第79話 合格の理由
続く2回戦で、クギナもトオマスも敗北した。『バスターズ』の2回戦は残り物をさらう作業だが、参加者の平均的なレベルは1回戦より上がる。 その平均的な強さにクギナもトオマスも及ばなかった。
ところがである。 トオマスは "合格" を宣言された。 負けたのに "合格" した。
トオマスの試合を観ていた他のコンテスタントから不満が噴出する。
「310番は惨敗。 なのに何で合格なんだ?」「えこひいきだ!」「見損なったぜ『バスターズ』」「実力主義じゃなかったのか」
未熟なコンテスタントの目から見てさえ、トオマスは合格水準に達していなかった。 トオマスの合格に不純なものを感じたのだ。
◇◆◇
合流したクルチアたち5人。 トオマスの "負けて合格" にクギナは大きなショックを受けた。
「"負けて合格" だと!? ちくしょう、どんなカッコいい負け方をしたんだ?」
エキサイトするクギナと対照的に、トオマスの口は重い。
「...喉元に剣を突きつけられた」
「いや、そこまでのプロセスだよ」
「プロセスなど無い。 それだけだ」
「そんなはずねえだろ。 "負けて合格" だぞ! カッコいいはずだ」
詳細を知りたがるクギナを前に、トオマスは沈鬱な表情で口を閉ざす。
見るに見かねてクルチアが説明する。
「あのねオウリンさん、試合開始直後に相手が動いて、気付けばトオマス先輩に剣が突きつけられてたの」 だから本当に、それだけなの。 特にカッコ良くなかったの。
◇
クギナは不平を喚き散らす。
「そんな負け方で、どうして合格なんだよ!」
「落ち着けクギナ。 ぼく自身、自分の合格に納得してない」
トオマスは元気がない。
(あの試合の、どこをどう見れば僕が合格だと言うんだ)
『バスターズ』のコンテストでは "負けて合格" が珍しくない。 でもトオマス自身、さっきの試合の自分が合格水準に達していたとは到底思えない。
(僕は何もできなかった。 完敗だった)
試合を回想するトオマスの拳が、固く握りしめられる。 相手は数段格上だった。 トオマスは痛感した。 こういう人物こそ名門事業所にふさわしい人材なのだと。
(僕は弱い。 名門事業所のレベルに遠く及ばない。 こんなことでは『金の盾』にも... おおマイ・レディー)
◇◆◇
「トオマスが合格したのは、ナイトリングだからっしょ」
口を開いたアリスに、クギナがいち早く注目する。 でもクギナはアリスに対する口調で困っているので、誰かが話を促すのを待つ。
促したのはトオマスだ。
「僕がナイトリングだから? 詳しく聞かせて欲しい」
アリスは考えながら話し出す。
「えっとねえ、事業所がナイトリングを好んで入所させる理由は2つ... いや3つかな」
「その3つとは?」
「エット、まずナイトリングは人間より強いでしょ? トオマスはまだ弱いけど」
トオマスは頷いた。
「たしかに」僕は弱い。
クギナが我慢しきれず口を挟む。
「でも、それならオーク混じりだって...」 強いと思います。
「オーク混じりはイメージがあんまり良くないでしょ?」
「そっか...」 そうですね。
クギナは納得した。 オーク混じりのイメージの悪さは重々承知。 自分がそれを体現している自覚も多少はある。
「あと、ナイトリングはイメージがいいじゃん? 正義の騎士って感じだし、幸運を運ぶって言われてるし。 だから事業所の宣伝に使えんのよ。 それが2つ目の理由ね」
◇
どことなく気まずい雰囲気のまま皆が黙ってしまったので、クルチアが3つ目の理由を尋ねる。
「じゃあ、3つ目の理由って?」
「妖精騎士団とのコネに期待ってとこかな」
「コネ?」
「妖精騎士団の職人ってさ、珍しい物を作ってるじゃん。 カバンとか軟膏とか。 そういうのを優先的に買えちゃうんじゃない? トオマスのコネで」
アリスは目でトオマスに尋ねた。 その辺のトコどうなの?
「いや僕にはなんとも... 父なら知ってるだろうけど」
「妖精のカバンかー。 注文してから10年待たされるらしいわね」
妖精のカバンは異空間につながっていて、いくらでも物が入る。 収納の限界は持ち主の記憶力。 持ち主が入れたコトを忘れた物は取り出せない。
◇
「トオマスが『バスターズ』に入所したくないなら、明日の二次審査には顔を出さないことだね。 きっと採用されちゃうから」
そう言ってアリスは話を締めくくった。




