇


乗り気になったミツキは、まずクルチアの処遇を尋ねる。


「クルチアも一緒でいい?」


「え~、イナギリも?」


アリスはクルチアの加入に否定的だ。 イナギリが加入すると精鋭事業所『セレスティアル・ドラゴンズ』が精鋭じゃなくなってしまう。


「イヤなの?」


「イヤっていうか...」 困るの。


「なんでイヤなの?」


「戦闘力が残念っていうか...」 ぶっちゃけ弱すぎるの。


「そうなの?」


ミツキが高速で動けば、誰もが一様(いちよう)に彼より弱い。 また、戦闘技術に限ればミツキはクルチア以下なので、他人の技術の巧拙を判別できない。 だからミツキには世間的な強さのピラミッドにおけるクルチアの位置がよく分からない。


「そうなの」 底辺レベルなの。


「じゃあ事務員とかは?」


「ん~、事務員は要らないかな」


「掃除係とか」


「それなりの待遇になっちゃうけど?」 時給600モンヌぐらい。


「それでいいよ」


クルチアが一緒ならミツキは満足だ。 他のことは重要ではない。 クルチアの幸福にまで気が回らない。


           ◇◆◇


見事にクギナを(なだ)め終えたクルチアの耳に、ミツキの声が聞こえてきた。


(掃除係? なんの話かしら)


興味をそそられたクルチアは、小さな背中を丸めてヒソヒソ話をするミツキとクルチアに目を向ける。


「あなたたち、なんの話をしているの?」 私も混ぜて。

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