第78話 疑わしい声援
長く辛い試合がようやく終わった。 そのはずなのに、審査員の様子がおかしい。 トオマスの "合格" を宣言しないのはともかく、2回戦進出を告げもしない。
審査員は何やら迷う様子でクルチアを見たすえ、口を開く。
「お嬢ちゃん、君の声援が試合に影響した疑惑がある」
「え? でも声援って...」選手を励ますのが目的ですよね? 試合に影響して当然では? 「声援は反則なんですか?」
「反則ではないよ。 でも君の声援は特殊というか... そこを明確にするため、いくつか質問させてもらう」
◇
審査員はトオマスに尋ねる。
「310番、君は〈真気〉を使えるか?」
トオマスはキョトンとした顔。
「"しんき" とは?」
何を尋ねられたのかサッパリわからない。
「知らないか。 じゃあ問題ない」
審査員はトオマスを五里四方にわたる霧の中に放置して、クルチアに向き直った。
「じゃあ、お嬢ちゃんの声援が放っていた〈気〉は問題ではなかったとしよう」
クルチアはカサブタを剥がされた気分。
「...わたし放ってました?」 また出てたの? もーやだ、こんな体。
「うん放ってた。 でも〈真気〉の使い手以外には影響しないレベルだからセーフだ」
「セーフですか」 良かったですー。
「うん。 でもね、そうすると別の疑惑が持ち上がるんだ」
◇
審査員は再びトオマスに尋ねる。
「ずばり尋ねるが、君はナイトリングか?」
審査員は310番の筋力が人並み外れるのを見抜いていた。 筋力が強い理由として〈気〉を考えたが、トオマスはそれを否定した。 だから推測した。 トオマスはナイトリングだから力が強いのでは?
トオマスは肯定する。
「そうです」
隠す必要はない。
審査員は満足げに頷く。 ふふ、私が睨んだ通りだったな。
「そうすると、もしかして、そっちのお嬢ちゃんが君のマスター?」
トオマスは誇らしげに胸を張る。
「はい」
審査員は考え込んだ。 う~む。 そして顔を上げて宣言する。
「では今の試合は無効とする。 ナイトリングとマスターの間には強い結びつきがあると聞く。 お嬢ちゃんの声援が310番に過度に有利に働いた懸念を払拭できない」
せっかく勝った試合が無効!? 私の声援のせいで? クルチアは尋ねずにいられない。
「試合が無効だと、どうなるんですか?」
「再試合だ。 それでいいですよね、所長?」
審査員はクルチアの隣に佇む50代男性に尋ねた。 男性は『バスターズ』の所長だったのだ。
「うむ」
所長が了承し、トオマスは再び311番と死闘を繰り広げることになった。
◇◆◇
審査員はクルチアに指示した。 試合場から離れたところで、背中を向けて立ってなさい。 クルチアを試合に影響させないための措置だ。
試合場に背を向けて、クルチアは背後の試合場の様子に耳を澄ませる。 トオマスは言ってくれた。 "そんな顔をしないで欲しいマイ・レディー。 君の応援がどれだけ僕の力になったことか。 心配しなくていい。 僕は再試合に勝利する" と。
(でもさっきの試合、先輩はギリギリで勝った。 私の声援のお陰で勝てたって言ってた。 私の声援がないと...)
クルチアは両手を胸の前で組み合わせてギュッと目をつぶり、トオマスの勝利を神に祈る。
(お願い神様、トオマス先輩を勝たせてください!)
◇
始まった再試合は、比較的すぐに勝負がついた。
審査員がトオマスの勝利を宣告する。
「勝負あり! 310番、2回戦に進出」
トオマスの主な勝因は成長力。 トオマスは素人同然だから試合1つで学ぶことが多く、最初の試合を経て格段に強くなっていた。 クルチアの声援は補助輪だった。 再試合でトオマスは、補助輪がなくても311番に勝つまでに成長していた。




