第73話 負けて合格
『竜の巣』と『金の盾』のコンテストに申し込み終えて、クルチアたちは『バスターズ』のコンテストへ戻ってきた。 出番まで1時間以上あるが、特にやることも無い。 クルチアたちは手頃な場所に座り込み、試合を見物し始めた。
『バスターズ』のコンテストは参加者が多いので、割り当てられた16の試合場すべてを使用。 そこかしこから元気な声が聞こえる。
「とうっ!」「勝負あり!」「えいっ!」「参りましたっ!」「そいや!」「そこまで!」「参った!」「降参だ!」「せいっ!」
やがてクルチアは気づいた。
「ねえ、やけに降参する人が多くない?」
クギナも同感だった。
「私もそう思ってた」
ミツキが厳かに宣言する。
「この謎の現象を "参った祭り" と命名しよう」
「まあ、ピッタリの名前」 すてき。
クルチアが一も二もなく賛成した。 ミツキのネーミング・センスに一目置く彼女は原則として、ミツキの命名を受け入れる。
「だろ?」
仲良く頷き合うミツキとクルチアに、クギナは疑わしそうな視線を投げかけた。
「そうか?」
◇◆◇
「でも、どうして参った祭りが開催中なのかしら?」
クルチアの疑問の答えは、アリスが知っていた。
「実力のない奴らが二匹目のドジョウを狙ってんのよ」
「どういうこと?」
「前に『バスターズ』のコンテストで、"参った" で合格した人がいたの」
「"参った" で合格?」
◇
皆にせがまれ、アリスは説明を始めた。
「コンテストの一回戦で、実力者同士が当たった。 睨み合いのすえ一方が "参った" を宣言。 けど審査員は双方を合格にした」
クギナが驚嘆の声を漏らす。
「負けて合格...」
「驚くべきは、両者が1合も剣を打ち合わせなかったコト。 剣を合わせぬ読み合いの果てに、一方が自らの力量が劣ると察して "参った"。 その洞察力を認めた審査員が、降参した方も一次審査を合格にしたの。 これが参った祭りの起源だよ」
アリスが披露した逸話に感動し、一同はしばし沈黙する。 特にクギナはひどく感銘を受けた。 目をうるませ、ホゥ と憧れの溜息をついている。 "参った" で合格。 カッコいい...
「『バスターズ』のコンテストじゃ、負けて合格はタマにあるケドね。 勝ち進めば合格じゃないから。 1合も剣を打ち合わせなかったってトコがカッコいいの」
アリスの話に、クルチアは疑問点を見いだした。
「勝ち進めば合格じゃないって?」 どういうこと?
「『バスターズ』のコンテストは、他のコンテストと違って似非トーナメント。 トーナメント表めいたモノがいちおう用意されるけど、実はトーナメントじゃないの」
「ということは...」
アリスは一息に説明する。
「他のコンテストはトーナメントで勝ち残れば合格だけど、『バスターズ』はそうじゃない。 審査員が試合の内容を見て、実力を認めれば合格ってワケ。
「『バスターズ』にとって2回戦や3回戦は、1回戦で抜きん出た力量を示せなかった残りモノの中から使えそうな二線級を掬い出す作業。 だから、勝ち進むのは必ずしも良いことじゃないのね。 再試験のチャンスをもらえたってだけ。 入所後に大物を任されるような優秀なのは一回戦で一発合格」
「試合の勝敗じゃなく内容、か。 わたし好みだぜ」
『バスターズ』はクギナに気に入られてしまった。




