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小さな男の子が年上の幼なじみ(♀)に面倒を見てもらう話  作者: 好きな言葉はタナボタ
第一章
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第8話  ヤマダくんのコミュニティー

レストランを出ると、もうすっかり夜。 魔法の街灯に照らされる夜道を歩き、3人はコミュニティーにつながる地下道へやって来た。 ゲータレード市内から各コミュニティーへ通じる地下道だ。


守衛が守るゲートをくぐり、3人は地下への階段を降りる。 地下道は舗装され、魔法の照明が灯っている。 クルチアとミツキはヤマダくんの後について地下道を進む。


「こっちだよ」


3人は地下道の支道の1つに入った。 しばらく歩いて階段を登ると鉄扉に行き当たる。 鉄扉の取手に手をかけて、ヤマダくんが注意を促す。


「気を付けて。 入ってすぐラットリングに出くわすかも」


「それなら私が」 開けましょう。


クルチアの申し出に、ヤマダくんは目に見えてホッとする。 頼もしいなあ、イナギリさん。


クルチアはヤマダくんに代わって鉄扉を押し開いた。


           ◇◆◇


地下道を出たクルチアは周囲にラットリングがいないのを確認し、新鮮な夜風で深呼吸。 夜風に混じり何かの匂いが感じられ、クルチアは鼻を スンスン。 どことなく香ばしい匂いだ。


「何この匂い? 干物?」


ミツキは物珍しそうに周囲を見回す。 まばらに立つ街灯の頼りない明かりに照らされて、道路に区切られた区画に10軒ほどの民家が建ち並ぶ。


「あんたコミュニティーに来るの初めてなの?」


クルチアが尋ねるとミツキは頷いた。 彼はコミュニティーに来たことが無かった。 コミュニティーに住む友人がいないからだ。 当人にその自覚は無いが、ミツキは友達が少ない。


「ひとまず僕の家に行こう。 父さんに君のことを話さなくちゃ」


3人はヤマダくんの家へ向かった。


           ◇◆◇


「ただいまー」


家に上がるヤマダくんに続いて、クルチアとミツキも靴を脱ぐ。


「お邪魔します」


クルチアはきちんと挨拶し、脱いだ靴も揃えた。


           ◇◆◇


ヤマダくんに先導され辿り着いた居間では、彼の両親が団らん中だった。


ヤマダくんの父親すなわちヤマダ父がヤマダくんに尋ねる


「その子らは?」


「こちらはイナギリさん。 ぼくの同級生でハンターなんだよ。 ラットリング退治を引き受けてくれたんだ」


ヤマダ父は訝しげな目をクルチアに向け、息子に問い質す。


「お前の同級生? それなら高校生じゃないか。 本当に退治できるのか?」


父親の失礼な態度にヤマダくんは慌てた。


「父さん、失礼だよ!」


            ◇


ヤマダくんは今夜の出来事をヤマダ父に語った。 ハンター料金が高騰していたこと、イナギリさんが同級生のよしみで今晩すぐラットリングを退治してくれること、イナギリさんに夕食をご馳走してもらったこと、大葉入り餃子が大変美味だったこと。


「―というわけさ」


ヤマダくんの話を聞き終え、父親は息子の認識を共有した。 目の前に立つ赤毛の女の子は、ハンターが引っ張りダコの現況にあってこのコミュニティーを救うことを選んでくれた貴重なサービス提供者なのだ。


ヤマダ父は居住まいを正し、ちょこんとクルチアに頭を下げる。


「イナギリさん、でしたかな。 さきほどは失礼なことを言って申し訳ない。 ささ、お座り下さい。 モンスター退治の前にお茶でもどうぞ」


           ◇◆◇


クルチアとミツキは勧められたソファーに座った。 ヤマダ母がクルチアとミツキの前にお茶の入った湯呑を置く。 粗茶ですが。


出されたお茶を一口すすり、クルチアは状況を尋ねる。


「コミュニティーに侵入したラットリングについて教えてください」


ヤマダ父が答える。


「今日の昼にはタデナシさんの家でスルメを食べている様子でした。 まだ食べている最中かもしれません」


「スルメ? というと、あのイカを干した...」


「さようです」


ヤマダ父は語り出す。 ラットリングがコミュニティーに侵入した経緯を。


「3日前のことです。 タデナシさんの家にスルメ1年分が送られてきましてね。 なんでも懸賞に当たったとかで。 馬鹿げた量です。 スルメの賞味期限は半年ですから。


「そして昨日、コミュニティーの外壁の向こう側から何やらひっかく音がし始めました。 ハシゴをかけて壁の上から向こう側を覗くと、音の原因はラットリングでした。 壁の老朽化した部分を壊して侵入したラットリングの群れは、タデナシさんの家にまっしぐら。 家の壁を破壊して押し入りました。


「タデナシさん一家は怪我を負いながらも脱出に成功。 無事に保護されました。 タデナシさんによると、ラットリングの目当てはスルメ。 ラットリングは大量のスルメが放つ匂いに引かれやって来たのです」

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